#30
雫姉ちゃんの言葉がどうにも引っかかり、しかし何故引っかかるのかさえ分からずにモヤモヤした気持ちを抱え込んでいた。
それでも普段通りに過ごしていたつもりだったのだが、下校中、和華と一緒に帰っている時の事である。
「朝から元気ないけど考え事? 何か手伝えるなら何でもするけど」
「今何でもするって言った?」
「お、おう。アタシに出来ることなら……あ、あぁ、えっと、えっちな事は……ダメだぞ?」
「……なんか、ごめん」
「ん?」
こんな純粋な乙女ヤンキーに俺は何て事をしたんだろうか。つか、恥じらった顔がめちゃくちゃ可愛かった。その後の小首を傾げる姿もなかなかです。
「いやさ、俺らしいけど、俺らしくないってどういう意味だと思う?」
「なにそれトンチ?」
「違うと思う」
そりゃ何のことか分からないよな。でも説明したくとも俺が分からないだけに説明のしようがない。
「んー、ちょっと話変わるけどさ。和華は俺と七家さんが仲良かったらどう思う?」
「七家? あぁ、あの女か。それはアタシが二人仲良くしているのを見た時ってことか?」
「うん。まぁ、そんな感じで」
「嫉妬する。めちゃくちゃ嫉妬する。でも我慢する」
「そ、そうか……」
そういうことじゃないんだけどなぁ。でも、やばいくらいニヤける。
抱きしめてやりたいくらいだ。いや、もうこの際頭くらい撫でてもいいんじゃないか?
「和華。よーしよし」
「ひゃっ」
ひゃっ? 今の声って和華?
俺が頭を撫でると、驚いた猫のように背筋をピーンと伸ばしてその場で跳ねた。
「い、いきなり何すんだよ輝夜!」
「いや、何となく。頭撫でてやろうかと」
「いきなりすぎるだろっ!」
「ダメだった?」
「ダメじゃないー。ダメじゃないけどさー。あーもう……どうぞ」
怒っているのかと思いきや頭を傾けて差し出してきた。
どうやら撫でてもいいらしい。一体なんなのだ。まぁ、撫でるけど。
「和華って髪サラサラだよなぁ」
「そ、そうかよ」
やっぱり怒ってるのだろうか? えらくご機嫌ななめというか、ぶっきらぼうな返答になっている。
「嫌なら嫌って言えよ? うち、俺と寧々音の距離が近いから、女の子との距離感がイマイチ分からない時あるからさ」
「大丈夫。嫌じゃないから」
「そっか」
とは言えこんな道の真ん中でいつまでも撫でているわけにもいかず、すぐに手を離す。
誰かに見られでもしたらバカップルと勘違いされかねん。
「あっ」
手が離れると、和華が名残惜しそうな声を出すので、まだ撫でてやりたい気持ちはあるのだが、それにしても俺の撫でりスキルはいつの間にか和華が名残惜しむ程に上達していたようだ。
ふむ、何かと昔から寧々音を撫でたりしていたからだろうか。
「話戻すけどさ。七家さんってあの林田とかいう男子のグループじゃん」
「林田? 誰それ」
「あの金髪の」
「黒岩?」
「あれは偽物。いや、林田も偽物だろうけど。ちゃんと似合ってる方だよ」
「うぅ……?」
その困惑顔は覚えてないね。クラスメイトで一番目立ってるだろう奴の顔さえも覚えてないのね。まぁ、俺もそこまで人の事を言えた物でもないけど。雫姉ちゃんに言われるまで林田の苗字さえ忘れてたからな。
「まぁ、クラスのリーダーって感じの奴がいてさ。そいつの仲間というか、友達なんだよ」
「はー」
あからさまに興味ないって感じの気の抜けた返事で返す和華。
「あぁ、分かったぞ。あの女の周りにいる奴で一番うるさい奴か」
「あ、うんそれ」
合ってるけど認識の仕方がウケるー。
「んでさ、俺と七家さんじゃ所属してるグループも違うし、なんというか……色々違うじゃん」
「そりゃ違うのは当たり前じゃん?」
「いや、まぁ、そうなんだけど。仲良くするのは違和感あるというか、俺は日陰で、向こうは日向みたいな?」
説明分かりにくいかなぁ? でも、何となくわかって欲しいんだけど……。
少し考えるような素振りをして、改めて和華が俺の顔を見た。その顔はやはり不思議そうにしていて、やっぱり伝わらなかったようだ。
「なるほどね。言いたいことは分かった」
あれ? 伝わってる? じゃあ、なんでそんな顔を……。
「でも、分からない。だってさ。それを言ったらアタシと輝夜も違うだろ?」
「え?」
「出会った日、輝夜、アタシと友達になりたくなさそうな顔してた」
「あ、あぁ。そう言えば……」
あの時は面倒事というか、面倒な奴に絡みたくなかったので、出来れば知り合いにもなりたくないとさえ思っていた。
「でも、それは和華が特別っていうか……最初のイメージとは違ったっていうか」
「特別……輝夜の特別……はっ!? そうじゃなくて。コホン。そうじゃなくてだな。輝夜はなんだかんだでアタシを受け入れてくれたろ?」
「う、うん? 受け入れた……まぁ、そうなるのか?」
正直、そんな大層な考え方はしたことが無い。
友達になってと言われて困ったが、話してみると面白い奴で、すぐに一緒にいることが普通になっていた。
確かに言葉にすれば受け入れたのだろうけど。
「輝夜とアタシは違うけど、アタシと輝夜は違うから一緒にはいられないなんて考えないだろ?」
「それは……」
考えた事なんてない。
「日陰とか、日向とか、考えるのは輝夜らしいけど。それがあるから一緒にいられないなんて、輝夜らしくない」
ビシッと指を指された。なるほど。確かに俺らしくないのかもしれない。
「そっか、そうかもしれないな」
「お、おお。じゃあアタシの言ってた事は的外れじゃなかったんだな。よかったー」
「確証なかったんかい」
「だって輝夜の説明意味不明だし」
「そりゃ悪かったな」
「んじゃ、ご褒美とお詫びに撫でて」
ひょこっと頭を差し向ける和華。めちゃくちゃ気に入ってますね。撫でるけど。
確かに納得した。
つまり、周りから見ると、俺はうだうだ言っているが、行動では別の事をしているという事なのだろう。
だから七家さんとも、陰と陽とか日向と日陰とか、言い訳をしているけど、本当ならそんな事は気にせずに動いていたはず。
雫姉ちゃんもそう言いたかったのかもしれないな。
でも、違うんだ。
俺と七家さんの関係は協力者であって、友達じゃない。だから俺達を繋いでいた特訓という行為が消えるという事は、それは関係の終わりを意味している。
そして、友達になるには、俺と七家さんの間には障害が多すぎるんだよ。
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