#3
最近、女子が仲が良い。それ自体はいい。とても喜ばしい事だし、俺としても眼福だ。
ただ、こう言うのも何だが……寂しい。
少し前まではほぼ毎日登下校は一緒、休み時間も一緒だった和華が、登下校は寧々音と姫ちゃん、休み時間は七家さんと一緒に行動する事が多くなった。
それに伴い、元々リア充グループと俺達のグループで二重交流をしていた七家さんと俺のコミュニケーションも減り、俺は一人でいる事が多くなっている気がする。というか、なってる。
確かにいつかはこうなると思ってた。でも、早すぎないか?
元々俺は友達が多い方でもないし、つるんでいる陸斗は友達が多いからいつも一緒というわけではなく、結構一人でいる事が多かった。
だが、ここ最近、俺の周りはとても騒がしく、楽しかった。
だから余計、寂しいと思ってしまうのだ。
「まぁ、でも和華はすぐにこうなると思ってたけどなぁ……あいつ、普通にしてたら可愛いし、面白いからな。天然で」
昼休み、七家さんに連れられて学食に初めて行った和華。俺も誘われたが、どうにも気が乗らず断ってしまった。寂しいくせに断るとか何してんだろ。……分かってるよ。子供みたいにいじけてるだけだ。
見送った後に後悔をして、俺は何となく屋上へ続く階段を登っていた。
もちろん、屋上は閉鎖されているから、目的地は踊り場だ。
そういや、ここはカップルがホニャララするのに使う場所だとか陸斗は言っていたが、そんな気配は全然感じなかったなぁ。
俺達が陣取ってたからなのか、それともその噂自体が嘘だったのどっちかだろう。
もう少しで踊り場という所で、その踊り場から人の気配がした。
七家さんと和華は食堂に行ったし、寧々音と姫ちゃんという可能性は考えにくい。
という事は……先客……それもこんな人気のない場所に来るなんて……つまり……。
教室に戻ろう。
ヤってる所に鉢合わせとかしたくないし、向こうもされたくないだろう。覗きは俺の趣味じゃないしな。
「とっ、わっ、ぶっねぇ……」
回れ右で帰ろうとすると、階段を踏み外してしまい、転げ落ちそうになる。それを堪えようと踏ん張った所、声が出てしまった。
背中に冷や汗が流れ、走って逃げようかと脳裏に過ぎる。そして、一歩踏み出すのと同時に声が掛かった。
「そこに、誰かいるのかい?」
そう聞かれた。多分、普通なら俺はここで立ち止まらずに走り去っていただろう。
さらに言えば、『Reフレイン』をプレイしていなかったら同じく逃げていた。
でも、俺は『Reフレイン』をプレイしていて……尚且つエロゲの声優に関しての、聞き分けるというスキルが高い。と思っている。
たとえば、別のゲームではロリ声をしていても、他の作品だとお姉さんの声をしている声優なんてのもいる。そんな時、声優の声は驚く程に変わる。だが、やはりその人らしさというものがあり、俺はそれを聞き分けるのが得意だった。
大量のエロゲをしてきた賜物……経験値のようなものだ。
そして、今の声。聞き覚えがある。
寧ろ、この高校の生徒ならば誰しも一度は聞いた事があるだろう声。
「ここはいいね。静かで、落ち着く」
物陰から出てきたのは、制服をお手本のようにきっちりと着た女子生徒だった。
スラリとしたモデルのような体型で、それなのに出る所は出ている。髪はショートでボーイッシュな感じだが、雰囲気は中性的では無く、お姉さんという感じだ。顔は七家さんのように人懐っこい可愛い感じでも、和華のようにキリッとした美人顔でもないが、妖精とか、エルフとかそんな非現実的な言葉が似合うような、そんな美しさを思わせた。
しかし、何より耳に、脳裏に焼き付くのは、その声だ。
響く。
教室、体育館、グラウンド、どこでだって彼女の声はマイクなしでもよく通り、響く。
初めて見たのは入学式の時。在校生代表で出席していた。誰もがその人を見て、憧れ、そしてすぐに手の届かない人なのだと本能的に理解する。
そう、そこに居たのは峰ヶ浦高校生徒会生徒会長、三年生、
「ここは君の特等席だったのかな? ごめんね。ちょっと借りていたよ」
別に俺の場所でもないのに、会長は謝って、階段を降りてくる。
多分俺は自分で思っている以上に好奇心があり、思った事を口に出しやすい質なのだろう。
俺の横を通り過ぎる一瞬、ボソリと、しかし会長に聴こえるように口に出していた。頭では七家さんにななまりかどうか聞いた時の事が思い起こされる。
「生徒会長は……やしまですか?」
横を通り過ぎて数歩、会長は足を止めた。そして振り向くと、
「ん? そうだよ。僕の名前は江戸弥白だ」
「そうじゃなくて。俺が言ったのはやしろじゃなくてやしまです」
声が似ている。名前が似ている。七家さんの時と同じだ。
なら、次の反応はしらばくれるか、否定するか……。
「……うん。僕が山吹やしまだ」
驚く程あっさりと認め、正直拍子抜けした。
だって認めたのだ。生徒会長が、あの江戸弥白が、同人ゲームの声優をしていると。
七家さんだって最初ははぐらかしていたのに。
「随分、あっさり認めるんですね」
バレたらヤバいのは七家さん以上だ。俺が言うのも何だが、この人はどうする気なのだろうか。
「悪足掻きした所で、行き着く先は一緒のような気がしてね。さて、僕はやしまだけど、それを知った君はどうするのかな? お約束通り、えっちな事でも要求するかい? それともお金かな? バラさせるのは困る」
なんだこの人。薄気味悪い。
淡々と現実を受け入れて、あくまで冷静沈着で……。
俺がたじろぐと、会長は微笑んだ。
「顔に出ているよ。気味が悪いって。せっかく生徒会長をどうにかできるチャンスを獲たんだ。もっと喜んでもいいんじゃないかな?」
「俺は……別にどうこうしたくて言ったんじゃ……」
「へぇ、それなのに人の弱味を握ったんだ。分かってもスルーする事だって出来たのに。好奇心は猫を殺すって言うよ? 君のしている行為は人の触れられたくない心にズケズケと土足で入るのと何が変わらない?」
ドキリとした。
好奇心。確かにそうだ。それに、言われると、俺はあのウザかっていたリア充共と大差ないのではないだろうかとさえ思えてくる。
俺のやっている事ってなんだろう? 何を期待していたんだ?
特別を……期待していたんだ。
七家さんの時は声優と仲良くなれるかもしれないという特別な関係を期待し、そしてまた生徒会長との特別な関係を期待したのだと思う。頭で違うと思っていても、もっと奥底の自分が肯定する。
どうこうしたくて言ったんじゃない? どうこうなりたかったんだろう。下心があったんだ。
だから会長の言葉にドキリとした。
「おっとすまないね。僕が脅されている立場なのに。やしまの事はどうか公にしないで欲しい」
「……しませんよ。というか、もう関わりません。すいませんでした」
これ以上この人に関わりたくない。何を考えているのか分からない。見透かされているような目が怖い。
だから口早にそう言った。
「……そうか」
それだけ言うと、会長は何故か残念そうな顔をして階段を降りていった。
どうしてそんな顔をするのか意味が分からない。そして分からないからとても怖い。
会長の足音が遠ざかり、気配が消え、俺は安堵したようにその場に座り込んだ。
「なんなんだあの人。めちゃくちゃ苦手だ」
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