#18

『ぅっ、ぁっ、…………〜〜〜に、ぃ、さぁ、だ、め……』

「「うへへへ」」


 画面の中で妹が切ない声で喘ぐ。それを俺と七家さんはだらしない顔で見ていた。


 特訓をしようした所まではいいが、いざゲームを再開すると、いつの間にか集中してゲームをプレイしていた。

 それもこれも妹が可愛いからいけない。


「流石、俺の嫁」

「流石、私の嫁」


 思っていた以上に七家さんはダメな人だった。どれくらいかと言われると俺くらいである。つまり末期だ。


「ってそうじゃねーよ。練習しないと俺が来た意味ないって」

「はっ! そうだよね。んんっ、よしじゃあ行くよ!?」

「よし、来い」


 やはり改めて人に聞かれるのは恥ずかしいのか頬を赤く染めながらそう言う。しかし、それは俺も同じ事。

 クラスメイトの喘ぎ声の練習を聴いて評価するなんて普通はありえないだろう。だが、今俺はそれをしなければいけない。

 恥ずかしい。しかし、彼女だって本気だからこそ俺なんかに頼んでまで声を聴いて貰いたいんだ。

 真剣に聴いて、ちゃんとした意見を言わなければいけない。


「まずは普通の所から。……もう、ダメですよ? 兄さん。めっ」


 普通に上手い。そう、朱里の時もそうだが、普通の台詞はちゃんと出来ているのだ。寧ろ俺の好みの声すぎて文句のつけ所がない。だと言うのに……。


「ンッ……ンンッ、……ゥッ……」


 …………。


「アァ、んあー」


Why?


「なんでそうなんの!? 最後最早アレンジ加えてたよね!? んあー!? んあーって何!? 公園のトイレで掘られたのかよ!」


 どうもこうも……なっていなかった。ただ真似ればいいだけなのに何故そうなるのか本気で理解出来ない。これなら俺がやった方が上手いまである。いや、今のはなしだ。汚い絵面にしかならない。


「だ、ダメだった?」

「今のいけると思ったの!?」


 驚愕である。ゲームの時、つまり朱里をプレイした時は下手くそ過ぎワロタwwwで済んでいたけど、今回のはもう何がしたいのか分からなかった。棒読みとかそんなレベルでなく、萎えるどころか縮むわ!


「んあー」

「それやめろって」

「だってー」

「だってじゃない。いや、本当に。どこから特訓すればいいのかわからないんだが……」


 酷い。何故喘いだらダメになるのか。そもそも、幾ら下手くそでも自分がしている時の声で何となく似せる事は出来るだろうに……。

 いや、何となく嫌な予感がしてきた。聞くか? 超プライベートな事だけど聞くか?


「あー、七家さん」

「なぁに?」


 半泣きになりながらメソメソしている七家さんは床に女の子座りのまま、上目遣いに見てきた。


「答えたくなかったら言わなくていい。今から大変失礼な事を聞くから」

「うん、いいよ」

「したことある? その、一人遊びというか……女の子に使うのが正しいのかわからないけど……自家発電……」


 セクハラで訴えられたら即負けしそうな発言だ。それでも聞いておかなければならない。流石にしたことないというのはありえないだろうと思いつつも、幾分かの不安からの確認。

 質問された七家さんはカァっと一気に頬を紅潮させ、パクパクと金魚のように口の開閉を繰り返す。

 そして一瞬固まったかと思うと、さらに顔を真っ赤に染めて、コクリと頷いた。

 良かった。流石にした事がない事はなかったようだ。


「じゃあさ、それに演技を足せばいいんじゃないか? その、そのままだと生々しいし、やっぱり男の意見としてはエロゲの声優が出す喘ぎ声と、AVの女優さんが出す声ってだいぶと違うし」


 正直、どっちも演技なのかも知れないけど、やはりエロゲは作っている喘ぎ声で、やり過ぎという感じがある。寧ろそれが良いのだが。


 まぁ、俺の好感度はだだ下がりだろうが、それでもいい考えだと自分では思う。

 これで彼女が声優としてステップアップしてくれるなら俺は喜んで嫌われようじゃないか。


 くぅっ、と涙を堪えて一人で浸っていると、チョンチョンと制服のズボンを摘んで引っ張られた。


「え、なに?」


 聞くと、手招きされた。耳を近づけろという事だろうか? しかし、ここは七家さんの部屋で、彼女曰く、防音は完璧。何も耳打ちで話す必要は無いはずだ。

 とは言え呼ばれているなら耳を近づける。

 すると、虫の鳴くような声でこう言った。


「あ、あのね。したことはあるんだよ? でも、その、片手で数えられるくらい。しかも、最中の記憶ぶっ飛んじゃうの……私。している時の記憶がほとんど無くなるから怖くてあんまり出来ないというか……」


 前半のカミングアウトにも驚いたが、後半の方がもっと驚いた。

 最中の記憶がぶっ飛ぶ? 何それ怖い。

 えーと、つまり……どういう事だ?


 首を傾げると、七家さんはさらに顔を手で覆ってから、告白した。


「私、凄い敏感なの。だから、気持ちよすぎてやばい……の」

「あぁ……えっと……すごいね?」

「うわぁーん。恥ずかしいよぉ。逢坂君、責任とってぇ!」


 なにかのネタの可能性も感じていたが、どうもそんな雰囲気じゃない。ってか冗談でも責任とってとか言わないで。思わずとっちゃったらどうすんだよ。


 その後、お互い気不味くなり、今日はこれ以上の特訓は不可能という事で解散に相成った。

 部屋から出ていってからも当分は顔が熱く、気がついた時には家に帰りついていた。

 行く時も記憶無くして、帰りも記憶無くすとか、本当に頭がやばいのではないだろうかと不安になる……。

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