番外編
いわゆる一つの寧々音ルート?
#S1
これはうちの頭のおかしい妹と俺のちょっとした日常である。
朝、突然の腹への強烈な一撃によって目が覚めた。
「おぐぅふぅ!?」
「やぁ、輝兄。おはよう」
起きてすぐに意識が飛びかけたが、何とか留まらせて目を開ける。
俺の腹の上には体操選手よろしく両腕を高く上げてキリッとした顔をする我が妹、寧々音の姿が目に映った。
なんでそんな凛々しい顔してんの?
「ぉ、ぉ、おはよぅ……」
「さぁ、今日は待ちに待った日だな。さっさと起きろよ輝兄」
「待ちに……待った?」
今日は日曜日で、昨日の夜はお楽しみだった。何ってエロゲしてたんだよ。
とにかく時計を見ると時刻は午前7時。ダメだ一時間半しか寝てない。
頭が回らない事もあって、その待ちに待った日というのが何を言っているのか分からず首を傾げる。
「覚えていない……だと?」
「何かの発売日だっけ? 漫画? ゲーム?」
しかし記憶を探っても俺の持っている漫画やゲームの発売日ではなかった。
やはり寧々音に何か聞かないと。
「ゲーム!」
ほう、ゲームとな? しかしあのエロゲもそのエロゲも発売日は来月だったはず。
同じく全年齢のゲームやFPS系のゲームもめぼしいものはなかったはずだが……。
はて、何か……そう言えばゲームと言っても寧々音の好むのは俺がしているようなゲームではなく、携帯アプリのゲームだった。
つまり、そっちか。
「何かあんの? イベント? 悪いけど周回もリセマラの手伝いもしないよ?」
何度か手伝ったリセットマラソン、略してリセマラという行為は、アプリゲームで欲しいキャラが出てくるまでインストール→チュートリアル→初回ガチャ→アンインストール→インストールを繰り返す地獄の行為だ。
五十回を超えた辺りから目が虚ろになって、百回を超えたら記憶が無くなった。あれ? 変だな。体が震えだした。
「ちーがーうー。とにかくさっさと着替えて、出かける用意をするんだ」
「えぇ……。俺の予定では昼まで寝る予定なんだが」
「そんな未来があるとでも?」
うぅ、俺の安眠が約束されない未来なんて……。つーか、寧々音が自主的に外に出掛けるなんて珍しいな。
とにかくこのままでは本当に睡眠妨害されそうなのでさっさと諦める事にする。
なる早で用事なるものを済まして帰って寝よう。
「分かった、分かった。着替えるから先に下に行っててくれ」
「うむ」
ううん、まだ頭がボーッとする。寧々音が出ていったら五分だけ寝よう。五分寝たらちゃんと起きて今度こそ準備する。うん、絶対。
「……いや、やはり寧々はここにいることにするぞ」
「……何故?」
「輝兄ならこの後五分だけ寝ようとか考えて、確実に三十分は起きてこない。だから寧々がここで監視する」
うちの妹、エスパーか?
まったくもってその通りだ。これだから俺の行動を熟知している妹なんて……。
まぁ、嫌いではない。
しかし、こうなってはもう二度寝は出来そうにない。
仕方が無いので部屋着兼寝間着を脱いで、クローゼットから無難な服を取り出す。
――カシャ
「なんで撮った?」
いつの間にか俺と入れ替わりにベッドで横になった寧々音が、若干ローアングルで俺の事を携帯で写メりやがった。
尚、俺は上半身下半身共に服は着用しておらず、シャツとトランクスのみ。これが二次元なら「お兄ちゃん、妹の前で着替えないでよ」とか言われそうだが、リアル妹なんて意外と気にしないものだ。もしかすると寧々音が特別なのかもしれんが。比べる対象がないので分からん。
でも、寧々音が下着姿で俺の部屋を訪問するのもしょっちゅうだし、別に互いに何とも思ってないのだから問題なかろうなのだよ。
「つい」
「ついで兄の半裸撮らないでくれないか?」
「いや、売れるかと」
「どこに?」
「……市姫?」
何故そこに売ろうとした。
「それ確実に俺嫌われるやつだから。何故か次会ったときにめちゃくちゃ罵倒されるやつだから」
「そんな事ないと思うが……。じゃあ漫研……?」
「お願いやめてください」
あそこ、漫研とは名ばかりの腐女子の集まりだから。確実にネタにされるから。陸斗とカップリングされた日にはきっと家で咽び泣く。
「なら、さっさと用意しろ」
「ういっす」
ペチペチと布団を叩く駄々っ子のような寧々音。言われなくとも着替えるっての。
手に持った服をさっさと着て、机の上に放置していた財布や携帯諸々を持って準備を終える。
「ほい、完了」
「よし、行くぞ」
「何処に?」
「ビックサイト! 今日は寧々が最近ハマってるゲームのイベントがあるのだぞ」
なるほどね。ゲームのイベントか。
俺もたまにそういうイベントには参加するが、なんというか、めちゃくちゃ楽しい。
何がと言われると全部と答えちゃいそうだが、敢えていうならまず熱気が違うのだ。
やはりゲームイベントにもなれば、そのゲームが好きな人や、その会社が作るゲームが好きな人間が集まるわけで、たくさんの好きが一つにまとまる…… 元〇玉みたいな?
数千、数万の同じ好きを持った人間が集まるって普通に凄いと思わないか? 俺は思う。
「市姫は興味ないし、一人で行くにはママンが多分許してくれない」
「おっけーおっけー。そうだよな。ああいうのに一人で行くのはな」
それも女の子一人は色々と大変だし、兄としても心配だ。
ベッドから降りて俺の隣に寄ってきた寧々音の頭を撫でる。
「ほう、輝兄の撫でスキルが上がっている」
「まぁ、最近撫でるのをねだってくる奴がいるからなぁ」
「何それ寧々以外を撫でてるの?」
「和華だよ」
クラスメイトで、友達の和華を撫でた事があるのだが、それから撫でられるのが気に入ったのかやたらとねだってくる。
これが、やたらとねだり方が可愛かったり、髪がツヤサラで触り心地が良かったりと、俺も言われるがままに撫でてしまうのだ。
そのせいか、俺の撫でスキルはスキルアップしていっているようである。
「これは浮気だ……。寧々の頭を撫でるのは遊びだったんだな! もう寧々の頭は撫でさせてあげないぞ」
「おいおいマイリトルスイートシスターよ。冗談はよしてくれ。俺は寧々音の頭を撫でないと……えーと、禁断症状でどうにかなる」
「ほう、どうにかとは
「そうだな。狂化して、寧々音に抱きついてしまう。そして、寧々音を抱き枕にしてしまうかも知れない」
「ほう、なるほど。じゃあ、はい」
互いにふざけて言っていると思いきや、突然、寧々音が両手を広げて俺の受け入れ態勢を整えた。
え? これ抱きしめていいの? 犯罪じゃない? 通報されない?
「どうした輝兄。抱きしめてしまうのではないのか? まぁ、彼女いない歴=年齢の輝兄には妹にハグする事もできんか」
「おまっ、言ったな? ハグするぞ? ハグっちゃうぞ?」
「ほら、来いよ腰抜け」
その台詞マジ腹立つ。
もう、怒った。ならば兄の本気、見せてやろう。
ちっさい寧々音の体を抱きしめる。
思った以上に柔らかく、それに少しいい匂いもして、妹とは言えやはり女の子なんだと痛感させられた。
ただ、それ以上の感情が芽生えるわけもなく……。
「寧々音よ。この何も生み出さない不毛なハグに何か意味はあったのだろか?」
「ふむ。では……」
――カシャ
「何故撮った」
「これを市姫に」
「それ、俺が殺されるやつだから!?」
寧々音の友達である市姫こと姫ちゃんは寧々音が大好きなわけで、その寧々音と俺が抱き合っているのなんか見たら、俺に明日は来ないだろう。
「まぁ、アレだ。今日付き合わせるから先払いみたいなものだぞ」
「こいつ体で払いやがった」
そういうの、いけないと思います。
色々と可愛い(特に胸の辺り)寧々音が非行にはしらないように兄としてしっかり見ておかないと。
「痛い!?」
突然足を思いっきり踏んづけられた。何しますのん寧々音さん。
「今凄い失礼な事を考えていた気がしたから」
やっぱりエスパーじゃね?
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