#22
「という事があったわけだ」
「むぅ」
日曜日の昼過ぎ、俺は連絡を受けて再び七家さんの家にお邪魔していた。
そこで、金曜に起きた事を話題にして説明していると、唇を尖らせて何やら不機嫌になってしまったのである。
その理由が分からず、何か失言があったかと考えるが先日のようなセクハラ発言もしていないし、何も問題はなかったはずだ。
「どうかした?」
「楽しそう」
何を言い出すかと思えば、俺達のしている事が楽しそうだと言い出した。
「まぁ、楽しいと言えばそれなりに楽しんでるけど。それを言うなら七家さんのグループの方がいつも楽しそうだけど?」
新たなクラスになってまだクラスのグループ分けも完成していないというのに、あのリア充グループはまるで最初から友達だったかのように毎休み時間に集まっては楽しそうに談笑している。
昨日だってそのグループで近くのショッピングモールに遊びに行っていたらしい。というのも、その予定を立てているのを偶然教室で聞いてしまったので本当に行ったのかは分からないのだけど。
ちょうどいいから聞いてみるか。
「昨日も買い物に行ってたんじゃないの?」
「私、土曜日と日曜の午前はレッスンあるから。今日も朝五時起きで色々準備とかしてたんだよ?」
さらに頬を膨らませる。どうやら地雷だったらしい。というか、眠いなら俺なんて呼ばずに寝ればよかろうに。どうせ寧々音と泊まりに来ている姫ちゃんの三人で人生ゲームして借金塗れになっていただけだから夕方からでも全然大丈夫だった。
「それに、確かに楽しいけど、何かちがうもーん」
もーん。と言われても……。まぁ、言いたい事は分かる。
七家さんは外面はどこからどう見ても向こう側だけど、本性は完全にこっち側だ。つまり、オタク。しかもなんちゃってファッションオタクじゃなくてネタを結構理解してくれるタイプのガチオタさんだ。
つまり、考え方はこっち寄り。
リア充共が楽しいと思う事が俺達にとって楽しいとは限らない。もちろん、楽しそうだなぁと思うし、やって見れば意外に楽しいことも多いのだろうけど、根本的に考え方が違う場合がある。
わかりやすく言えば、ショッピングモールでウインドウショッピングして歩くより、とらの〇な巡りで掘り出し同人誌を探したりした方が楽しいわけだ。……分かりにくかっただろうか?
その辺、人それぞれだろうけど……。
「まぁ、隣の芝生は青いって言うし。それより今日も練習するんだろ?」
「……うん。する。頑張る」
テンション低いなぁ。この間とはまるで別人だ。
「それで、今日はどんな練習方法をするんだ?」
「エロゲはどうしても時間がかかるし、この間は脱線しちゃった方が多かったので、今回は……じゃん」
そう言ってまたもや机の下から取り出したのはDVDケース。
あぁ、嫌な予感。というか……。
「それエロアニメやん」
デジャヴュというやつである。
というか、俺の感覚的にエロゲより酷い。というか、エロゲはともかくそれはどうやって手に入れたのだろうか。
「事務所の先輩に借りました」
「そうなのかー」
「そうなのだー」
「「わはー」」
余計な事をしてくれる先輩である。尚、後で聞いた話だがエロゲも先輩に借りたものだとか。流石に自分では買ってないらしい。
「で、そのエロアニメを見て喘ぎ声の練習をすると?」
「うん」
「ちなみにエロアニメ見たことは?」
「新妹〇王ってエロアニメでしょ?」
「チガウヨ?」
「Kis〇×sisもエロアニメだもんね?」
「チガ……いや、あれはもうエロアニメでいいや」
世の中はエロに満ちていた。むしろ最近ではエロアニメとお色気アニメの境界線がだんだん曖昧になってきている気さえする。
それでも、現状はまだエロアニメほど露骨では……ない……はず……。ダメだ。アレとかアレとかアレが頭をチラつく。
まぁ、モザイクに目掛けて息子イきまーす! してたらエロアニメという事で。
「本当に俺と一緒に見るの? もう一人で見ても良くない? 後でちゃんと練習成果聞くし」
「そんなの恥ずかしいよぉ」
恥ずかしいとは一体?
「本音を言いますと、一人で見てたらエッチな気分になっちゃって……」
「ほう」
「多分また記憶飛ぶ」
「あ、はい」
つまり発電するわけですか。んで、ショートすると。なんという不良品何でしょうか。電子機器としては使い物にならないので返品します。
「逢坂君がいてくれたら自制心が働くからえっちな気分になっても大丈夫!」
「俺は大丈夫じゃない話する?」
「我慢してね?」
「鬼かアンタ」
生殺しにも程がある。俺の好きなADV系のエロゲというのはエロ+惹き込まれるストーリーの集大成なわけである。
だからこそコンシューマーに移植されたり、アニメ化などしたりするわけだ。
つまり、エロだが、エロが全てではない! というのが俺のエロゲ持論である。
しかし、エロアニメというのは確かにエロ+ストーリーかもしれないが、それはエロを際立たせる為のエロストーリーでしかないと俺は思うわけだ。これには賛否両論あるだろうが、まぁ、持論だ。
まとめると、エロゲの場合、ストーリーを高める為の18禁シーンであり、エロアニメだとエロを高める為のストーリーなのだ。カテゴライズとしては一緒でも正反対の属性なのである。
もちろん作品によっては意見を変えざるを得ないが大方はそれで正しいのではないだろうか!
まぁ、何が言いたいかと言うと、単にエロゲは我慢出来るけど、エロアニメは我慢出来ない。けどそれは仕方ないよね? って話。
だから俺はこの理論を盾にお断りをしようと思う。
「ふんふん、ふふーん♪」
「何勝手にDVDプレイヤーに挿入しちゃってんの!?」
そして、すぐに始まるエロアニメ。ストーリーは、冒頭からおっぱいがやっばい幼馴染みに我慢出来ずに主人公がS〇Xしちゃうお話。
あぁ、やばい。俺の荒ぶる神龍(笑)がかめはめハァァァンしちゃう。
カーペットの上で正座をして、手で隠すが、むしろそのまま弄れない事にやきもきする。
もう、トイレを借りて一発かましてやろうかと思いつつ、チラリと隣の七家さんを覗き見ると……。
「ハァ……ぅぅ、んっ……」
くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」!?
「んっ、ふぁっ、んんっ……」
めっさ喘いどりますやんお嬢さん!!
しかも凄い生々しい。演技とかじゃなくて本気の声だ。
声を押し殺そうと口に手をやり、もう一方の手でぎゅっとスカートを握りしめているが、両足がモゾモゾと動き、少し汗ばんでいるようにも見える。
エロい。そんじゃそこらのAV何かとは比べられない程にエロい。
かつて偉人はこう言った。見えないからこそパンツは至宝なのだと。
つまり、あからさまじゃないからこそエロいというわけだ。その意味を……その本当の破壊力を今俺は見せつけられているのである。
その姿に見蕩れて身動きをとれなくなっていると、七家さんの顔が俺の方へと少し動き、そしてトロンと緩んだ目と視線が合った。
「ふえ?」
「あっ」
上気して紅くなった頬。唇からは小さく、しかし確実に乱れた呼吸音。
やばい。とにかくやばい。
この状況をどうにかできる手段が見つからない上、頭が沸騰していて、思考がまとまらないのだ。
「おう、さか……くん?」
「ひゃい!?」
「どぅしよぉ、せつないよぉ……もう頭がおかしくなって……何もしてないのにぃ、か、感じちゃうのぉ、うずいちゃうのぉ!」
そんな事言われましても!?
目を合わせたらこっちもさらにおかしくなりそうで、反射的に顔を逸らす。
すると、肩をドンッと勢いよく押され、俺はそのまま床へと転がった。
もちろん押し倒してきたのは七家さん。
「また!? また俺が押し倒されるの!?」
「逢坂君」
「へい!」
「おう、さか、くん」
ダメだ。なんかトランス入ってるっぽい。屋上前の踊り場のアレと同じ態勢ではあるが、今回は紛れもなくやばい。
むしろこれは据え膳というやつではなかろうか?
恥なのか? ここで決心しないと恥になるのか!?
ならばよかろう。俺は捨てる。全てを捨てて漢になろうではないか!
決意を固めて俺は七家さんの肩を掴んだ。
「おぅしゃかきゅぅぅん…………しゅぴぃ」
はい、お約束でしたー。
清々しいほどに寝落ちというオチを付けて七家さんは俺の上に覆いかぶさりながら寝てしまった。
まぁ、これはこれでご褒美と思わないでもないけど……。
……これで良かったのだろう。うん、間違いが起きなくて良かった!
でも、とりあえず家に帰りたいな!
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