#11

 和華と友達になった。


 それは良い。とても良い事だ。友達の少ない俺と同じく少ない和華との出会いはきっと互いにとって良い関係を結べる。たとえ彼女が不良だとしてもだ。数十分前までは確かにそう思っていた。


 しかし、今、彼女と友達になった事を少し後悔している俺がいる。


 ついさっき、和華は俺に自分は目付きの悪さのせいで他人に避けられるのだと言っていた。しかし、本当にそれだけだろうか疑問があったのだ。

 俺から見れば、逆に彼女の切れ長のキリッとした目は格好よく、綺麗だと思った。きっと普通にしていたら友達になりたい奴なんて引く手数多だろう。

 そして、その疑問はやはり正解で、和華の避けられる理由とやらが目ではない事が分かった。


 家の前に止まっているのはベンツ。言わずと知れた政治家や893の人が愛用する高級車だ。

 それが何故こんななんの変哲もない住宅街の、こんな普通の一般家庭の一軒家の前に止まっているのか?


 数十分前の話をしよう。

 和華の濡れた髪を俺がドライヤーを使って乾かしていた時のことだ。何? そこからおかしいだと? 頼まれたんだから仕方ない事だったんだ。

 友達にドライヤーされて見たかったなんて無邪気な笑顔で言われたらするしかなかったんだよ!

 一応、ちゃんとそういう事は女の子同士だから需要があるというような事は説明したけど和華は聞く耳持たずという具合で、気がついたら俺はドライヤーを持っていた。

 あぁ、ちゃんと自覚しているとも。俺は妹以外の女の子の髪の毛を合法的に触ってみたかった!

 前にも言った通り二次元女子が好きだし、リアルで彼女なんていらないけど、それでも人並みには本物の女の子にも興味はある。

 据え膳食わぬは何とやら。触っていいって言ってんだからいいだろうコンチクショウ。


 結果? めちゃくちゃいい匂いした。うちのシャンプー使ってるはずなのに、どうしてあんなにいい匂いになるんだろうか?


 それはさておき。

 話を戻すと、和華にドライヤーを当てていると、和華が携帯で家の人に迎えに来てもらうと言い出したのが始まりだ。

 それで、適当に世間話をしながら待っていると、インターホンが鳴った。もちろん住人である俺がインターホン越しに応対をしたのだが、その時から違和感があった。


 元より和華の言い方は少しおかしな所があった。彼女は俺に「家の奴が迎えに来るから」と言ったのだ。

 普通なら家族が来るとか、説明するのならそういうものだろう。しかし俺は愚かにも特別気にしなかった。


 故に、そのインターホンから聴こえてきた野太い男の声に目を点にした。

 さらにその声はドスの効いた声で「お嬢を迎えにきやした」なんて言う。正直それだけで嫌な想像が出来た。

 恐る恐る確認の為に和華を見ると、「あ、迎えきた」なんて言うのだから疑惑は確信へ。


 山井。ごくありふれな苗字だ。鈴木とか佐藤と比べるとあれだが、別段めちゃくちゃ少ない苗字では無いはずだ。

 だからまさか彼女がそうだとは思わなかった。寧ろ、その可能性を無意識に消していたまである。


 山井組。はい、お察しの通り「どこの組のもんじゃあワレェ!」のアレェである。

 少し前にこの町には不良は近づかないと言ったが、その理由がコレ。

 近所の噂好きの佐々木さんが話していた事だが、山井一家は古くから続く極道一家で、表向きには建設業からIT系まで幅広く扱う会社を経営しているが、元は数代前まではなかなかの武闘派な極道だったとか何とか。

 時代の波にのまれる前に上手くやったらしい。


 しかし、今はどうあれ元はそういう組織であり、今も町のほぼ真ん中にある武家屋敷のような和風の豪邸の周りには怖いおっさんやお兄さんがウロウロしているので、不良なんてチンケなものは寄ってこないというわけだ。

 ちなみに、山井組は近隣住民と良い近所付き合いが出来ていて、祭りなんかでは出店を出しているし、色々とボランティア活動もしているとか。


「ごうきー、迎えありがとな!」

「呼ばれたら何処でも行きやすぜお嬢」


 うわぁ、マジで本物だ。和華さんや。お前が友達出来ない理由はそれだ。誰も山井組とはかかわりたくねぇって。


「ところで、そこの兄さんは誰ですかい?」

「おう! 輝夜だ。助けて貰って、んで、友達になった!」


 ぺかーっと屈託ない笑顔で紹介してくれる。ってすげぇ睨まれてる怖い怖い怖い!

 と思ったら違った。突然ハンカチを出して目を拭い始めたのだ。


「うぅ、とうとうお嬢に友達がぁ……早く帰って姐さんにお伝えしねぇとぉ、うぉぉぉ」

「な、泣くなって剛毅! 恥ずかしいだろ!」


 なんだろう。すごいほのぼのするなぁ。


「輝夜さん。どうか、どうか、うちのお嬢をよろしく頼みます」

「あ、いえ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 本当は関わりたくない。けど、もう遅い。

 それに、家がどうのこうので友達をやめるってのは流石に間違っているしな。

 あと、今更やめるとか言ったらどっかの森の中か海の底行きが確定しそうで怖い。というか、そっちが本音かもだ。


「輝夜!」

「な、なに?」

「明日迎えに行くからな! ちゃんと準備しておけよ?」

「はぁ?」

「じゃーなー」


 言うやすぐに車に乗り込み、窓から手を振って去っていった。

 数秒、呆然と立ち尽くした後、フラフラと家に入るとリビングには寧々音が降りてきていて。


「輝兄。ドンマイ!」


 グッと親指を立ててきた。どうやらカメラ付きのインターホンで見ていたらしい。

 とりあえず何とも言えない感情を寧々音にぶつける為にほっぺを挟んでムニムニと遊んでやった。


「うわぁ、むにゃぁ、やめにゅのらぁ」


 満足である。

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