なんだかんだで仲良くなるんだと思う

#18

「桃源郷……?」


 最近、感覚が麻痺してきたのか、よくわかっていなかったが、俺が世にいうところのハーレム状態であることに、今更ながら気がついた。

 遅い? まさか自分が爆発対象になるとは思っていなかったから思考が鈍くなっていたみたいだ。反省はしている。


 俺がハーレム状態なのを自覚したのは目の前の光景を見てしまったからだ。


 遊園地に行こうという茉莉の提案に乗っかり、早速、実行にうつしたわけだが……。

 駅前で待ち合わせをすると、二人で話しながら待っていた俺と陸斗の元に、ぞろぞろと並んで女の子たちがやってきたのだ。

 改めて見ると高スペックな美少女ばかりが、こうも揃うと壮観で、もはや後光さえ見える。


「輝夜。俺はお前と親友で本当に良かったと思う。俺がお前と出会ったのはこの時のためだったんだな」

「俺は今その言葉を聞いて、親友どころか友の座さえ返上したい気分だ」


 俺は美少女ホイホイではないぞ。


 しかし、まぁ、なんだ。ここにいる皆と俺はどういうわけか知り合いで、こんな風に一緒に出かけられる仲という。

 爆発した方がいいかな? 自爆……? 爆ぜてしまえ俺。


「おはよう輝夜君」

「お、おう」

「どうしたの? 目がキョドってるよ?」


 うわっ、変に意識し過ぎた。恥ずかしい。


「いや、可愛い……なって……」


 いや……俺はなにを……?

 動転しすぎて口からポロポロと本音が……。


「そそ、それは……えっと……ありがとうございます」


 互いに目をキョドらせてソワソワと一気に落ち着かなくなる。

 そこにスーッと弥白先輩がやって来て、俺に耳打ちをする。


「名古さんが僕をずっと睨んできて怖いんだ。助けて」


 言われて見ると、確かにすごい形相で睨みつけている。俺を。

 なんで?


「どうしてか分かんないけど、殺意の対象が俺に移ったっぽいから大丈夫ですよ」

「あれ? 本当だ。おっと、言い忘れていたね。おはよう逢坂君」

「おはようございます弥白先輩」


 姫ちゃんにビビっていた姿などおくびも出さずに、ショートの髪をかきあげて爽やかな挨拶をする弥白先輩。

 相変わらず外面を取り繕うのは上手だ。


「なんだか失礼なことを思われている気がするよ?」

「それは多分、気のせいですね」


 危ない危ない。やたらと勘がいいというか、魔女っぽいから心の中が見透かされている感じだ。


 しかし納得していないようでブツブツと文句を吐き出し始めた。


 次に近づいてきたのは……私服はいつもパンツ姿でラフな感じの和華。この場で一番、遊園地を楽しみにしているであろう。

 証拠に目がキラキラと、体はソワソワと、ついでに目にはちょっとクマもできてる。


「おはよう和華。もしかして眠れなかった?」

「おう。おはよう輝夜。楽しみすぎて寝つきが悪くて……」


 遠足前の小学生みたいで大変よろしい。他の面々を見ても、嫌がっている様子の者はおらず、程度に差はあれど、楽しみにしてくれている気がする。

 いや、一人、テンションが低いのがいた。


「寧々音」

「休みの日にわざわざ人の多い遊園地に行こうなんて……。輝兄はいつから外への耐性がついたんだ。休みに外に出るというのは、毒沼状態だぞ」


 寧々音がうんざりしたように、ぼやく。

 重度の家っ子である寧々音は自分に利益のない外出はとにかく嫌う。

 ってか、歩くだけでダメージを食らうのか。それは難儀なことだな。


「行けばきっと楽しいって」

「大人はみんなそう言うんだぞ。寧々はそんな大人になりたくないので」


 確かに昔、初めて歯医者に連れていかれた時、面白くなさそうだから行きたくないと言ったら、行けば楽しいよって言われ、連れていかれた。

 それ以降、俺は現在進行形で歯医者が大嫌いです。


「分かった。なら、和華で遊ぶことを許してやる」

「ふむ。よかろう」


 チラリと和華を見て、頷いた。


「おい。アタシで遊ぶんじゃなくて、アタシと遊ぶんだろ!?」


 鋭くツッコミを入れる和華。

 それに俺と寧々音は口を揃え……


「「いや、和華で遊ぶんだよ」」

「おかしくないか!?」


 一連の流れに他のメンバーが笑う。


「お前ら、本当に兄妹だな……」

「まぁ、兄妹だろ」

「血も繋がってるしな」


 呆れたように言う陸斗に俺と寧々音はキョトンと首を傾げた。


「そう言えば、みんな一緒に来たけど、女子で待ち合わせてたのか?」

「ううん。みんなバラバラでそこで会ったんだよ」

「私と寧々音は一緒に来ました」


 茉莉が首を振り、姫ちゃんが寧々音の腕に自分の腕を絡める。

 寧々音がこうして隣にいる分には姫ちゃんは比較的、大人しいので、実を言うと、この為に一緒に来てもらったと言っても過言ではない。


「それじゃあ、そろそろ出発しようか」

「はい、ちょっと待ちましょう」


 出発しようと駅に向かって進行方向を定めると、茉莉がそれを止めた。


「今日は親睦を深めるために集まってもらいました。でも、いきなり仲良くはできないと思うの」


 チラリと視線を弥白先輩に向けると、少し困ったように顔をしかめていた。

 姫ちゃんもまた、弥白先輩を睨みつけるように見る。


「しかし、休戦です。日頃の諍いは一度捨てて、仲良くしましょう!」

「それが出来れば苦労はしないぞ。寧々は別に構わんけど」


 ボソリと言う。

 寧々音の言う通りだ。姫ちゃんは完全に敵視しているし、弥白先輩は付き合ってはくれると言うが、仲良くする意思は薄い。

 しかし、それをどうにかするのが俺だ。


「それじゃあ、今度こそ行こうか!」


 出発する。

 今回のこの計画、肝になるのはやはり姫ちゃんと弥白先輩の仲だろう。

 どうにかして二人の仲を取り持つことさえ出来れば……。


 ミッションが始まる。

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