#25
「えー、以上がここ三日間の捜査結果ですが……結果、黒岩先輩の自作自演説が最も有力な説ではないか? というのが結論です」
ここ最近、常連となりつつある屋上前踊り場で姫ちゃんと寧々音が立ち上がって、一年生で陸斗にラブレターを送ったと思われる女の子を探した結果を、捜査方法を含めて説明してくれた。
ちなみに案の定、寧々音はぽけっと立っているだけである。寧々音立たなくても良くね?
しかし、姫ちゃん曰く、寧々音がド直球に質問するおかげで捜査も捗ったらしい。まぁ、家に帰ったら褒めてやらんことも無い。具体的に言うとねるねを一つ買ってやろう。
そして、その結果だが……やはりというか、陸斗の自作自演、脳内彼女ではという結果になったらしい。
つまり、誰一人陸斗を好きな女子はいなかったわけだ。
「なるほど。ありがとう姫ちゃん、それに寧々音もな。んで、一応俺と和華も陸斗を監視してそれらしい女の子がいないか見張っていたんだが、そっちも無かった」
あまり一緒にいると、相手が近づけないと思い、陸斗には普段通りの学校生活を送らせ、俺と和華で離れたところから見ていたのだが、それらしい女の子どころか、誰一人女子は近づかなかった。
やってくるのはオタク系の男友人ばかりで面白い事もなく、和華なんて途中で飽きて横から俺にイタズラをして来る始末。耳にフッと息を吹きかけるのは本当にやめて欲しい。
変な声……でちゃうの……ポッ。
「つまりだな陸斗……」
「違うからな!? 俺は自作自演なんてしていない! 見てみろよ。この丸っこい文字。俺に書けると思うか!?」
後に続く無情なる言葉を遮り、手紙を押し付けてくる。
見苦しい事この上ないが、しかし確かにこんな字をこの足立先生に「お前の文字は象形文字か楔形文字なのか? せめて読める字で書いてくれ」と言わしめた陸斗が書けるわけがない。
「ふむ。じゃあ代筆か」
「なわけねぇだろ! そろそろ泣くぞ」
「まぁ、流石の馬鹿でもそこまではしないか。という事で引き続き手紙の主はいるという事で調査を続行するけど……」
特に他の三名からは異議はなく、とりあえず期限の週末までは捜査続行になった。
ただ、一年生への聞き込みの方はすでに終了しているので、一年生の二人の捜査はここで終了となる。後は俺と和華の張り込みチームが星の尻尾を掴めるかだが……。
しかし、その日もやはり陸斗の周りにはオタク男子しか集まらず……手紙の主と思われる人物は誰一人現れなかった。
というか、陸斗のオタクホイホイぶりに嫉妬さえ芽生えてくる。
こいつ、実はオタ充という奴だったらしい。俺以外のオタ友が思っていた以上に多かった。
私とは遊びだったのね! なんて別に思わないけど少し複雑な気分ではある。
そして、ラブレターの主探しもだが、俺にはもう一つ課題があるのを忘れてはいけない。
もちろん、七家さんの事だ。
よく考えなくともラブレターの主よりも俺にとって重要な事なのは確かで、ネットで調べてみたもののいまいちピンと来ないサイトばかり。
正直、取っ掛りさえ掴めないでいた。
「そりゃ向こうの方が長く付き合っているのは分かるけどさ、ちょっと嫉妬する」
あちこちに頭を巡らせていると、横から和華に横腹をツンツンされた。
すっかりと一緒に帰ることが習慣化してきた今日この頃。二人きりの帰り道は、初め嬉し恥ずかしという気分だったのだが、和華の飾らない性格もあって今ではすっかり気楽な登下校になっている。
「何の話?」
「凄い難しそうな顔で考えてただろ? 黒岩の事で」
あぁ、そりゃそう見えるか。というか、一緒に帰ってる人がいるのに気を散らすのは失礼だった。反省しなくては。
「ごめんごめん。それも含めて色々と考え事をな」
「ふぅん。あの名前は知らないけど、いっつも騒いでる奴らの中の女?」
「……は?」
和華の言っている奴らとは例の俺がリア充グループと呼称しているグループの事で、その中の女というのは二人いるうちの一人、どう考えても七家さんの事だ。
しかし、何故バレた? ここ数日は外でも会っていないし、学校内じゃ皆の前では一度だって話した事はない。
互いに距離を置いて、ちゃんと別世界の住人なんだと棲み分けていたはずだ。
向こうは陽でこっちは陰なのだと。和華にはその辺の分別は付いていないようだけど、それは彼女の持ち味だからいいとして……。
「ええと、どういう事、かな?」
一度シラを切って見せる。もしかすると当てずっぽうで言っている可能性もあるかもだ。
「自慢じゃないけど、アタシ、輝夜のことずっと見てるんだ」
ぎゅっと頬を優しくつねりながら、和華はにぃっと歯を見せて笑った。
「もっと輝夜の事が知りたくて。他の奴に負けないくらい仲良くなりたくて。見てた。そしたらたまに輝夜ってあの女のこと見てたよ」
「ま、まじか」
「大マジ」
「その、一応知り合いというか……えーと、実はだな、むぐぅ?」
どう説明したらいいのか分からず、しどろもどろになって当たり障りのない嘘をつこうとして……頬をつねっていた手が動いて口に当てられた。
「いい。詮索はしない。学校でも他人の振りしているみたいだし。気になると言えば気になるけど、秘密って他人に言えないから秘密なんだろ」
「…………ごめん」
こんなにも信じてくれている人に嘘をつこうした事に。
そして、今は何も話せないことに。
胸を締め付けるような罪悪感からそれ以上の言葉が出なかった。
すると、次は鼻を指で弾かれた。痛くはないが、突然何をするのかと鼻を抑えながら和華を見ると……溜息を吐かれる。
「はぁ……。何がゴメンだよ。あの女とやましいことでもしているのか? 違うだろ? じゃあ、謝る必要はないだろうが。ほら、もうこの話はお終い。今はアタシとの時間を大切にして欲しい」
「……分かった。それと、これだけは言わせてくれ」
「まだ何かあんのかぁ?」
「ありがとう和華。俺は良い友達を持ったよ」
「はぁ!? い、いきなりなんだよ……。うぅ……アタシこそ、だっての……」
俺の言葉に本気で照れて顔を赤くする。でも、すぐにいつも通りの笑顔で喜んでくれる和華。
どれだけ感謝してもしきれない気がする。俺と友達になってくれて、ありがとうって。
あと、やましいことしているのか? という質問だが、若干やましいですはい。
無論、本気で七家さんの力にはなりたいと思っているが、その為の方法がやましい……いやらしい事になったのでやっぱりそこは心の中で謝っときます。
……なんか、ごめん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます