#21

 この遊園地には、回るティーカップのような比較的のんびりしたアトラクションの他に、ジェットコースターなどの絶叫系や、お化け屋敷などの体験型みたいなのも多くある。


 その中で俺が選んだ舞台は……。


「迷路だね」

「そうです。迷路です」


 目の前に広がるのは謎解き大迷路と呼ばれる、屋内型のアトラクションである。

 それなりに広い迷路なのだが、さらに先に進むには出される問題を解いていかないといけないという。一見、子供向けかと思いきやネットの評判によると、大人が楽しめるアトラクションだと書き込まれていた。

 なんでも問題が子供向けじゃないらしく、対象年齢も十二歳以上と高めに設定されている。


「はいはーい、注目です!」


 バッと手を挙げた茉莉が皆の視線を集める。元々、俺と茉莉が二人で考えた計画なので、この場所に来てからの動きというものは決まっていた。


「どうかしましたか?」

「迷路入んねーの?」

「ちゃんと説明するから待ってね。こほん。ここでゲームを提案します」

「ゲーム!」


 和華が反応する。それ以外は気が乗らないのか、警戒しているようだ。


「チーム対抗でどっちが早くゴール出来るか競うの」

「おぉ、楽しそうだな」

「というわけで、ここにくじがあります!」

「用意がいいな!」


 そりゃ、これをするためにこの施設に来たと言っても過言じゃないからな。

 しっかりと前日に二人で作った。と言っても割り箸に色を塗っただけなんだけどね。


「くじには色が二つ。赤と青だよ。三対三になるからね。じゃあ、順番に取ってね」


 そう言って茉莉は和華、寧々音、姫ちゃん、弥白先輩、最後に俺の順番で、クジを引かせて行った。それぞれ、色々言いたそうな顔をしているものの、何も言わない。

 茉莉が俺の所に来た時、こっそりと頷いたのは、作戦が成功していると伝えるためだろう。


「それじゃあ、色別に別れてください」


 そして分けられたメンバーは、赤が茉莉、和華、寧々音。青が俺、姫ちゃん、弥白先輩だ。

 案の定、姫ちゃんがジト目で俺を見てくる。

 また、弥白先輩も苦笑気味だ。


「うーん。これは偶然の結果なのかい?」

「あ、当たり前ですよ」

「逢坂君が言うなら信じるけどね。それに付き合うとも言ったからね」


 もちろん、めちゃくちゃ仕組んでます。

 俺と姫ちゃん、弥白先輩が同じチームになるように茉莉に頼んでおいた。なので、これは予定通りの結果だ。


 とは言え、二人には多分バレている。バレているのに意味はあるのかということなんだけど……絶対とは言えなくても、そこに可能性があるのだからやってみる価値はある、と思いたい。


「うしっ、じゃあさっさと入ろうぜ。輝夜、敵だからって容赦はしないからな!」

「おう」

「和華のお守りは任せろ」

「お守りって……」


 すっかり寧々音は和華の保護者のようになっている気がする。いや、保護者というより主人か?

 扱いやす過ぎるだろ。


「後はお願いね輝夜君」


 茉莉がこっそりと耳打ちしてきた。それに頷いて返す。


「あとね、くじが一本残ってるんだけど、どうしてだろ?」

「残って……? 数、間違えて作ったかな」

「なのかな。とにかく、先に行くね」

「おう」


 三人がワイワイと楽しそうに迷路の受付へ向かう。


「じゃあ俺たちも行こうか」


 三人の後を追って受付へと向かう。


 受付を済ませ、スタッフに案内されたのは大きめの円形に造られた広間だった。俺たち以外にも客がいて、全員そこで待機するように言われた。

 壁には扉が8つ。あれが迷路への入り口ということだろう。


『よく来たな。迷宮に挑みし挑戦者共よ』


 近くのスピーカーから芝居掛かった声がした。この声に従ってゴールを目指すアトラクションというわけか。


『それでは八組の挑戦者達よ。それぞれあてがわれた扉の前へ』


 すると、スタッフが出てきて、扉へと誘導される。俺たちは右から3番目の扉で、隣に茉莉達のチームが立った。


『それでは挑戦者達よ。心して迷宮に挑むが良い。の前に一つ助言である。もしも迷宮に迷い、踏破を断念するのであれば、天井に設置された緑の矢印に従うが良い。さすれば出られるであろう』


 ギブアップ時の脱出ルートか。広いらしいし、その辺ちゃんと説明しないといけないのだろうなぁ。


『それでは挑戦者達。行くが良い!』


 扉が開かれる。俺たちは足を踏み入れ、チーム対抗の迷路バトルが始まるのだった。

 そして、それは俺の戦いの始まりでもあったのだ。

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