#22

「こんな子供だまし、さっさと終わらせましょう」

「まぁ、所詮は全年齢だからね。問題は相手チームより早く出られるかだよ」


 俺を挟んで歩く二人はそんなことを言ってこの迷路を侮っていた。

 確かに迷路はそれほど難しい仕様にはなっていないっぽい。周りの背景は洞窟を模しているようで、少々薄暗い感じはするが、十分に先まで見えるので頭の中でマッピングできるし、小学生以上なら優に突破できるだろう。


 しかし、問題はその先。

 俺は待ち受けるであろう難関に期待を膨らませる。


 すると突然、弥白先輩が立ち止まった。


「あれ? ここ、通らなかったかい?」

「え? そんなはずは……えっと、こっちから来て……あれ?」


 弥白先輩と同じく姫ちゃんも首を傾げる。

 そこで俺もある懸念がうまれた。


「もしかして……この迷路、めちゃくちゃ難しい?」


 事前情報では、迷路の問題が難しく、なかなか突破できないということであったが、どうやらこの迷路……それだけじゃないようだ。


「ふむ。これは本気で取り組まないと非常口からの脱出という不名誉極まりないことになりそうだね」

「そ、それは嫌ですね」


 高校生三人が迷路から出られずに非常口から出てきたなんて……他のメンバーに馬鹿にされる!

 ちなみに、非常口はあちらこちらに設置されており、いつでも出ていけるようになっている。それだけリタイアする者が多いということなんだろうな。


「とりあえずここまでの道のりをちょっと整理してみよう」

「そうだね。基本的に僕たちは真っ直ぐに歩いて来て、分かれ道は左を選択していたわけだ。それで、ここに戻ってきたということは左向きにぐるりと一周したというわけだね」

「そうですね」

「では、ここから大人の迷路攻略といこう」


 キリッとした顔で言う弥白先輩だけど、大人の迷路攻略とかちょっと意味わからん。


「迷路攻略には左手法というものがあるんだ」

「ひだり……?」


 ふふんと少し得意げな顔をする弥白先輩。

 すると、すかさずに姫ちゃんが口を挟んだ。


「左手法とは、迷路の左壁に沿って歩く方法のことです。この手法であればいつかはゴールに辿り着きます」

「へぇ、二人とも博識だねぇ」


 感心して頷くと、姫ちゃんは満足そうにして、逆に弥白先輩が恨みがましく姫ちゃんを見ていた。

 うーん。また二人の溝が深まった気がする。


「この程度、常識ですよ輝兄さん」

「マジか」


 そんな常識、俺は知らんぞ。


「とにかく、その手法で行けばいいんだな? なら、さっそく……」

「やはりお馬鹿さんですね。今からその方法をしたらまた同じ道を辿ることになりますよ」

「あっ」


 今まで左向きに歩いていたのだから、左手法とやらを使ってもここに戻ってくるだけだ。


「左手法は迷路の左の壁がゴールに接していないと成立しないのです」

「じゃあ、ダメじゃん」


 落胆してみせると、姫ちゃんに続いて弥白先輩がクスクスと笑った。


「確かにダメだね。でも、ここにルールを付け足すのさ」

「ほう?」

「一度通った曲がり角があった場合は同じ方向に行かないようにすればいいんだよ。柔軟に対応しないとね」

「おおー、なるほど」


 目からウロコとはこのことか。俺がアホなだけなのかもしれないけど、この二人の知識には驚かされる。

 やっぱり二人って結構合うと思うんだけど……。


「さてと、それじゃあこの道は右に行こうか」

「そうですね」


 そして、スタスタと歩いて行く二人。それを駆け足で追いかける。


「ちょっ、放っておかれたら冗談抜きで迷子になる」

「仕方ないですね。手でも握ってあげましょうか?」

「なっ、そ、それなら僕が握っていてあげよう。なにせ僕は年上。逢坂君もお姉さんに握られていた方がいいだろう」


 胸に手を当てて、主張するのはいいですけど、顔が真っ赤ですよ。


「何を言うかと思えば……。輝兄さんは確かに生徒会長萌えを拗らせていた時もありましたが、それは昔の話です。それに、私とでしたら妹と手を繋いでいる感覚で握れるというもの。さぁ、輝兄さん。私の手を取るのです」

「いいや。逢坂君は僕と手を繋いぎたいよね? さぁ、どうぞ」


 バッと二方向から手を出される。二人の形相が真剣過ぎて怖い。


「いや、悪いんだけど……手は繋がないよ?」

「なぜですか! 寧々音とは登校時に握ったと聞きました! そんな輝兄さんが今更羞恥心なんて持ち合わせていないでしょう?」

「やめて? そのついでに人の黒歴史をこじ開けて抉るの」


 しかも今のいつもの悪戯とか意識しての言葉じゃないとわかっただけにさらに効いた。


「逢坂君……仲の良い兄妹なのは羨ましい限りなのだけど、僕の常識的に……手を繋いで登校というのは、なかなか特殊なんじゃないだろうか?」

「いや、もうまじやめてください」


 このままじゃ迷路を出る頃には心がボロボロにされてしまいそうだ。


「とにかく! 手は繋がないから……ほら、進もう。茉莉たちに負けるよ?」

「む。そうだね。勝負に負けるというのはどんなことでも悔しいものだ。先を急ごう」

「……えぇ。私も負けるのは好きじゃないです」


 対抗戦にして良かった。どうやら二人とも負けず嫌いらしく、なんとか闘争心に火がついたようだ。

 これで、力を合わせればきっと……。


 そして、俺たちはおどろおどろしい雰囲気の扉の前までやって来たのだった。


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