テンプレじゃなくて王道な
#10
「今日はだし巻き玉子が入ってるんだぜ」
「和華っていつも巻いてるの食べてるよね」
「んー? そんな事ないない」
いやいや、茉莉の言う通りそんな事あるだろ。
「んじゃ俺は購買にパン買ってくるから先食ってて」
「おう」
昼休み。今日は茉莉が俺達と一緒に昼食を食べる予定だったので、俺の席には和華と茉莉、それに今購買に向かったが、陸斗が集まっていた。
普段、茉莉は俺がリア充グループと呼んでいる顔だけ野郎の林田が率いているグループと一緒に食べているので、実はこうやって集まって食べるのは初めてだったりする。
尚、陸斗は遠慮していたが俺が引っ張ってきた。
ん? 折角のハーレムが台無し? 馬鹿をいえ。教室内で男女比率1:2の昼食の席なんてやばいだろうが。主に俺の心臓が。
という事で陸斗の帰りを待つことなく昼食を開始しようとしたのだが、教室の扉が開かれて思わぬ人物が入ってきた。
弥白先輩だ。
彼女が教室に入ってきた瞬間、緩い空気が一気に張り詰められ、それを上書きするように緊張と困惑とが綯交ぜになった空気が出来上がる。
クラス中からあらゆる感情が混ざった視線を受けながら、しかし全く動じずにスタスタと俺達のいる席にやって来た弥白先輩。
物凄い嫌な予感がして、咄嗟に立ち上がって逃亡を図ろうとすると、即座に手首を掴まれた。
それだけじゃない。そのまま引っ張られて弥白先輩の胸に抱き留められる。柔かーい……ってそんな事を考えている場合じゃない。
そして、耳にフッと息が吹きかけられてゾワゾワしたと思ったら、さらに言葉が続いた。
「ふふっ。逃げられないよ」
「ひぃっ」
怖い怖い怖い! 情緒不安定の次は女性恐怖症になりかねん。
「何のようですか!?」
「何って……僕とお弁当を食べよう?」
「いや、見りゃ分かるでしょうが、俺は今からここにいる三人と」
「……友達になってくれるって……言ったのに……? うっ」
ちょっ、まっ、ここで豆腐メンタルはやばいだろう!?
「待って分かった。わかりました。行くから。だからそれはやめた方が良い」
「えっ? 本当に? じゃあ行こう。すぐ行こう」
俺が承諾した瞬間にケロッとしやがった。謀ったな!?
まじでうぜぇ!
「じゃあ、逢坂君はお借りしていくね」
「ごめん皆。この埋め合わせは必ず。うわっ」
すぐ行こうの言葉通り、腕を引っ張られて俺は弥白先輩によって連れ去られていく。
三人には後で謝って、弥白先輩に説教が必要だ。
そう思っていると、弥白先輩に掴まれている腕とは反対の方の腕が誰かによって掴まれた。これは多分和華だろう。
そう思って視線を向けると……。
「あっ、ごめん。でも、江戸先輩。待ってください」
「ん? 何かな? えーと……」
「七家茉莉です」
「七家さんね。君は逢坂君のクラスメイト?」
何処と無く弥白先輩の声色に棘がある気がする。
「はい。友達です」
「それで、どうして邪魔をするのかな? 逢坂君は僕に着いてきてくれるって言ってくれたけど」
「でも嫌がってましたよね? もしかして弱味でも握ってるじゃないですか?」
ううん。助けようとしてくれているのは分かるし、めちゃくちゃ嬉しいんだけど、弱味を握ってるのはどちらかと言うと俺の方なんだよなぁ。
それにしても俺の両腕を美少女が掴んでいる。まさに私の為に争わないで! というアレだ。
きっと憧れる人も多いと思う。
俺もゲームや漫画なんかで、そんなシチュエーションを見ると、一度でいいから体験してみたいと思っていたが、実際にされてみると、嬉しさより恥ずかしさの方が勝る。
「弱味を握ってるなんて酷い誤解だ。僕は寧ろ握られている方なのに。ね? 逢坂君」
そうだね。その通り。
でも、それクラスの皆が見てる時に言う台詞じゃないよね? 見てみて? うわぁって顔で見てるよ。
「輝夜君……本当なの? その、犯罪は良くないと思う……」
「違うから! いや、違わないけど茉莉が考えてるような事はしてない……はっ!?」
誤解を解こうと声を大きくしてしまったのが災いし、クラスの雰囲気がさらにザワザワとした物に変わる。
先日まで俺の茉莉の呼び方は七家さんだった。その他人行儀な呼び方のおかげで俺が茉莉に対してまだ無害な存在だという証明になっていたところがあったのだ。
しかし、突然の名前呼びはクラス中から俺達の間に何かあったと思わせるには十分と言える。
完全に自爆。ほら、あの男子……。リア充グループのリーダー的存在でクラスの男子で一番人気がある林田が俺を睨みつけて、今にも殴りかかってきそうだ。
「本当にしてない? 輝夜君たまにSだから脅迫くらい軽く……」
「よし、とりあえず俺は君と話し合う必要がありそうだ」
「私は別にいいんだよ? その、ちょっとくらいご、強引でも……」
茉莉がM。それも結構なレベルで、頭にドが付きそうなMなのは知ってるし、人の性癖をとやかく言うつもりはないのだけど、今はやめて欲しい。
だって……。ほら、またクラスメイト達の視線の温度が……。そろそろエターナルフォースブリザードで俺は死ぬ。
「じゃあ、江戸先輩と輝夜君とどういう関係なんですか!?」
「ただならぬ関係」
「ふ、不潔だよ輝夜君っ!」
……言っちゃなんだが俺と茉莉の関係のが一般的に不潔だと思います。
だって幾ら特訓とはいえ、防音設備の整った女性専用マンションで二人っきりでエロゲをプレイしたり、エロアニメみたり……寧ろどうしてそんなエロゲ展開になってもおかしくない状態でなんの進展もないのか不思議なくらいだ。
まぁ、理由はこれが現実だからだろう。
しかし、エロゲ展開はなくともラブコメみたいな事にはなってる。超絶不本意な展開だけど。
「頼むからこの人の冗談を本気にしないでくれ。弥白先輩は俺を遊び道具みたいな感じで弄んでくるんだよ」
「遊び……道具……。大人の……?」
「ちげーよ!?」
なんだこのカオスな流れは。
茉莉は暴走気味だし、弥白先輩は確実にこの状態を面白がっている。
さらに、クラスメイト達は俺を犯罪者でも見る目で見てきやがる。
俺を助けてくれる女神は……。
目を泳がせると、ちょうど頼れる友人と目が合った。
ただし、物凄いジト目&ふくれっ面で。
「和華?」
「なんでもねーよ」
そっぽを向かれた。その顔で何でもねーよはないだろう。
「あの……和華さん? どうかした?」
「昼飯……」
ひるめし?
「今日はだし巻き玉子」
そういやそんな事を言ってたな。
「あ、アタシが作った……」
「なん……だと……?」
「輝夜、生徒会長と一緒に行っちゃうのか? じゃ、じゃあ一口だけ、食べて……くれないか?」
和華の手元には小さいお弁当箱が置かれている。少しファンシーなデザインなのが、和華の見た目のイメージからギャップを感じで萌える。
「……和華。俺が間違っていた。俺の一番の友達は和華だもんな」
「輝夜っ!」
俺は弥白先輩と茉莉に挟まれて何をちょっといい気になりつつ、被害者面していたんだ。
俺が向き合うべきは……。
「こらっ! 友達に優劣なんてつけるもんじゃないよ。それに先に会ったのは私だよね!?」
と、茉莉に腕を引っ張られる。
「順番とか優劣じゃなくて、僕が君を必要としている。だから僕と一緒に来る。OK?」
と、弥白先輩に腕を絡められる。
「べ、別にアタシは一番じゃなくて良い。その、用事が終わってからでもいいから……」
テレテレと和華が弁当箱で顔を隠す。
これはアレだ。久々に選択肢と行こうじゃないか。ギャルゲで鍛えられた俺の選択肢にかかれば……。
【選択肢】
A.ごめん茉莉。そうだよな優劣をつけるのは胸だけだよな。この中じゃ一番茉莉が可愛いよ。
B.弥白先輩。そんなに俺が欲しいのか? 俺はちっぱいだって構わず食っちまう男なんだぜ(二次元の話)? おーけー。それじゃあ、とことんまで悦ばせてやるから(以下略)
C.和華たんペロペロ! 和華たんハァハァ!
D.おっと、愛しのシスターが呼んでいるようだ。それじゃあまたなっ!
あー、そういや、俺の選択肢ってとことん使えねぇんだわ。
とりあえず、ABCは選んだら死ぬな。Aは物理的に、Bは社会的に。
さりとてDを選ぶのもどうかと思う。というか、多分逃がしてくれない。
さて、どうしたものか……。
考え、そして答えを出そうとした瞬間、思わぬ人物が教室へ飛び込んできた。
「輝兄っ! 市姫が……市姫が……」
「寧々音!? 姫ちゃんが……?」
まさかの選択肢D。本当に寧々音が俺を呼びに来たのだ。
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