#19

 家に帰り着く頃には時間は午後の6時。俺にしてはだいぶと遅い時間の帰宅だ。既に母さんも帰ってきていて、寧々音もどうやら自分の部屋にこもっているようだった。


「あっ、帰ってきたわね。ちゃんと携帯くらい見てよねー。もしくは遅れるなら遅れるっていいなさーい?」

「うぃー、すんませんしたー」


 携帯を開くと確かに母からの絵文字と顔文字大量のメールが届いていた。

 歳考えろよ歳を。いや、確かに年齢より若く見えるけどさ。問題はそこじゃないだろ。


「飯になったら呼んで。部屋戻るから」

「はいはい」


 今はリビングより部屋で一人になりたい。それもだいぶと疲れたからだ。何って精神的に決まってるだろ。

 間違っても今日の七家さん家訪問でムラムラしたから一発イっとくか? なんて考えていなかったからな?


 階段を上り、自室の扉を開くと、何故か既に明かりがついており、訝しむ。

 入ると、中には俺のベッドに転がって漫画を読む寧々音の姿があった。


「俺のベッドが妹に占領されている件について」

「それスレ立てたら全力で叩かれるぞ?」

「うん、知ってる」


 漫画から顔を上げて言ってきた寧々音に頷いて返す。

 仕方ないので俺は椅子に座り、一息ついた。


「はぁー、疲れたぁ」

「何それ、会社から帰ってきた四十後半、嫁とは最近倦怠期気味、悩みは中年太りでスーツの下がきつくなったおっさん?」

「どうしてそんなに具体的なのでしょうか。私、気になります」

「嫁のことをママンと呼び、娘に髭攻撃してきて、本気ビンタされるおっさん?」

「それ、うちの親父じゃないですかやだー」


 しかし、ビンタはやめてやれよ。将来俺が父親になった時に娘にビンタされたら泣くから。


「それにしても本気でお疲れだな。どうした?」

「まぁ、色々と。精神的にお疲れなのですわ」

「ふぅん。そう言えば今日、ちゃんと三人で帰ったよ」


 三人というのは寧々音、姫ちゃん、和華の三人だろう。ちゃんと一緒に帰ってくれたんだな。


「ありがとうよ。それで、姫ちゃんと和華は仲良く出来たか?」

「うー? まぁ、悪くはなかったかな。どっちも男の趣味は悪いと思ったけど……」


 何それ恋バナしてたの? きゃー、女の子っぽい。アタイも混ざりたかったわぁ。


「へぇ、どんな人?」

「うん? そうだなぁ。変態で、若干ロリコンで、と思いきやお姉さんも同級生もいけるタイプで、さらに変態で、果ては最近男の娘もいけるとか言い出した大変な変態だな」

「何それそんなのいたらヤバいって。二人とも大丈夫?」


 しかしまぁ、今のがエロゲの話だったら俺も同類だな。最近、男の娘も二次元ならいける気がしてきたもん。


「そういや、寧々音の好きなタイプは?」

「寧々? んなもんいねーぞ。男とか煩わしくてゲームの邪魔」


 やだこの子お兄ちゃんそっくり!


「いや、そうじゃなくてだな。好きなタイプって言ったんだよ」

「えぇ、それセクハラ?」

「違うわっ!」


 好きなタイプ聞いただけでセクハラとか何処の会社のOLと上司だよ。


「うーん。寧々の好きなタイプ……いや、いないな」

「おい、それは女の子として大丈夫なのか?」


 お兄ちゃん心配よ? この俺でさえタイプくらいあるよ? ほら、ツンデレとかクーデレとか、デレデレとか、幼馴染みとか、生徒会長とか、あれ? 待てよ? これあれだ。好きなタイプじゃなくて、ただの攻略対象の属性だわ。

 そう考えると俺って好きなタイプあるのか? 寧ろ、好きになったらタイプなんて関係ない系じゃね?


「あっ、タイプあった」


 悶々していると、寧々音が何か思いついたらしい。


「寧々音の趣味を邪魔しない人で、寧々音の事をまぁまぁ甘やかしてくれる人」

「なるほど、それは俺も同意だ。甘やかしてくれるのは重要だし、趣味を邪魔しないのは最重要だ」

「うん。つまり輝兄みたいな人だな」

「そう、俺みたいな……ふぁっ!?」


 今、こいつなんて言った?


「おい、それは冗談……だよな?」

「どうして冗談にされないといけないのだおい」

「いやだって……俺達、ほら兄妹だし?」


 そりゃゲームじゃ近親相姦なんぼのもんじゃい。寧ろそれが良い。背徳感最高ふぅ〜って感じだけども!

 いざ、現実でされると、ねぇ?


「馬鹿な妄想はするなよ輝兄。寧々は輝兄みたいなのが丁度良いなという話であって、こんな変態を彼氏にしたいとか全く思わないぞ?」

「えっ?」

「えっ? じゃない。普通に気持ち悪いので寧々を頭の中で犯さないでください」

「兄への敬語やめて? 後そこまでしてない。キスまでだ」

「おrrrrrrr」


 とんだ赤っ恥である。というか、今のは寧々音の言い方も悪い気がするのだけど……。

 しかしまぁ、そりゃそうだわな。俺も寧々音は好きだけど、恋人とかはない。でも、養えと言われたら文句を言いつつ養っちゃうかもしれない。

 兄とはそう言うものだ。憎くても妹。何だかんだで甘やかしちゃう時もある。


「さて、そろそろ寧々音は部屋に戻る。あ、漫画はさらってゆくぞ」

「うぃ、了解」

「うむ」


 ベッドに散らばらせていた漫画を数冊重ねると、それを持って部屋を出てく寧々音。

 そして、扉が閉まる寸前。


「別に何処で何しようと構わないけど、遅くなるなら連絡くらいしろ馬鹿お兄ちゃん」


 その言葉を残して扉が閉められた。


「〜〜〜〜!?」


 何今の!? デレたのか!? うちの妹デレたぞ!? あ、やべ、可愛いわ。

 奇しくも母さんと似たような事を言っていたが、母親と妹では色々と違う。違いすぎる。何故、録音していなかったのか悔やまれるレベルだ。


 ……やっぱり妹って正義だわ。ふと、今日、七家さんの家でプレイしたゲームの妹キャラを思い出しつつ、そう思うのだった。

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