#24
流石に家の中でもニヤニヤしていると、寧々音の言うところの大変な変態になってしまうので、頬を引っ張って緩んだ顔をしまらせた。
今日は日曜で父母共に仕事はないが、朝から出掛けている。寧々音が倦怠期と言っていたが、実際には母さんが相手をしていないだけで、親父の方は母さんにベッタリだ。そうじゃなければいい歳したおっさんが自分の妻をママンとか言うまい。
つまり、家には寧々音と昨日から泊まりに来ている姫ちゃんが留守番をしているはず。
女の子二人なので用心の為、出かける時は鍵を掛けておいたので、それを開けて、家に入る。
居間には誰もおらず、恐らく二階の寧々音の部屋で二人仲良くしているのだろう。
「とりあえず部屋に戻るか」
帰ってきたのに出迎えもないのは少し寂しい気もして、何となく行動を口に出してしまう。
そう言えば前に七家さんの家に行って帰ってきた時は寧々音が俺の部屋で漫画を読んでいた。あの時は疲れていた事もあって何も言わなかったが、流石に年頃の男の子の部屋、それも部屋主である俺がいない時に入るのはやめて欲しい。
あと、母さんも俺がいてもいなくても勝手に部屋に入って掃除をするのもやめて欲しいものである。
エロゲはあえて一般向けのゲームと同じ場所に堂々と片付けているので逆にバレないのだが、それ以外にもまぁまぁバレたくない物はあるからな。
「あ、おかえりなさい。輝兄さん」
開けて……閉めた。
ふむ。ここは俺の部屋のはず……。
一応の為に周りを見渡す。隣が寧々音の部屋で、階段から一番奥が両親の寝室だ。
やはりここは俺の部屋だった。
だと言うのに俺の部屋には姫ちゃんと寧々音が居座っていて……。
もう一度扉を開ける。
「おかえりなさいあなた。毒殺にする? 溺死にする? それとも……ワ、タ、シ?」
「最後の変えてない台詞が一番怖いわっ!」
何されるか分かったものじゃない。それにしても何というか、力が抜けた。
怒る気にもなれない。
寧々音は先日と同じくベッドに転がって漫画読んでるし、姫ちゃんも……。
「ちょっ、何してんの!?」
「お気になさらず〜」
「いやいや、お気になりますぅ」
何を隠そう、姫ちゃんは俺のゲーム棚を整理していた。もちろんエロゲもしっかりと出されている。見た目普通のゲームに見えるのもあるが、そうじゃないのもあり……。
「私、こういうの名前順に揃えたくなるんですよね。ええ、はい。それだけですよ? 輝兄さんの性癖が最近また変わってきているなぁ、なんてチェックなんてしてませんとも」
え、チェックされてたの? というか常習犯?
「いつもは寧々が写メって市姫に送ってる」
「何してんの君達!?」
「「兄の性癖観察」」
「まじやめて?」
泣くから。親に見つかって家族会議より辛いから。
つまり、俺は妹だけならず妹の友達にまでエロゲの趣味嗜好を知られてしまっていたわけか。
自殺物だなこりゃあ。
「というか、姫ちゃんは俺の妹じゃないでしょ」
「はい。でも寧々音の兄なので、いずれは義兄ですよね?」
「……それもそうか」
今日も今日とて百合百合しいお二人。あぁ、心がぴょんぴょんするんじゃぁ。
「はて、寧々が義妹になるの間違いかな?」
「ね、寧々音っ! そういうのやめてって!」
「はて何のことやら。あぁ、初めて輝兄に隠れてこの部屋に侵入した時は輝兄の制服を……」
「寧々音を殺して私も死ぬぅ!」
突然、二人が俺のベッドで暴れ出す。
寧々音が妹? もう既に妹だろうに。
暴れている理由は分からないが楽しそうで何より。俺の制服云々は怖いので聞かなかったことにしよう。
「まぁ、とりあえず出てけ?」
「あぅ」
「にゃぅ」
ということで引っ捕まえて廊下に放り出した。二人とも軽いのでポポイのポイである。
衝撃の事実ではあったがあの様子だとエロゲなんかは不問という事だろう。
ならば俺もこれ以上ことを荒立てず、流そうではないか。
で、姫ちゃんが整理整頓して綺麗になったゲームの棚を覗くと、綺麗に全年齢と十八禁に分別されて、その上で名前の順……あれ? この部分だけ分別されてないな。
ふむ。俺が途中で帰ってきたから出来なかったのかな?
それにしてもどれもこれも後輩が可愛い系のエロゲなのは偶然だろうか?
まぁ、偶然だろう。
ささっとその辺も名前順に入れ替えていると、コンコンと控えめに扉が叩かれた。
性懲りも無く二人がやってきたのだろうかと思って、扉を開こうとするが、違和感を感じた。
そもそも寧々音ならばドアノックなどせずに突撃してくる。
「あの、輝兄さん」
扉越しに聞こえたのは姫ちゃんの声だった。
「お、怒ってます?」
「ん?」
姫ちゃんらしくもない何かに怯えているような声色だった事に驚かされた。
まるで出会ったばかりの頃のみたいな、こちらに探りを入れるかのような、距離を掴めていないような感じだ。何かあったのだろうか?
「勝手な事をして怒っているなら、謝ります。だ、だから、その……嫌いにならないで……」
意味が分からない。俺が姫ちゃんを嫌いになる事なんてまずありえないのに。
俺が扉を開けようとドアノブに手を掛けると、向こう側からそれを押さえられた。
本気で押せば開きそうなくらいの力だったが、それはせずにドアノブから手を離す。
「えーと、俺は姫ちゃんの事嫌いになってないよ? なんでそんな事を思ったのか不思議なくらいだけど」
寧ろ、嫌われるのは俺の方だろう。大量に隠し持っているエロゲが見つかっていたのだ。
普通の女の子ならこういうのは毛嫌いするものじゃないだろうか?
残念ながらその辺の知識はないので、分からないが、アレらを見られて普通に接してくれる方がありがたい。
「私も不思議です。普段はこんな事は絶対に言わないのに……でも、不安で……」
不安? 俺何か不安になるような事でもしたか?
はっ!? まさか、俺が姫ちゃんに何か如何わしい事をするとでも思っているのだろうか? それならばすぐに誤解を解かないといけない。
「安心してくれ! 俺は絶対に何もしないから! ちゃんと現実は心得ているつもりだ。誓おう、俺は君にぶへっ!?」
鼻への強烈な痛みと共に俺は床へと転がった。
扉前に立っていたら、突然勢いよく開いて、俺の鼻をクリティカルヒットしたのだ。
「輝兄さんのバーカ! 輝兄さんなんて三回回ってワンと鳴けばいいんですっ!」
「何故!?」
馬鹿呼ばわりも何故だが、三回回ってワンも意味が分からない。
とにかく、痛む鼻をさすりつつ、もう一度仕切り直す。
「俺は姫ちゃんも寧々音と同じくらい大切な妹だと思ってるからね。だから安心してくれないか?」
「えぇ、はい、安心しました。これで輝兄さんの有り余った性欲によってあんな事やこんな事、果てはそんな事やこんな事までされなくてとても、と、て、も、嬉しいです! では失礼します!」
そう言って寧々音の部屋へと帰っていった姫ちゃん。
喜んで貰えたようで何よりだけど……ならどうしてあんなに怒っていたのだろうか。
考えたが、答えは出なかった。リアルの女心はよく分からん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます