#16
般若が降臨したものの、すぐに冷静になった茉莉。しかし、俺や和華、陸斗にトラウマを植え付ける結果になった。
それはさておき、昼食を終えると同時に、職員室からの呼び出しで弥白先輩は「またね」と言い残して、教室を出ていった。
その間、無言で作り物のような笑顔を浮かべていた茉莉から視線を外すのに必死だったのは仕方の無いことだと言い訳しておく。
しかしこれじゃあいけない。
仲良くなるどころか溝が深まっていくばかり。しかもタチの悪いことに弥白先輩は嫌われようとしてやっているのではなくて、天然でアレなのだ。
どうしようもない。
という事で放課後、俺は生徒会室にやって来ていた。
対面には弥白先輩が座り、隣には寧々音を座らせている。何故寧々音がここいるかと言うと、姫ちゃんの作戦の一部らしく、俺を一人にさせないということらしい。
で、今日は寧々音が引っ付いてきたわけだ。
まぁ、どうせソシャゲをしているだけだから害はないだろう。まさに言われたからいるだけだ。
それに今回のことで弥白先輩と敵対しているのは姫ちゃんと茉莉の二人で、和華はちょっと分からないけど、寧々音はいつも通りマイペースで我関せずだ。面白そうだから付き合っているだけに過ぎないのは兄だから分かる。
「生徒会室で秘密の密会……。寧々は卑猥な匂いを感じ取りました」
「感じ取らんでいいし、そんな事実はない」
やっぱりちょっと害あるかもしんない。
「それで、僕はいったい何をしでかして逢坂君に呼び出されたのだろう。ちなみに今日は生徒会はないから邪魔が入ることはないよ」
「やっぱり卑猥な……」
「やめなさい」
頭に軽くチョップをいれて黙らす。
「とりあえず自己紹介しておこうか。改めまして、江戸弥白だよ。お兄さんと仲良くしてもらっている」
「寧々は寧々音だぞ。まぁ、褒められた兄ではないがよろしくやってくれ」
「こら、敬語使えって」
「輝兄はなかなか高難度のことを言う」
「高難度か?」
お前、普段どうやって先生とかとコミュニケーションとってんだよ。
兄はとても不安だぞ。今度、姫ちゃんに聞いておこう。
「ふふっ。いや、失礼。兄妹とはいえよく似ている」
「「それほどでも」」
似ていることは互いに分かっているので嫌な気分にはならない。
細かいところは全然に似てないんだけど、こう基盤のようなものが似ているのだろう。まぁ、同じ親から生まれて似たように育てば、似ている部分も出てくるだろう。それが俺達の場合、ちょっと多いということだ。
「あと、別に敬語じゃなくていいよ。逢坂君の妹ということは、僕にとっても妹みたいなものだ」
「やっぱり……」
「違うって。弥白先輩。勘違いされるようなこと言わないで下さい」
「勘違い? あっ……」
今更気がついたのか、頬を染める弥白先輩。
「ち、違うんだよ? 僕は彼の友人としての意見を言ったまでで、他意はないからね!」
「と言いつつ?」
「言いつつってなんだい!?」
「ちっ、引っかからなかったか」
何を言わせたかったのか知らないけど、それで引っかかるのは和華だけだ。
「ダメだ輝兄。この人は寧々の玩具になりえない」
「玩具にしようとすんな」
生徒会長を玩具にしようなんて、なんという極悪な妹なのだろう。
「いや、逢坂君も割と妹君と似たような態度だったような……」
「そんな馬鹿な」
そんなことない……なくもない?
いや、最低限の礼儀は守っていたと思うんだけど、ちょっと自信が無い。
「そんなことより!」
「「あ、話題を変えた」」
「そんなことより! 弥白先輩にはみんなと仲良くしてもらいたいんです」
「えっ? やだよ」
「即答!?」
しかも割と素っ気なく返されて驚いた。
「だって、弥白先輩は友達が欲しいんでしょう? だから俺と友達になったって」
「うん。でもそんなにはいらない。それに彼女達はその他大勢でしかない」
その他大勢? あの面子が? どれをとっても一癖二癖あるのばかりな気もするけど……。
いや、それは俺がみんなを知っているからであって、弥白先輩はそれを知るはずがない。
「なら、一度話し合ってみるべきです」
「その必要はないよ。僕の友人は僕が決める。そうだね。妹君。寧々音君ならば友達になってもいい」
でた。ナチュラル上から目線。時折出てくる上からの物言い。
なのに、それが不快と思えないというのが不思議で、それも魔女たる所以か。
「ふむ。お嬢様生徒会長との大きなパイプ。寧々なんだかワクワクしてきたぞ」
「いやいや。悪用する気満々だろ」
「ソンナコトナイゾ」
「信用出来ねぇな」
もしかすると、寧々音が一番連れてきちゃいけない奴だったかもしれない。
欲望に忠実すぎる我が妹に権力者は鬼に金棒だ。
「逆に質問なんだけど、どうして逢坂君は僕に友達を作って欲しいんだい?」
妹の残念ぶりに呆れていると、そんなことを聞かれた。そういえばどうしてだろう。
なんとなく放っておけないというのはあるんだけど、それは別に友達を増やして欲しいということには繋がらない。
「多分ですけど……自慢ですかね」
「はい?」
「俺にはこんなにも良い仲間達がいるって自慢です。でも、それは最初からそういうわけじゃなくて。一緒の日々を過ごした結果です。俺はそれを弥白先輩にも共感してもらいたい」
「なんとも自分勝手な理由だね」
「はい。だから、強制はできないです。でも、もしよければ俺の自分勝手に付き合ってもらえませんか?」
自分で言っておきながら、本当に酷い理由だと思う。だからここで断られたら諦めよう。
無理に友達になれなんて言えない。
姫ちゃんは俺と弥白先輩を近づけたくないみたいだけど、ちゃんと友達だと説明すれば分かってくれる。姫ちゃんはとても良い子だから。
でも、出来れば俺は皆が仲良くしていて欲しい。中心にいるのが俺というのがなんとも残念な話なのだけれど、ヒロインがバラバラというのはバッドエンド以外の何物でもないと思う。
いや、ヒロインってのは言葉の綾だかんな?
そこまで自意識過剰じゃないからな?
考える素振りを見せる弥白先輩に、即答じゃなくて安心する。
少しは考えてくれているみたいだ。
そして、弥白先輩は俺の目を見て笑った。
「仕方ないから付き合ってあげる」
そう言ってくれた。
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