#33
あの教室での騒動から数日経った放課後。
俺はまた教室に残っていた。今回もまたゲームを深夜にしていて、本日最後の授業で見事に眠気に抗えず寝落ちしてしまったのが理由だ。
どうでもいいけど、現国の先生の声って眠くなるんだよね。
まぁ、例の如く陸斗は俺を起こしてくれず、和華も今日は用事があるから急いで帰ると昼休みに聞いている。
それで、七家さんだが……。
それについて少しだけ話がある。
騒動の後、色々とあった。
教室に戻ってくるや、すぐさま七家さんはリア充グループに引っ張られて行き、俺と和華も好奇の視線に晒されることになったのだが、和華が一言「こっち見んな不愉快」と口にした事で、あからさまな視線は無くなった。
しかし、七家さんの方はそうはいかず、元々アニメやゲームが好きだったというカミングアウト後もグループから離れないように説得されたのだ。
それだけ彼ら彼女らにとって七家さんは大切な仲間だったのだろう。
一年からの付き合いだった女子の友達からも引き止められ困った七家さんは、最終的にどちらとも仲良くする的な立ち位置に落ち着いた。
向こうはそれに対して不満はあったらしいが、こちらとしては何も文句は無く、とりあえずはそれで収まった。
それで帰りは家の方向が反対という事もあり、七家さんは元々の友達と帰っている。
だから俺が誰にも起こされなかったのは何も不思議な事ではないのだ。陸斗は殴るけど。
「そっちいったー」
「オーライ、オーライ」
グラウンドからは野球部の元気な声が聞こえてきた。彼らはあの、球を投げて打って追いかけるスポーツの何が好きなのだろうか。もやしっ子でインドアな俺には到底分からない感覚だ。
そして、彼らもまた俺が朝の4時起きで、店舗前に並んでエロゲを買う気持ちなんて理解できないだろう。
グラウンドから視線を戻して教室を見渡す。
誰もいない教室は何処か哀愁を帯びていて人を詩人にさせる。
そう、こうして椅子に座っているだけでも頭にぽつりぽつりと言葉が……やっぱり出てこないわ。全然浮かんでこない。俺に詩人の才能なんてなかったようだ。
「ふぁ〜。アホな事してないで帰ろ」
まだ眠気が完全に覚めたわけじゃないようで、大きな欠伸をしながら立ち上がる。
さっさと家に帰ってもう一眠りしよう。夜はパーリナイだ。最近、新作を手に入れて、これがまたどのキャラのシナリオも感動出来る泣きゲーで俺の涙腺が毎晩大崩壊なのである。
今日は生徒会長を攻略しよう。噂では作品の一二を争う感動ぶりだとか。
是非とも俺に涙を流させてくれ。
夜におこなわれるパーチーに期待を募らせつつ、教室の扉へと近づく。すると、廊下からタンタンタンと誰かが走る足音が聞こえてきた。
あぁ、何となく。
本当に何となく。
俺は予感を感じていた。
この扉を開くときっとまた……何かが起こると。
あれから毎日楽しい。充実している。これがオタ充というやつなのだろうか。でも、まだ何か足りない。言うなれば文化祭後のクラスの雰囲気みたいな、終わってしまった感を感じていたのだ。ごめん、やっぱり文化祭とかまともにしたことないから勘違いかもしれない。
でも期待してしまう。期待して、扉を開いた。
「ハァハァ……輝夜君っ! もう1回、手伝って!?」
走ってきたのだろう。息を切らせながら俺の肩を掴んだ七家さんは俺の目を見てそう言った。
「また?」
「うん、またえっちなの!」
彼女は声優としてまだ新人で、ゲームで言うところの初心者プレイヤーだ。
俺は声優についてそんなに詳しい訳でもないし、何も手伝える事はないと思っていた。
けど、ことエロゲやADVという分野では俺に一日の長がある。中堅プレイヤーくらいには位置していると思う。
さて……ところで経験値が少ない初心プレイヤーを助けるのはゲーム好きとしては当たり前の行為じゃないか?
それが……たとえエロゲだとしてもな。
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