#8
――ピンポーン
家のチャイムが鳴って、それと同時に俺は家を飛び出した。
来るかどうか分からなかったが、やっぱり来てくれた喜びと、早く気持ちを伝えたい焦りからドアをぶち抜く勢いで扉を開ける。
「和華っ!」
「か、輝夜!? なんだよ……そ、そんなに慌てて……ひゃあ!?」
驚く和華の手を握る。当たり前だけど触れられる。拒絶もされなかった。
しかし、勢い余って手を握ったけど、これ人によってはセクハラだよなぁ。和華だから大丈夫と思えた。多分それが信じるって事だろう。……いや、なんか違うかもしれないけど。
「昨日はごめん。ちょっと状態異常にかかっていたというか……」
「な、何の話だよ……。状態異常って、もしかしてまたゲームかぁ? 本当に輝夜は……。許すよ。許してやる。だ、だから……もう、離れないで……くれ」
ポロポロと大粒の涙が零れて俺の手の甲に落ちた。
それから、コツンと胸に頭を預けた和華は、
「輝夜のおかげで友達が増えた。けど、輝夜がいなかったら意味無いんだ」
本当に俺は何をうじうじ悩んでたんだか。
「あははっ、もうアタシは輝夜なしじゃ生きていけないみたいだな」
「おまっ! あー、もー、このナチュラルポンコツが」
「な、なんでいきなり馬鹿にすんだ!?」
こんな天然エロヤンキー擬きを放っておくわけにはいかない。
一日でも離れていたのは大きな間違いだった。
「よし、学校へ行こう」
「いやいや、だからなんでアタシ馬鹿にされて……はぁ、なんだか寧々音と市姫、茉莉からも最近そんな扱いされているような気がする」
しょぼくれる和華の手を引いて歩き出す。
そりゃアンタ、皆俺と同じ心配して、同じくらいお前の事を好きだからだろうよ。
「待つのだ輝兄!」
「はっ、その声は寧々音!」
いつもは俺より先に出ている寧々音が今日に限っては遅れて家から出てきた。
いったいどうしたのだろうか。もしかして俺の事を心配して……?
なんて健気な妹だろうか。
「抱きしめてやろう寧々音」
バッと手を広げて寧々音の受け入れ態勢を整える。
しかし、寧々音は心底嫌そうな顔をして、近づいて来ない。こいつ、自分からはベタベタ近づいて来るくせになんで俺からは駄目なの? というか、その羽虫でも見る目はやめなさい。
「輝兄さん? もし、そのまま寧々音を抱きしめていたら今頃そのお腹には私の筆箱に入ってあるハサミが突き刺さっていましたよ?」
「ひぃっ!?」
殺意をふんだんに含んだブリザードの如く冷たいその声の主の方を見ると、電柱から顔の半分だけ覗かせた姫ちゃんの姿があった。
「いつから……そこに?」
「輝兄さんが飛び出して来た時からですよ?」
顔半分出した状態でニコリと笑う姿は最早ホラー以外の何者でもなかった。夢に出そう。
「朝からとても不愉快な物を見せられて私の心は闇堕ちしてます。今なら視線と言葉だけて人を殺せそうです」
「ご、ごめんなさい」
「……はぁ。まったく……。昨日の二人の様子がおかしかったから心配していたのに……いつも通りのただの変態じゃないですか」
「変態だとしても変態という名の紳士だよ」
「寧々音、包丁借りていい?」
「申し訳ありませんでした」
90度直角に頭を下げる。
いや、まじ今の怖かった。この場に子供がいたら夜トイレに行けなくてオネショコース。
「……大丈夫なんですね?」
「うん。ごめんな」
「私は別に……山井先輩が見ていられなくて……」
その和華は姫ちゃんに心配されていたのが嬉しかったらしく、顔を隠して照れている。まじどうしようこの可愛い生き物。絶滅危惧種指定くらいした方がいいんじゃないか? 保護するべきだと思うんだがどうよ。
「そういう市姫も昨日の晩はずっと電話で輝兄の事しつこいくらい聞いてきたぞ。もう大丈夫だって言ってるのにな」
「寧々音っ!」
シレッと言う寧々音にとうとう電柱から出てきて姫ちゃんが怒る。と、思ったら俺の方へ詰め寄ってきて、
「違いますからね! 私は山井先輩の心配してただけですから!」
「市姫……」
「きゃあ、山井先輩抱きつきに来ないで下さい。メイク落ちてますっ! 怖いです怖いです」
うわっ、本当にひどいことになってる。
「まだ時間あるからうちで落としてこいよ」
「うん。そうさせてもらう」
寧々音が付き添って和華が家に入っていく。あの寧々音が他人の世話を焼くなんてなぁ。
さて、残されたのは俺と姫ちゃんだけ。
謝ったとはいえ、何となく気まずい。
「私は無視されただけなのでどうしたんだろうってくらいだったんですが、山井先輩は昨日は本当に酷かったんですよ」
「寧々音にも聞いた」
「理由、ゲームじゃないですよね。何が、あったんですか?」
流石に姫ちゃんはそれで納得するわけないか。
「弱体化がかかってた所に魔法で状態異常にされた」
「しばきますよ」
「うーん。でも何と説明したものか……」
一人になる事が多くなって寂しくなった所に、生徒会長に呪いをかけられたなんて……意味がわからない上に、恥ずかしくて言えない。
「私にも……言えないんですか? 口堅いですよ?」
「………………やっぱり無理」
後輩に寂しかったなんて言えるかよ!
「仕方ないですね。別に無理やり聞き出したいわけではありませんので。ただ、あんまり心配かけさせないでください。もちろん、私にも……」
やっぱり心配してくれてたんじゃないか。
口にしたらまた否定されそうだから黙っとくけど。
数分後、しっかりと化粧を直してきて家から出てきた二人を連れて四人で学校へ向かった。
途中、特に男子生徒からの特別な感情のこもった熱視線を感じた。ふふん、羨ましかろう。
……ごめんなさい調子に乗りました。
せめてバランス考えて陸斗出てこいよ。普段は呼んでないのに出てくるくせに……。
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