#13
「どうして昨日の今日で新しい女作ってるの!? 逢坂君は主人公!?」
「いきなり何言ってんの!?」
一限目が終わってすぐの休み時間。俺は七家さんに屋上前の踊り場へと呼び出されていた。
理由は明白、和華の事だ。
まぁ、昨日までいなかった和華が突然登校したと思ったらクラスの冴えない男子と仲良し。しかも彼女は不良で、ヤ〇ザ組長の娘で、金髪で、おっぱい星人で……ちょっと盛りすぎじゃありません?
「だから、どうしてクラスで話題だった山井さんと仲良く登校してクラスでも楽しそうに話してるのか聞いてるの!」
「友達だからですマム」
凄い剣幕でまくし立てる七家さんにびびって思わず上官に答える兵士みたいになっちゃったよ。それにしても興奮しすぎじゃない?
「ってか、話題だったの?」
「知らないの!? 山井さん一年前から有名だよ? 山井組の愛娘がこの高校に入学したーって。それで始業式の日から同じクラスで怖いねーって皆が。かく言う私もちょっとドキドキしてたしね」
「へぇ。全く知らなかったよ」
寧々音に話したら「情弱乙www」って笑われそう。しかし、そんな話題になってるなら俺の耳にも……陸斗の口からでも聞きそうなものだけど。
ところで今気がついたのだが、俺の高校に置いての情報源って陸斗と足立先生くらいなんだけどどうしよう。ほんとうに情報弱者じゃねーか。
「とにかく、説明を求めます」
「求めるも何も……何処から話せば……」
雨の中で猫に負けて倒れていた部族メイクを助けたらそれが和華で、懐かれたという話だ。
説明するには和華の恥ずかしい話をしなくてはならないし、下手をすれば俺の頭の具合を心配されそうだ。
というわけで、昨日偶然会ったことと何となく意気投合して仲良くなったとだけ伝えた。
話を聞き終えた七家さんは何故か不満そうにしていて、頬いっぱいに空気を含んでふくれっ面だ。あざと可愛いことハムスターの如し。
「俺何か気に触る事言った?」
「つまり、山井さんとは昨日からの付き合いなんだよね?」
「まぁ、うん」
「私とは三日前からだよね?」
「始業式からだからな」
何を当たり前の事を言っているのか。
あの日の放課後に七家さんが忘れ物を取りに教室へ戻ってきて、そして初めて話したのだ。
結果、七家さんの秘密を暴くだけ暴いて逃げたけど。その後、どれだけ不安でいたかを考えると今でも申し訳なく思う。
「じゃあどうして山井さんとの方が仲良いのかな?」
「えぇ……」
「別に親密度で優劣付けたいわけじゃないけど、ちょっとモヤッとする」
「そう言われても……。そもそも確かに三日前だし、次の日にその……声の練習する約束はしたけどさ。俺達そんなに会話してないよね? クラスじゃ互いに別の友達と話してるし」
「むぅ。そうだけど……」
むぅと唸られましても。七家さんは二年一組のトップカースト集団にいるのだ。それも姫的立ち位置で。
そして俺も休み時間は基本、陸斗と話しているか寝ている。
「ここに来るのもSNSでの呼び出しだったし、お互い変な誤解は生みたくないだろ?」
「そ、れは……別に逢坂君と仲良くしてるのを見られたくないわけじゃなくて……み、見られたらその……面倒というか……」
「大丈夫大丈夫。分かってるから。まぁ、学校の交友関係って大変だよな」
俺は大変という程交友ないけど。
七家さんはその通りだと首を高速で何回も首肯している。
「それでね! 実はもう一つ話があるの!」
首を振るのをやめたと思ったらガシッと固く肩を掴まれた。
それによって一昨日の記憶がよみがえってくる。そして顔が近い。相も変わらず綺麗な人だなぁ。
「実は昨日はその準備をする為に特訓は無しにさせて貰ったの」
「そう言えばそんな事を言ってたな」
はたしてなんの準備か分からないけど話の流れ的に準備が整ったのだろう。
「うん。だから今日の放課後は駅前集合という事で! くれぐれも後をつけられたりしたらダメだよ?」
いや、何処のスパイ映画だよ。というか会話が犯罪臭いわ。
「まず後をつける奴がいないだろうというツッコミは置いといて、どっか行くの?」
「まぁね。練習出来るところが必要でしょ?」
「それはそうか。何処でするんだ?」
「それはついてのお楽しみという事で。よし、じゃあ教室に戻ろー。あ、私は先に行くね!」
ビシッと敬礼すると、足取り軽やかにタンタンとリズムを刻んで階段を降りていった。その前のお楽しみと言った瞬間の笑顔が印象に残るが、深くは考えないでおこう。
俺は教室へ時間差を作る為にゆっくりと歩き出しながら、和華がついてくる可能性を思い出し、唸る。
「うぅ、尾行はしないだろうけど、何か好奇心で付いてきそう……和華ってフットワーク軽いし」
なにせ、中二病を病院に連れていく女だ。ってか中二病の男子中学生って病院ではどんな対応されたんだろ。もしかしてカウンセリングとか受けさせられたとか?
うわっ、それは黒歴史を越えて漆黒歴史だわ。漆黒歴史言ってる俺の頭も相当な中二病な可能性微レ存。
「よし、とりあえず昼休みに和華と話してみよう。案外用事があるって言っただけで分かってくれるかもしれない」
口にはしたものの、その可能性が限りなく低いような気がしていた。
とりあえず軽い追求はきっとあるだろうから変に嘘をつかないで、必要なことだけ答えようと思う。
そう決めるや、次に浮かんできたのは七家さんのお楽しみの場所とやらで。なんだかやらしい意味に思えてきた。
思春期男子高校生なめんなよ? 本当にしょーもないから。
そして教室に辿り着くまで人に気付かれない程度にニヤニヤと妄想を続けるのだった。
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