#15
「輝夜君輝夜君。みんなでお昼食べよう」
昼休み、今日も和華と陸斗と昼飯を食べようと集まっていると、弁当箱を持った茉莉がやって来た。
はて? 今日は向こうで俺の事を睨みつけてる男子が率いる奴らと食べるはずじゃ?
「いいの? あっち」
「うん。市姫ちゃんとなるべく輝夜君と一緒にいるって約束したからね」
「何もそこまでしなくても。それに弥白先輩も毎日来るってわけじゃ……」
「あ、それフラグ……」
そんな馬鹿な。漫画じゃあるまい……。
「逢坂君ー?」
本当に来ちゃったよ。
扉から上半身だけ出して、手を左右に振る弥白先輩。クラスには、また来たという空気と、逢坂さっさと対応しろみたいな空気が漂う。
「弥白先輩。昨日も言いましたけど、アポイントは大切な確認行為なんですよ?」
「知ってるよ? これでも生徒会長だからね」
「じゃあ俺にもそれをして欲しいです」
「僕は逢坂君の困ってる顔を見るのか好きだからね。さて、今日も」
スッと手が伸びて来て俺の腕を掴もうとするのを、半歩下がって避ける。
「ちょっと待った。弥白先輩」
「うん?」
「一緒に食べましょう」
瞬間、パァっと花が咲いたような笑顔を見せたる。
「みんなで」
と、思いきや、シュンとした顔で唇を尖らせた。
「僕に下級生の教室で一緒に食べろと?」
「はい」
「逢坂君はSな人?」
「そんなことないですよ」
俺は至ってノーマルな人だ。
「「「そんなことあるよ」」」
あれー? 後ろから凶弾が。いや、落ち着け。一発だけなら誤射かもしれない。
……3人だから誤射なわけないじゃん。
「僕は弄られるより弄る方がいいんだけどな」
「どうでもいいです。とにかく一緒に食べましょうよ。皆もいいだろ?」
敵視していると言ってもあからさまな行動をとったりする程、茉莉も和華も悪いやつじゃない。
案の定、少しだけ戸惑った様子を見せたものの、すぐに頷いてくれた。陸斗は寧ろ美人が増えるという事で喜んでいる。
後は、弥白先輩の気持ち次第だが……。
「仕方ないね。今日のところは従うとするよ」
こちらも渋々といった具合に、頷いた。
早速陸斗が俺との間の場所に椅子を持ってくる。その時に歯を見せて、グッと親指を立てやがったが、へし折って欲しいのだろうか?
まぁ、流石に茉莉と和華の隣というのも気まず過ぎるだろうからナイスフォローといえばその通りなのだけど。
「ではお邪魔するよ」
そう言って席に座った弥白先輩は、やはりポケットからアレを出してきた。
それに、俺を除く教室に残っていたクラスメイトのほとんどが驚いたり、怪訝な顔をしたりと様々な反応を見せる。
良家のお嬢様と名高い、江戸弥白の昼飯がまさか、ゼリー飲料だなんて誰が想像していただろうか。
「なんだい皆して僕のお昼ご飯を見つめて」
そんな皆の困惑など知らず、弥白先輩は早速チュウチュウと飲み口に口をつけて吸い始めた。
「あの……そんなに無いですけど、食べますか?」
茉莉が自分の小さいお弁当を出して、訪ねる。その優しさにクラスの数人は惚れたに違いない。
知らんけど。でも、俺の視界の端に映ってる林田の目がハートになっているので、あながち間違いではなかろう。
「えーと、確か七家さんだったね? ありがとう。気持ちだけもらっておくよ。逢坂君には話したんだけど、僕は朝食をしっかりと食べているからお昼はあまり食べないんだ」
「そういう事でしたか」
「うん。まぁ、食べられないわけじゃないけどね。僕ってどれだけ食べても太らない体質みたいで、食べる時は凄い食べるんだ」
多分、男子からは他愛もない、普通の会話に聞こえていただろう。実際、俺も便利な体質だなくらいの考えだった。
しかし、空気が張り詰め、そしてヒビが入る音が聴こえた気がした。
特に俺の向かい側。
茉莉の顔はニコニコと不自然な程の微笑みを見せているのだが、その周りに纏うオーラは黒く、危険な感じがする。
まぁ、なんだ。……怖い。
「お、おい輝夜。俺は何故かこの場から去りたいんだけどよ」
「馬鹿か。お前、こんな可愛い女の子ばっかりの席を外そうってか? 俺が逃げるからお前が残れ」
「馬鹿はお前だ馬鹿。全員輝夜目当てだろうが。なんでお前がそんなにモテてるのか甚だ疑問だが、実際そうなんだからお前が残りやがれ」
弥白先輩を挟んで俺と陸斗がどちらを供物に逃亡を図るか言い合うが、モテてる云々は陸斗の戯れ言にしても、普通に考えて残るのはやはり俺なのは分かっている。
何より、隣の和華が俺の制服の袖を指先でつまんで怯えているので放っては置けない。
「えーと、茉莉?」
「なにかな? 輝夜君」
「そのだな……。弥白先輩に悪気はなくてだな」
「うん? 何の話かな?」
ひぃ、怖い。その張り付いた笑顔が怖いです茉莉さん!
「そういや、また胸が大きくなった気がするんだ。という事は僕の場合、お腹じゃなくて胸に脂肪がいってるということだね」
「あんたちょっと黙っとけ!?」
なんで火に油を注いじゃってんの!? 悪意しか感じないんですが!?
「か、輝夜……」
弥白先輩に説教しようとすると、和華に掴まれていた袖が引っ張られ、ひどく怯えた声で名前を呼ばれた。
そして俺の視界はソレを捉えた。
般若がいた。
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