#19
「寧々音! あのティーカップに一緒に乗りましょう」
「やだよ。目が回る」
入場ゲートを抜けるなり、姫ちゃんが寧々音の腕をとって引っ張ろうとしていた。
それを寧々音はしかめっ面でしぶる。
「コラ。君たち、勝手な行動はよくないな。これだけの人数で来ているのだから、もう少し規律ある行動をだね。それに彼女たちもまだ入場ゲートを超えていない」
そう諌めたのは、キリッと真面目な顔になった弥白先輩だ。
生徒会長としての言葉なのかもしれないが、それは火に油でしかない。正論とは言え、敵視している相手に説教されるなんて心穏やかではないだろう。
まぁ、しかし茉莉と和華はまだ入場ゲートでチケットを渡しているところだ。
「うわ、いますよね。こういう、楽しもうとしている時に正論言ってテンション下げてくる人。それに、すぐに行くとは言ってないです。あれに乗りたいと寧々音と話していただけですので。KYが……」
「け、K……Y……?」
空気が読めないと言われたことがショックだったのか、その場に立ち尽くし、顔を俯ける。
ここは、流石にフォローをして……。
「逢坂君。KYってなんだい?」
コテンと首を倒して、そう聞いてきた。
まさか、知らないとは……。確かにもはや死語ではあるけど。
「あー、えーと……」
本当のことを言うべきか。それとも取り繕うべきか。悩む。
「何の話してんだー?」
「いや、KYの意味を……あっ」
茉莉と和華が仲良くゲートをくぐって近づいてきた。
和華に聞かれて、反射的に答えてしまう。これで和華が意味を答えてしまい、豆腐メンタルの弥白先輩が泣いてしまうかもしれない。
「KY? なにかの隠語か?」
「お、おう」
知らなかったのがもう一人いた!? 流石、天然記念少女和華だ。
「KY……キィとヤク……?」
「なぜかわからんがその言葉はあまり良くない気がするのだけど」
「うちの家では手を出してないぜ?」
「お、おう」
やっぱり危険なやつだ!
「あははっ、和華ちゃんKYってのは、空気読めない人のことだよー」
「おー、そういう意味なのか!」
おぉい! そっちが答えちゃうの茉莉さん!
恐る恐る弥白先輩を見ると、ほら、やっぱりちょっと傷ついたような顔になってる。
「ま、まぁ、弥白先輩は別に間違ったことは言ってないですから」
「空気が読めないなんて初めて言われた……」
今まで完璧な優等生として慕われていたからか、空気が読めない発言はだいぶと大きなダメージとなっているようだ。
「か、輝夜君……もしかして私、失敗しちゃった……?」
落ち込む弥白先輩を見て、茉莉が小声で確かめにきた。
「いや、茉莉が悪いとかじゃなくて、単に事故ったというか……」
「み、みんなで仲良くの道のりは遠そうだね」
「本当にな」
初めから前途多難すぎる。
どうしたもんかと悩んでいると、救いの手か、それとも単なる気まぐれか、ともかく、状況を打破する声がかかった。
「ふむ。集まったし、輝兄よ」
「なんだ寧々音?」
「寧々は乗りたくないが、市姫が乗りたいと言うからあのクルクル回る不快な乗り物に乗ってくるぞ」
「お、おう。それはいいけど……」
なんで、そこまで嫌な乗り物に乗るんだ。少し寧々音らしくないと言えば寧々音らしくない。まぁ、姫ちゃんのためになら、ありえなくもないからいいのだけど。
と、思いきや、寧々音は姫ちゃんと、もう一人の手を取った。
「ほら、行くぞ」
「えっ……ちょっと妹君」
「寧々音! なんでその人を!」
困惑する弥白先輩と不満を声に出す姫ちゃんの声にまったく耳を貸さずに両手で二人の手を握ってずんずんと回るティーカップへと向かう。
めちゃくちゃ格好良い……。
「あはは……、寧々ちゃん凄いね」
「はぁ……本当に……自慢の妹だよ」
しかし……なにか忘れている気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます