#5

「いらっしゃい。逢坂君。まぁ、そこに掛けてくれ」

「職権乱用?」

「生徒会室にやって来て、一言目がそれかい?」


 放課後になると、俺の携帯が鳴り一言、「生徒会室」とだけ言われて切られた。

 それが呼び出しなのは分かるけど、あまりに短すぎないだろうか。


 直接顔を合わせるのもはばかられ、俺は急ぎ足で教室を出てから和華に用事があるから先に帰ってくれという事と、朝の事を謝るメッセージを送った。

 和華からの返事は短く「分かった」とだけ返ってきた。


 そして生徒会室の扉をノックすると、弥白先輩の声で入るように言われ、入ったわけだ。

 思ったより狭い生徒会室は弥白先輩以外の生徒会役員は誰もいない。

 つまり、ここにいるのは俺と弥白先輩の二人だけという事だが、この様子だと生徒会室を私的に使うつもりだろうか。


「今日は生徒会ないんですか?」


 とりあえず弥白先輩に勧められた、多分他の役員の席へと座る。

 すると、自然にその隣に弥白先輩が座った。近いなぁ。色んな意味で怖いから向こうに行ってほしい。


「そうだね。学校行事の前は忙しくて目が回るけど、それ以外は週に二回程しか仕事はないよ」

「へぇ、もっと忙しいもんだと思ってました」

「よく言われる。さて、今日は君であそ……じゃなかった。君のカウセリングをしようと思う」

「おいこら」


 今俺で遊ぶ的な発言しようとしたよな?

 絶対したよな? しばくぞ。


「まぁまぁ。コホン。僕の見立てでは君は今、親しい相手に本音で話せなくなっている」

「まぁまぁで済ませて……まぁ、いいや。そうです。その通りです」


 今まで思った事を口にしていたから、いざ嫌われる可能性を感じると怖くて上手く話せない。多分そういう事だと思う。


「では僕が授業中に教科書に載っている信長の顔に落書きをしながら考えた治療プランを話そう」

「あんたマジ何やってんの? 三年、受験生でしょうが。勉強しろ」


 いや、それ以前の問題か。信長の顔に落書きをするな。するなら家康だろう。あっちのが面白い。俺的に。

 しかし、真面目そうな弥白先輩が授業中にそんな事をているなんて意外な一面だ。


「今からどれだけ遊んでも多分志望校は合格するよ?」

「う、うぜー」

「と言いつつ、君もそんなに悪い成績じゃないだろう? 頑張れば僕と一緒の志望校にもいけるさ」


 なんでこの人、さも当然のように俺の成績知ってんの? やだ怖い。

 ちなみに、成績は悪くないのであって特別優秀でもない。ただ、普段のゲーム三昧を許して貰うために平均点以上を維持しておかないといけないだけだ。


「俺の成績を知ってる事にも驚きですけど、なんで俺が弥白先輩と同じ学校に行く事になってるのか謎すぎる」

「成績は先生方に聞いたら教えてくれたよ?」

「プライバシー?」

「何故か足立先生がまるで息子を自慢するみたいに話してくれたんだ。あの足立先生が珍しくね。何か特別な関係でも……はっ、まさか……」

「ないです」


 何を言おうとしたのか知らんが、とりあえず無い。

 足立雫。俺の担任で……母親の妹、つまり叔母だ。

 何してくれてんのあの人。今度家に来たら話し合う必要があるようだ。


「それと、僕は君を大変気に入っている。だから是非とも予想されるつまらない未来の大学生活を楽しい物にして欲しいと思っているんだ」

「はぁ? あ、ま、まさか弥白先輩は俺の事を……」

「ないです」

「(´・ω・`)」


 やり返されてしまった。しかも勘違いの恥ずかしさと、それを口にしてしまった恥ずかしさと、即座に否定された恥ずかしさのジェットストリーム羞恥心でマジ卍。

 ……精神ダメージで思考がだいぶと頭が悪い感じになってる。


「じゃあ本題に入ろう。計画の第一段階だよ」

「……はい」

「まずは……僕と仲良くなる事だっ!」

「無理です」

「即答!? ちょっと待つんだ逢坂君」


 キメ顔で言われたのがイラッときてつい条件反射してしまった。考えた所で答えは変わんないけどな。


「だって俺、弥白先輩苦手ですから」

「……泣いていい?」

「やめてくださいよ!? アンタそういうキャラじゃないでしょう!」

「だって、僕人気者だし……そんな扱い受けた事ないから耐性がないんだ……」


 う、うぜぇ……。自慢にしか聞こえないんですけど。


「ほ、ホントに嫌いなのかい!? た、確かに意地悪してるけどっ! これから先もやめるつもりないけど!」

「やめるつもりないのかよ!?」


 やだこの人ー。本当に碌でもねぇ……。つーか、仲良くなるつもりないだろ。


「いや、嫌いとまでは言いませんけど。嫌いならこんなとこ来ませんし。ただ、必要以上に仲良くなるのはちょっと……」

「僕が思っている以上に僕の評価が低い……」


 あ、自分で評価低いって分かってたんだ。

 そりゃそうか。人にこんな呪いかけといて……いや、まぁ、それも俺の問題でもあるんだから全部弥白先輩が悪いとは言わないけどね?


「そ、そうだ! 逢坂君はその不安定な状態をどうにかしたくないのかな!?」

「うぐっ、それは……したいですけど」

「その為に僕と仲良くなるのは最低必要条件だよ!」

「せ、背に腹はかえられぬ……か」

「……ぐすっ」


 泣いた!? ちょっ、はぁ!? どどどどどうなってんの!


「なんで泣いてんですかっ!」

「だってー。逢坂君が意地悪なんだもんー」


 意地悪!? 自分の事棚に上げすぎじゃないですかね!

 出会ってから俺にした発言等々を自分の胸に手を当ててよく思い出して欲しいんだが。

 ってか、だもんーってキャラ崩壊し過ぎだから。


「僕、耐性ないって言ったじゃんー」

「この豆腐メンタルめ!」


 完璧超人で、会長で、魔女で、ドSで、んでもって同人ゲームの声優をしていた弥白先輩は、実は豆腐メンタルの持ち主だった。

 やっぱり……なんか苦手だっ!

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