#12

「輝兄が……起きてる……? 徹夜でゲームか」

「俺が朝ちゃんと起きてたらどうして徹夜が確定するのかじっくり話し合う必要がありそうだ」


 ノック無しに扉が開いて入ってきた寧々音は既に着替えて準備を終えていた俺を見て失礼な事を言う。妹じゃなかったら名誉毀損で訴訟物だ。

 とは言え普段の行いの悪さのせいなので強くは言えない。


「あぁ、そう言えばあの山井組の人が迎えに来るんだっけ?」

「そうそう。和華の奴、時間も言わねぇから久しぶりに規則正しい生活をしてしまったっての。ところで、山井組の人が迎えに来るとか言ったらちょっと怖いからやめてくれる?」

「実際怖いよ。あの部族メイクも、おっぱいも」

「あ、うん」


 おっぱいって言った時の寧々音の目が死んでた。どうやら昨日のアレでトラウマを抱えてしまったようである。

 よし、お兄ちゃんが慰めてあげよう。


「大丈夫。貧乳はステータスだ! 希少価値だごぶふぅ!?」


 寧々音の無言の正拳突きが俺の腹にクリティカルした。その拳……世界、狙えるぜ?


「寧々は心が折れたので朝ご飯はTKGにする。ではさらば」


 そう言って倒れ伏す俺を置いて部屋を出ていった。どうして心が折れたらTKG卵かけご飯を食べるんだ……。回復ポーションか何かなの?

 って、俺も倒れている場合じゃない。さっさと飯食って準備しないと。


 そして、丁度全ての準備が整ってリビングで朝の誕生月占いを見ていると、家のチャイムが鳴った。


「ほら、来たみたいよ輝夜」

「お、おう。行ってくる」

「面白そうだから今日も寧々がついて行くぞ」

救世主メシア!」


 もし、本当に和華以外の山井組の人が来てたらどうしようって不安だったんだ。後、女の子と二人で登校とか恥ずかしくて話せるかも不安である。

 ちなみに和華の事は既に昨日の晩に寧々音のとても柔らかい口から親達に伝わっている。良くも悪くもマイペースな母さんは「迷惑かけちゃダメよ?」なんて言っていたが、そういう話ではない。

 下手をすれば俺のたまがかかってるんだから心配しやがれ。一応言っておくと、親父には期待してない。


 とにかく俺は玄関へと向かい、外に出た。

 しかし、外には恐れていた光景は無く、ただただ制服にカーディガンを着た和華の姿があっただけだ。

 和華は俺の顔を見るなり萌え袖をふりふり。

 くっそ可愛いな!?


「おはよー輝夜!」

「お、おう。おはよ……」

「妹もおはよー!」

「うぇーい」


 後から付いてきていた寧々音にも元気よく挨拶する和華であったが、その寧々音の返事は超適当。どこのウェイ系大学生か。いや、寧ろギャルか?


「制服……昨日とは違うんだな」

「そうそう。乾ききらなかったから仕方なくなー。でも、可愛いだろ?」

「はい、そうですね」

「え? なんで敬語!?」


 いや、可愛いけどそれを口にする事は難しいお年頃なんだよ分かれ。

 もう頭の中じゃ、カーディガン萌え袖フリフリアタックで数回は萌え死んでいる。後、ブレザーよりカーディガンの方が体のライン……というか胸の形が出ていてやばい。マジやばい。

 あぁ、元々乏しい語彙力がさらに低下していくぅ。


「それはともかく。そろそろ行こう」

「うぇーい!」

「うぇーい」


 お前ら仲良いね?


 同じクラスの女子と登校する風景とか二次元と一部のリア充のみが許された行為だと思っていたが、まさか俺がそれを体験するとは思わなかった。

 しかし、何度も言うように学校はすぐそこ。


 甘美なる時間は有効に使わないといけない。

 だと言うのに俺という奴は何をしているのか?


「妹、妹」

「その妹と呼ぶのはやめろ。寧々には寧々音という名があるのだぞ。さぁ、寧々ちゃんと呼ぶが良い」

「寧々、ちゃん?」

「ちゃんとか付けるな鳥肌が立ったぞ」

「理不尽だなおい!?」


 俺を挟んで左右で仲良しな二人の会話に入っていけず、真ん中で聞いてるだけ。

 ところで昨日はほとんど話してないはずなのに凄い仲良いよね? 二人とも友達少ない同士で意気投合したのか? とにかく俺は寂しいぞ。なので無理やり話に乱入する。


「そ、そう言えばさ! どうして昨日は制服着てたんだ? 学校には来てなかったよな?」

「ん? まぁ色々あったんだよ」

「ほう、色々とは?」

「まず雨で髪の毛が整わなくて家を出た時点で遅刻ギリギリ。傘差して走っていたら道の曲がり角でレインコートを着た見知らぬ男子中学生とぶつかってな。んで、そいつが突然アタシに助けを求めてきたんだよ。何でも悪い奴らに追われているとか何とかよ」


 んー、既に奇想天外な展開なんだが、面白いから最後まで聞こう。


「で、しゃーねーからアタシが助けてやるって言ったんだ。するとよ? そいつ、いきなりうずくまって苦しそうに右腕を抑えだしたんだよ。竜とか刻印とか言ってたけど、とにかくやばそうだったから病院に運ぼうとおもったんだ」


 ぷふっ、くくっ、ダメだ。まだ笑っちゃ、ダメだ。


「したらよー、そいつすげぇ嫌がるの。そのうち面倒になってきたから殴って黙らせて病院まで引きずってな。それからそいつの親が来たり、泣いて土下座されたり大変だったんだ。気がついたらあの時間で、とりあえず学校の近くまで行ったんだが、途中で猫に襲われたわけだ」

「なるほどね」


 つまり、中二病に出会って、封印されし腕の持ち主殴って、その親が泣いて、最後に猫に襲われたと。

 和華は相当濃い一日を送ってるようだ。その一生できっとなかなか面白い小説が書けると思うよ。


「輝兄」

「ん?」

「このヤンキーくっそ面白い」

「ほんそれ」


 兄妹一致で和華の面白さが証明されました。互いにグッと親指立ててこの出会いに喜んでんいると、和華が歩く側の肩がツンツンとつつかれた。


「でもさ、それで良かった。輝夜と、それに寧々音と会えた!」

「「ええ子や〜」」


 まじこのポンコツ不良擬き型お嬢和華えもんの可愛さよな。攻略キャラだったら長編作だとしても徹夜で攻略するレベル。


 と、まぁ、こんな感じで昨日からの不安とは裏腹に、和華とは仲良くやっていけそうだ。

 問題は……学校、教室なんだよなぁ。


 色々と好奇の目で見られそうだけど強い心でやって行こう。

 言ってる間に、校門が見えてきた。


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