#11
「姫ちゃんっ!」
寧々音から姫ちゃんが保健室にいると言われた俺は教室を飛び出して、保健室へと駆け込んだ。
「か、輝兄さん……。もう私はダメみたいです」
「そんな……。しっかりするんだ!」
保健室に設置された二つのベッドの手前には姫ちゃんが横になっていて、らしくない弱々しい声でそんな事を言ってきた。
さらに、布団から手だけ出して、俺へと伸ばしてくる。それを近付いて握りしめると、ぎゅっと握り返してきた。
尚、これはただの三文芝居だ。
寧々音が言うには、体育の時間にバレーボールを顔面レシーブした姫ちゃんが鼻血を出して保健室へ。で、血を流したからか、調子が悪くなったのでそのまま保健室で横になって休ませて貰っているらしい。
ちなみに、保健室の先生は用事で職員室の方へと出ているとのこと。
「輝兄さん……。これだけは……これだけは言わせて下さい」
「なんだ!? 何でも言ってくれ」
一体何を言うつもりなのだろうか。いや、こんなシチュでの言葉だ。きっとどんな鈍感主人公でも分かる。
こいつは……告白フラグ!
「いや、待とう。確かに何でもとは言ったが俺と姫ちゃんは兄妹みたいなもので……」
「は? 何を言ってるんですか? そんな事より……」
俺がチキン発言をしていると、姫ちゃんから否定と思われる言葉があり、それに伴って声に怒気を帯び始めた。
あれ? 空気がおかしいぞ?
そして手の甲が突然の痛みに襲われる。
「どうしてまた一人増えてんですか?」
「痛い痛い痛い!? ちょっ、つねらないで!? しかも爪差し込まないで!?」
姫ちゃんに手の甲を思いっきりつねられる。だが、その姫ちゃんの視線は俺の後からついてきた茉莉、和華ではなく、その後ろに控えていた弥白先輩を睨みつけていた。
「輝兄さん。思い出してください。数ヶ月前まではあなたの隣には誰がいましたか?」
数ヶ月前……?
「陸斗だけど……痛い痛い痛い!」
間違ってないだろ……なんでつねられるの?
姫ちゃんは一度つねるのをやめて、体を起こした。その姿はさっきと打って変わって元気そうだ。演技上手いね。演劇部入ったら?
「あんないつもほろほろと何処かへ消えてる先輩なんてどうでも良いんです。そうじゃなくて寧々音と私だったはずです」
「うむ……。まぁ、確かに姫ちゃんよく家に泊まりに来るから一緒に遊ぶことは多かったけど……」
「その通りです。黒岩先輩が他の友達と出かけてぼっちと成り果てている輝兄さんの隣にはいつも私達がいたはずです」
言い方酷くない?
いや、その通りなんだけど。
「うん」
「まぁ、山井先輩と七家先輩は仕方ありません。経緯は私も聞いていますし、最近では私も仲良くさせて頂いてます」
そうだよね。結構楽しそうに話してるもんね。主に俺の黒歴史を。
「そしていつの間にか輝兄さんの周りには女の子ばかり……」
半分は妹と、妹の友達なんだけど? それカウントしちゃう?
「なのにまだ増やすんですか!? ぷれいぼーいですか!?」
「そうだよ輝夜君! ヒロインは二人か三人! ギャルゲだったら四人が丁度良い数なんだよ!?」
「茉莉の言ってる事は理解できるし同意するけど、それ今関係なくないかな!?」
ややこしくなる前に脱線しちゃうから。そもそもその理論は俺と茉莉でしか盛り上がれないと思う。
なので今度二人でじっくり話し合う事にしよう。因みに俺は二人ヒロインの三人目当て馬系が好きです。それで、その絶対に選ばれないであろう三人目が好きになっちゃうパターンな。
「一体全体どうなってるんですか!」
「それは俺も聞きたい」
敢えていうなら偶然が重なった結果だが、神のいたずらとしか思えない。
もしくは女難の相でも出てんじゃないか?
「しかも、今度は生徒会長……」
ぷるぷると拳を震わす姫ちゃん。
エロゲ声優に、ヤクザの娘。そして同人ゲーの声優やってる生徒会長。変なのばっかり集まってるなぁ……。
「姫ちゃん。俺は今さらながら、とても姫ちゃんの大切さに気がついたよ」
「えっ? い、いきなり何ですか? まぁ、大切と言われるのは……なんというか……」
「うん。俺もだけど、変なのしかいないこの場で唯一、まともな感性を持ってそうなのが姫ちゃんしかいないんだ」
「今すぐ屋上から飛び降りてください」
あれ? なんで怒ってんの? 俺めちゃくちゃ褒めたよね?
「はぁ。輝兄さんと話していても、拉致があきません。……生徒会長。単刀直入に要件だけ伝えます。輝兄さんに関わらないで下さい」
俺から視線を外した姫ちゃんは姿勢を整えると、真っ直ぐ明確な敵意を持って弥白先輩を睨みつけた。
俺も含め、驚きで姫ちゃんと弥白先輩を交互に見る面々の中で、視線を受けた弥白先輩は薄く微笑んだ。
「ふむ。僕の記憶が正しければ君とは初対面のはずだけどね。何か気に触る事でもしたかな?」
「輝兄さんがココ最近様子がおかしかったのは……貴女のせいですよね?」
その言葉に一番驚いたのは多分俺だ。姫ちゃんの質問にはぼかして答えたからそう簡単に弥白先輩と結びつけられるとは思っていなかった。
チラリとコチラに伺うような視線を向けた弥白先輩に目で言っていないと伝える。
「ふむ。どうしてそう思うのかな?」
「女の勘です」
「ぷふっ、いやぁ、逢坂君の近くには楽しい子が集まるんだね。羨ましい限りだ。まさか女の勘で犯人扱いされてしまうなんて。うん、でも女の勘は馬鹿に出来ないからね。女の僕が言うんだから間違いない」
弥白先輩は楽しそうにクスクスと笑いながら言う。それにあながち間違いではない事に、確かに女の勘とやらが侮れない事の証明となっている。
「さてさて。そうだね。君の勘は正解だ。僕が犯人だ」
それが弥白先輩のスタンスなのか、無駄な抵抗は一切なくヒラヒラと両手を挙げて認めてしまう。余裕の体だ。
「やっぱり……。もう第一印象からいけ好かない雰囲気ですし、性格も悪そうです!」
「う、うん……えーと……」
「外面ばかりで、内面はひねくれていて、家の中では部屋の隅っことかでジメジメした空気出してそうです!」
「………………すんっ」
やべぇ!? 姫ちゃんの容赦ない言葉に豆腐メンタルが崩壊寸前だ!
流石に皆の前で泣かれるのは弥白先輩の威厳的に問題があるだろう。
ってか、一年生に泣かされるなよ。
「ひ、姫ちゃん! 今日はその辺にしてあげて。で、えーと。皆ごめん!」
90度頭を下げて、次の瞬間に弥白先輩の腕を掴んで逃亡。
行き先は……とりあえず例の踊り場でいいや。本当に手のかかる先輩だ。
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