#17
輝夜が茉莉と待ち合わせをしていた頃に時間は戻り、場所は峰ヶ浦高校の廊下。そこに、寧々音、市姫、和華の三人が集まっていた。
理由は帰宅の為である。
和華と市姫のファーストコンタクトでもあり、顔を突き合わせた二人は何気に緊張していた。
片や、一見不良のような見た目で、金髪で制服を着崩し、軽くとは言えメイクに片耳にはピアス。しかも何故か睨んできているようにも見える。
不良のいないこの町では基本、真面目な生徒が多いのでやはり和華のような存在は珍しい。だから市姫が緊張するのは自然なことなのである。
対して和華の場合は出来たばかりの友達の妹の友達という最早他人以外の何物でもない女の子との初接触に思わず威嚇、もとい睨みつけてしまっていた。
「寧々音! この人出会い頭から睨んできましたよ!? 何処が面白い人なんですか!? 普通に怖い!」
市姫は寧々音の方を見るや、そのままの感想を早口に述べた。しかも指を指して。
「話せば面白いぞ? まぁ、とっとと互いに自己紹介しやがれって寧々は思う」
「うぅ、名古市姫です。一年生です。寧々音の婚約者です。どうぞよろしくお願いします」
「待て。軽く嘘を混ぜるな市姫。寧々音は初耳だ」
「バレてしまいましたか。寧々音の嫁です」
「いやいや、それじゃあ寧々が夫になるではないか」
二人の掛け合いはだいたいいつもこんなものである。
それを見た相手の反応は二人がとても仲が良いのが分かり、微笑ましく、面白いので二人はなるべくセットにしておこうと思う。まぁ、市姫の思うつぼだ。
しかし、今回二人の目の前にいるのは……。
「あ、あぁ。自己紹介な! 山井、和華だ! よろしく頼む。えっと、輝夜のと、友達だ! あぁ、言っちゃった。知らない奴に友達って紹介しちゃった、うわぁ恥ずぃ」
緊張し過ぎでそれどころではなかった。というか顔が真っ赤だった。いつの間にか睨んでいたのも無くなって、寧ろ頬に手を当てて恥じらっているのが面白可愛い。
「ね? 面白いでしょ?」
「あ、うん。輝兄さんから連絡が来た時はどうしようかと思ってましたけど……」
確かに怖くはないと市姫は思った。しかし、内心、少し戸惑った。
少なくとも感じられる和華から輝夜への好意。それはまだ大きくはないが、いづれ自分の障害になる可能性を秘めた……つまり、自分が輝夜に抱く思いに似ているのだと感じたのだ。
有り体に言えば市姫は輝夜が好きだ。それこそ最初は友達の兄というだけであったが、接するようになってから面倒事には首を突っ込みたくないと言いつつも何だかんだで絶対に助けてくれる、そんな輝夜をいつの間にか好きになってしまっていた。なんてことは無い、普通の恋だった。
ただし、既に二年以上にも及ぶ初恋である。
そして、これまでライバルらしき存在はいなかった。それに関しては輝夜に問題があるのだが、市姫は何の根拠も無く、このまま輝夜が誰とも付き合わず、いつかは寧々音以外では一番近い女の子であるはずの自分と……なんて妄想していたりしていたのだ。
余裕が崩れた瞬間だった。そしてさっきとは逆に市姫の方が険しい顔になる。
「その、山井先輩は……」
「あ、和華でいいぜ?」
「……山井先輩は」
「どうしてそんな嫌そうな顔で、しかもやっぱり苗字のままなんだよ!? 輝夜に似た反応すんなよぉ。うぅ、ひでぇ」
奇しくも輝夜と似たような返され方をして和華がメソメソする。それに対して市姫の方はというと……。
「そんな、輝兄さんとお似合いなんて……まぁ、寧々音を除けば私が一番輝兄さんに近かったわけですしぃー。あぁ、迷惑な話だけどお似合いなのも仕方ない話ですねぇ」
「そんな事言ってないんだけど!?」
見事にツンデレていた。顔もニヤケ面で、嬉しさを隠しきれていない。ただし、勝手に和華の言葉を変換している辺り、何とも都合の良い耳を持っているようである。
「へい、市姫帰ってこーい」
「どこも行ってないけど……コホン。そうではなくてですね。山井先輩は輝兄さんをただの友達と本当に思っているんですか?」
「どういう意味だ? 輝夜は私の……初めての友達だけど」
「初めてって……それは流石にないですよね? ほら、幼稚園とか小学校とか……」
流石に話を盛りすぎだろうとツッコミを入れるが、和華の顔が暗いものに変わる。
「もし、先生を友達カウントしていいならいたよ」
「……ごめんなさい」
最早、素直に謝るしかなかった。
「まぁ、今は輝兄も、寧々と市姫もいるじゃん。ね?」
「寧々音ー!」
「おー、よーしよし、いい子いい子」
抱きついてきた和華を小柄な寧々音が抱きとめて頭を撫でる。普通にバランスが悪いが、互いがいいなら問題ないだろう。
ただし、一人、これに待ったをかける人間がいた。
「寧々音に撫で撫でぇ!? 私もぉ!」
さらに横から市姫が寧々音に抱きつき、女子三人が抱き合ってわいわいやっていた。
近くを歩いていた生徒達の目を集めていたのは言うまでもないだろう。
後日、この話を聞いた輝夜は拝めなかった悔しさに床を叩いたという。
何はともあれ、和華と市姫のファーストコンタクトは大きな問題が起こることも無く、大筋、輝夜が望んでいた結果になった。
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