#14
「ふーん。何の用事なんだ?」
昼休み、教室の俺の席の前の席を借りて、巻き寿司を食べている和華がそう言った。
ちなみに、どうして巻き寿司なのかというツッコミは既にしていて、理由は「気分」だそうだ。
なるほど納得。
後、本当についでだけど陸斗は朝下駄箱に入っていた手紙を持ってどこかに消えていった。
「人に会うんだ」
「じゃあ、今日は一緒に帰れねぇのな。うぅーあー」
「何唸ってんの?」
「中学も高校もいつも一人で帰ってた」
唸っている理由を聞いたのにどうしてか昔話を始めた。
「だからさぁ、今日は一人で帰らなくていいなーって、思ってた」
「うぐっ」
同情を誘うようなストーリーと上目遣いのコンボ技が炸裂して早くも和華を一人にしてやりたくない庇護欲のようなものが湧き上がってきた。
「でも、仕方ないから一人で帰るけどー」
「うぐぐっ」
そして最後にダメ出しのもう一撃。
俺の鼻に指を当てて、ニカッと笑って言う。
「じゃあ明日の輝夜はアタシが予約する。一緒に帰ろ?」
くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」
アカンで。もうノックアウト寸前や。どういうこっちゃくどー!?
『このポンコツ不良が可愛すぎて困る』ってタイトルのライトノベル書いたら売れるかしら? とりあえず俺は買う。買うから誰か書け。
「とにかくだな、俺は用事があるから一緒に帰れないけど安心しろ」
「ん? なんだ?」
「寧々音に一緒に帰って貰えるように連絡しておく」
「おぉ! 寧々音と帰れるならおっけーだ」
「まぁ、多分姫ちゃん、寧々音の友達の名古市姫って女の子が一緒だと思うけど大丈夫だよな?」
「お、おう。任せろ」
なんだろう。和華が任せろとか言うと無性に任せたくないという気持ちが……。たとえるなら、「今度遊ぼー?」に「考えとくー」って返事で今度遊ばない確率くらい信用できない。
……姫ちゃんにも仲良くしてあげてくれって後で連絡しとこう。
「よし、話は終わったから飯食おう」
「お、アタシの巻き寿司、一口食うか?」
「いや、要らん。超要らん」
実はちょっと興味はあるが、女の子の食べかけを食べるとかマジ無理。俺の精神が崩壊するわ。それじゃなくとも朝からクラスメイトの視線を感じてるんだからな。
というかさ、聞いてくれよ。
巻き寿司ってエロいじゃん?
エロくないって思うやつは妄想力か童貞力のどっちか、あるいはどっちも足りないから出直してこい。
とにかくエロいんだよ。具体的に言うと可愛い女の子がその口いっぱいに黒くて太いのを咥えてるのがエロいんだ! エロいんだ! 大切なことだぞ。
でだな、和華が気分で食べだした巻き寿司を見ていたんだけど……これがエロくないんだよ!
どちらかと言うと可愛いんだ。よし、説明タイム行くぞ?
和華の食べ方は咥えずに噛む。しかもちょっとお上品に。この時点でお前実は不良じゃねーだろというツッコミをいれたい。
確かに口調はぶっきらぼうだし、腕っ節もなかなか強そうには見えるのだが、実は昨日から行動一つ一つが妙に上品に見えるというか、良家のお嬢みたいな? そんな感じだとは思っていたのだ。
で、そういうのが一番如実に出てくるのが食べている姿だと俺は思うのだが、これが俺の思っていた事を確信させた。
山井組は昔から続くヤ〇ザ者ではあるが、この辺じゃ、地主とかそう言った物に近い。
つまり、事実として良家のお嬢属性みたいな物が備わっているかもしれないというわけである。
という事で俺が何を言いたいかと言うとだ。
もう不良やめたら?
というわけである。
「なぁ、和華」
「………………んくっ――なんだ?」
ほら! 今、ちゃんと口の中の物を呑んでから話始めたぞ!?
もきゅもきゅごっくんって!
偏見だけど、不良ってこういうのに無頓着って感じの奴がなるイメージあるんだよね。
待てよ? そうなるとうちの寧々音はよく食べながら喋る時がある。家でしかしないけどつまり寧々音には不良の才能があるということか? 寧々音が道を外さないように気をつけよう。
冗談はさておき。
「別になりたくて不良になったわけじゃないんだろ?」
「んー、そうだなぁ」
「じゃあ不良やめたら?」
ド直球に意見を言ってみた。余計なお世話かもしれないが、和華ならちゃんと話せば幾らでも友達が出来ると思う。
「やめる、ねぇ……じゃあ輝夜がやめさせてくれる?」
「俺が?」
「うん。アタシを普通の女の子にしてみせて」
ニヤリと笑う和華。
それに俺はこう答えた。
「無理」
「えぇ!? そこはやってやる! って言うところじゃ……」
「だって和華って基本ポンコツだし」
「おまっ、はぁ!? 意味不明なんだけど!?」
「よし、じゃあ証明してやろう」
「お、おう。かかってこいや!」
オラァとファイティングポーズをとるが、殴り合いはしたくない。多分一方的に殴られて終わるからな。暴力反対。
「はい、生麦生米生卵」
「はぁ?」
「はい、繰り返して」
「にゃまむに、にゃまもめ、にゃまにゃまも!」
「ぶふぉっ」
予想以上のポンコツ具合でした。
しかし、俺の攻撃は終わらない。
「にゃんこ子にゃんこ孫にゃんこ。にゃんこ子にゃんこ孫にゃんこ。にゃんこ子にゃんこ孫にゃんこ!」
必殺にゃんこ子にゃんこ孫にゃんこ×3である。
これの何処が必殺かと言うと、この早口言葉はとても性的に問題があるのだ。
比較的簡単な早口言葉ではあるのだが、失敗した時、にゃんこが卑猥な言葉に変身する時があるのである。
そうとも知らずに和華は勢いよく、しかもクラスメイトが半分くらいいる教室で。
「にゃんこ子にゃんこ孫にゃんこ! にゃんこ子にゃんこ孫にゃんこ! まん……」
瞬間、和華の顔が真っ赤に染まった。ついでに俺は興奮した。
あぁ、本望である。これは良い物だ……。
「かぁ、ぐぅ、やぁー!」
「ほら、ポンコツ」
「ぶん殴る!」
「暴力反対!?」
ええ、はい。殴られました。頭にゲンコツです。小学生の時に親父に寧々音を泣かせて怒られた時以来のゲンコツでした。
何だかんだ不良云々は有耶無耶になったけど、和華を更生させる事もちょっと考えておこうかな。そもそも更生させなくても結構いい子だし。
まぁ、何はともあれとりあえず寧々音と姫ちゃんに連絡をしよう。
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