#17
「それで最初に話すのが私なんだ」
「あ、いや。ちょうどよかったし」
弥白先輩の意識改善計画が始まったその週末。ちょうどというか、茉莉の特訓の約束があったこともあって、茉莉の家にお邪魔したので少し話してみた。
その結果、今俺はジト目で見られている。
「私は頑張ったと思います」
「あ、うん。その通りですはい」
確かに昼食の場では普通に接しようとしてくれていたと思う。それをぶち壊したのは弥白先輩自身で、その件に関しては申し訳ない。
「……輝夜君はどうして会長さんにそんなに関わろうとするの?」
「俺ってつい最近まで友達少なかったよな?」
「今もそんなに多くないよ?」
「……はい」
般若化してから茉莉がトゲトゲしい。こんな意地悪言う茉莉は茉莉じゃない!
「まぁ、うん。でも繋がりが増えたのは事実だろ? この間も迷惑かけたのに気にしてくれて……俺も皆の気持ちに応えたいなんて思えるようになってきた」
本心からそう思っている。
「それで欲が出て会長さんもお友達にしたいの?」
「最初はそうだった。皆と仲良くなってくれたらきっともっと楽しくなるのにって考えだったんだけど……」
「だけど?」
あの時、弥白先輩は茉莉達のことをその他大勢でしかないと断言した。
「俺は君達が弥白先輩につまらない人間だと思って欲しくないんだ」
「……それはずいぶんと勝手な物言いだね。会長も、輝夜君も」
「うん。多分これは俺と会長の意地の張り合いでしかない。そこに巻き込むのは多分間違ってるんだろう。だからこうして頼むしかない」
俺はその場で頭を下げる。そんな価値のない頭だけど、下げることしかできないから。
「それをやる意味はあるのかな?」
「えっ?」
「きっと会長は輝夜君のために私たちと話すと思う。そして、私たちも輝夜君のために話す……それは意味ある行為なの?」
言う通りで言葉に詰まる。さらにそこには自分自身による自分のためも加わり、何もかもが自分本位であることに、それに気がつかなかったことが嫌になる。
いや、しかしそもそも自分本位であることは分かっていた。
なら、そこに俺はどんな意味を求めたんだ?
一緒に楽しみたい。一人じゃ寂しい。
どんなアニメにもゲームにもラノベにも主人公には仲間がいて、だからこそ面白い作品が出来上がる。
そして俺の仲間は茉莉たちで、それをその他大勢だなんてのはありえない。
「ある。絶対にある。少なくとも弥白先輩は茉莉たちのことを、その他大勢だなんて言えなくなる」
「そんなこと分からない」
「いいや、分かるね。茉莉、俺はなんだった?」
「へっ? 何って……オタク?」
突然生気を取り戻した俺に茉莉はキョトンとしながらも答える。
そしてそれは正解だ。
「オタクは、自分の面白いアニメは絶対に面白いと思っている。自分の大好きなエロゲは最高傑作だと思っている」
「う、うん」
「だから布教だってするし、そのための労力は無駄なことだなんて感じない。少なくとも俺は!」
「言いたいことは分かるけど、それとこれとは……」
「同じことだよ。観てもないアニメを面白くないなんて批評するやつは絶対に許さないし、観てからもう一回同じこと言えんのかって言いたい」
「それは……分かる」
「だろ!」
ウンウンと頷く茉莉。やっぱりオタクなら誰でも思うあるあるネタなのだろう。
俺だって初めはエロゲと聞いて、あまりいいイメージは持ってなかった。しかし、陸斗の情熱を感じて俺はプレイし……世界が広がった。
俺の見ていた二次元はまだまだ広がるんだと思い知ったのだ。
それは現実世界でも変わらないと思う。まぁ、それも最近知ったのだから勿体無いことをしていたと思うんだけど。
その点、茉莉なら分かってくれるはずだ。
なにせ、彼女は二次に浸かりながら、しっかりと三次元も楽しもうとしていたんだから。
「うん。分かった。輝夜君のプレゼンはちゃんと伝わったし、私もお手伝いくらいならしてもいいと思った」
「じゃあ……」
「絶対に面白いって、楽しかったって思わせよう」
ぐっと、胸の前で拳にを握る茉莉はとても頼りに見える。
「さて、じゃあ早速作戦を練らないとだけど……ただお話しするのは何も変わらないと思う」
「ふむ」
「だからみんなでお出かけに行こう!」
「なん……だと……?」
お出かけと来たか。なるほど。学校とは違う環境で一緒に遊べば仲も深まるということですね。
流石はリア充。インドアな俺にはない発想だ。
「どこに行くかだけど……輝夜君、何か案はあるかな?」
「……アニメ〇ト?」
「却下」
ですよねー。知ってたけどそこしか浮かばなかったんだよ。
「ショッピングモールは楽しめる人と楽しめない人がいるから……」
なお、俺は後者な模様。
「定番だけど、遊園地とかかな?」
「定番だな」
「うん。でも意外に大人でも楽しめるし、テンプレってのはやっぱり重要だと思うの」
「それはその通りだな」
テンプレは先達が歩んできた王道であり、そこには学ぶべきものしかない。
ならば今回も学ばせていただこう。
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