#13
「なんでやねん」
とりあえずツッコミをいれてみた。
それも、俺の今の状態を説明すれば分かる。
茉莉宅の絨毯の上に正座させられているのだ。目の前には部屋の主、茉莉の他に和華と姫ちゃん、寧々音がいる。
ただし、寧々音は関係ないとばかりに端の方でゲームに熱中だ。
少しこうなった経緯を思い出してみよう。
弥白先輩から逃げようとするも失敗し、しかし、丁度、授業前の予鈴に助けられる事になった。クラスメイトの
だが、放課後になると再び教室に弥白先輩がやってくると、事件は起きる。
そう拉致事件……というのは言い過ぎかもしれないけど、突然茉莉と和華によって捕まり、有無を言わさずに攫われたのだ。
そして、今に至る。
何の説明も無しに連れてこられた俺は、とりあえず何か言おうとして、ツッコミを入れてみたわけだ。
「その説明は私がしましょう輝兄さん」
声をあげたのは姫ちゃんだった。
何故か左右に茉莉と和華を部下のように侍らせ、この場を取り仕切るリーダーのように立っている。
ところでさっきから気になってたんだけど、そのサングラスは何ですか? これ、聞いていいやつ?
「我々は輝兄さんを守る為に結成された竹取防衛隊です」
「こ、こら、輝夜君。可哀想な子を見る目で見ないっ!」
だって……ねぇ?
「我々は生徒会長を
「……厨二病?」
「寧々音、罰を」
「うぇーい」
パチンッと格好良く姫ちゃんが指を鳴らすと、ゲームをしていたはずの寧々音が立ち上がり、俺の元へとやって来た。
「な、何をする気だマイシスター」
「輝兄。寧々もこんな事はしたくないんだ。だけど……なるべく優しくするから」
そう言った寧々音の手元にはとある道具が握られており、それは俺にとって恐怖の拷問具になりうる道具である。
その名を『耳かき』。そう、あの耳に突っ込んで掃除する細い棒状のアイツだ。
俺はあれが大嫌いなのだ。耳の中に異物を突っ込むというだけでも恐怖なのに、それを他人に任せるなんて行為が好きなんて奴は頭がどうにかしているとしか思えない。
よく、ゲームでも耳かきイベントはよくあるが、その度に顔をしかめる羽目になっている。
俺がこの耳かきなる悪逆非道な行為を嫌っている事は寧々音を含めた家族と姫ちゃんしか知らない。
それを知っている姫ちゃんがこんな事をするなんて……。
「こ、こっちに来るな……」
「山井先輩、七家先輩。押さえつけて下さい」
「う、うん。ごめんね輝夜君」
「すまん輝夜。お前の為らしいんだ」
「いやぁぁぁぁぁ! 乱暴しちゃらめぇぇぇ!」
「シクシク。もうお嫁にいけない」
「メソメソしないでください。次は左もやりますよ?」
「ひぃっ」
うぅ、俺の右耳は寧々音によって犯されしまった。汚されて……いや、綺麗にされてしまったのだ。
「ハァハァ。なんでだろう? 輝夜君が羨ましい……」
ちょっと誰か茉莉のM病の進行を止めてあげて。本格的にやばくなってきたわ。
「心配するな輝兄。嫁には元々いけないぞ」
「そうだけど、そのツッコミいる?」
「寧ろいらないのか?」
「いや、いる」
「だろう。ところで、もし、輝兄がバッドエンドで結婚出来なくとも寧々を甘やかして養うという隠しルートが存在するので大丈夫だぞ」
グッと親指立ててアピールする寧々音だが、そんな未来はあんまり想像したくない。というか、俺はどちらかと言うと養って欲しい側の人間だ。
つまり、兄妹揃って働きたくないでござる。
と、アホな事を言っていると、サングラスを装着した黒い姫ちゃん、略して黒姫ちゃんが再び口を開いた。
「先程の続きです。これは竹取物語で月の使者から輝夜姫を守ろうとするが如く、我々が輝兄さんを守る聖戦なのです」
「お、おう。色々ツッコミたいけど、それ、輝夜姫、月に帰ってるよな?」
「心配なく。名を借りただけで、実際にはちゃんと守って見せます」
ポンと胸に手をやる姫ちゃん。いつになく頼もしい。
しかし、俺自身、弥白先輩に連れて行かれるつもりもないし、出来れば仲良くやってくれたら助かると思っている。
「姫ちゃん。別に弥白先輩は悪い人じゃないよ?」
「可哀想な輝兄さん。あの毒婦に誑かされてしまったんですね?」
何とか誤解を解こうと試みたが、姫ちゃんは全く取り合ってくれない。というか、俺の事を可哀想な子を見る目で見てくる。
しかも、毒婦なんて悪意のある言い回しからは敵意しか感じられない。
どうしてこうなった。どうしてこうなった。
「あぁ、変な踊りまでして……こんなことになるなんて……」
考えるまでまもなく俺が悪かったようだ。
でも、体が勝手に反応しちゃったんだもん。
「じゃあ、皆さん。明日からはなるべく輝兄さんの近くにいて、生徒会長を撃退しましょう」
「「おー!」」
ふうむ。これは、余計なお世話かもしれないけど、どうにかして仲良くなれるように頑張ってみるかな。
俺の平穏の為にも。
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