#4

 というわけで着きました。二年一組教室前。


 本校舎の二階にあり、一階にあった一年の教室とは違って階段を登らないといけないのがもやしっ子の俺には辛い道程だった。

 三年になるとさらに階段を上らないといえないとなると、早急に階段のエスカレーター化を求めざるを得ない。

 きっとそう願う学生は全国津々浦々、ごまんといるに違いないと俺は思う。


 それはさておき、教室に入ると……あぁ、陸斗がいる。

 他にも全員ではないがこれからクラスメイトになるであろう生徒が結構いた。

 元々の友達と談笑する者、新たな友達を作ろうと動く者、そんな勇気は無くて席について携帯をいじる者、大方何処でも見るクラス替え後の教室という奴だな。


 とにかく陸斗の元へと歩み寄る。


「今年も一緒だな陸斗」

「おう。腐れ縁だからな俺達」


 とりあえず初期ボッチは回避出来たようで安堵したい。バンザーイ。


「他に知り合いはいるか?」

「いや、一年で同じクラスの女子が三人と男子が二人いるけど、みんな交友が薄い奴ばっかだった」

「そうか。オタクは?」

「今の所は分かんねぇな。それっぽいのはいるが、まだ全員隠してる感じだ」


 新しいクラスになって同志を探すのはごく自然の発想だろう。

 カースト下層に位置しやすい陰オタではあるが、人数が多ければ下層と言えど住みやすくなる。

 そんな理由もあってクラスにいる同志の数は正確に把握しておきたい。


 ちなみに俺の場合、同志の中に女子は含まれない。例えオタ女子だろうと、女子は女子。仲良くなる事も時にはあるだろうが、基本は棲み分けがあるのだ。漫画やライトノベルみたいには中々いかないのである。

 それでも普通の女子よりは全然喋りやすいのだけどな。何というか……オーラ的なアレがアレなのだ。


「そういや輝夜」

「なんぞ?」

「朝の続きなんだがよ」

「朝というと、リア充になるとか馬鹿な事を言っていたあれか」


 貴様がリア充になどなれるわけがないだろう。その幻想は俺がぶち壊す! までもなく叶う事はあるまいよ。


「おう。俺はリア充を目指すが、輝夜はどうするんだ?」

「は?」


 どうする? 何が?


「彼女とか作らねぇのか? もう高校二年だぜ? このままじゃ灰色の学園生活を送ることになるって分かってるか?」

「いやぁ、ないわ。彼女とかいらねぇわ」

「お前……輝夜さぁ、そういう格好の付け方は良くないと俺は思うんだわ。逆にダサい。俺ってば一匹狼。ロンリーウルフカッコイイーってのは厨二病の発想だぜ?」

「別にそんな事は思ってないけど。とりあえずお前は殺したい」

「図星を突かれたからって怒るなよ」


 突かれてねぇよ。そうじゃなくて全国の俺と同じくお前に殺意を抱いている皆様の為にお前を殺すんだよ。


 喰らえ渾身の右ストレート!


「うわっ、危ねぇ!? こいつ本気で殺しにきただと!?」

「容赦はしない」


 キリッ。


「と、ともかくだな。俺と同盟を組もうじゃないかと言う話だ」

「え? そんな話はしてなかったけど」

「えぇい、うるさい。いいから俺と彼女作る同盟組むんだよ!」

「だが断る!」

「ネタはいらねぇ!」

「いや、実際に組まねぇし。本気で彼女とかいらん。ゲームの邪魔だ」

「かー、ぺっ。そろそろ画面の彼女とはおさらばしようぜ? な、同志」


 そう言って肩に手を置く陸斗。


「肩に触れるな汚い。貴様など最早同志でもなんでもないわ。さっさと彼女(笑)でも作ってイチャイチャしていろ」

「彼女(笑)ってなに!?」


 ご想像にお任せします。


 しかし、どうしていきなりこんなリア充病にかかってんだこいつ。春休み入る前はここまで酷くなかったはずだ。顔と性格は変わらず酷かったけどな。


「そんなに彼女が欲しいって何かあったのか?」

「大河内」

「大河内? あいつがどうしたんだ?」


 大河内と言えば一年の頃の同志だ。めちゃくちゃ仲が良かったわけじゃないが、まぁ、普通に友達だった。

 ゲーセンとかも一緒に言ったことがある程度には友達だ。あれ? 下の名前なんだっけ?


「あいつに……彼女が出来た」

「な、なんだと……?」


 って驚いて見たもののどうでも良い事山の如し。

 ふむ。しかし、大河内か。

 ゲーセンの音ゲーが好きだったイメージしかないが、そんな悪いやつだった気はしない。


「あの野郎、俺達に抜け駆けして春休みに始めたバイト先のJDとお付き合い始めたとか抜かしやがるんだ」


 女子大生ですか。それはなかなかやりますねぇ。


「それで羨ましいからお前もリア充になると」

「おうよ」

「そうか、頑張れよ。応援してる」

「違ぇ! 一緒に頑張るんだよ!」

「断るって言ってんだろ。俺がもし熱を入れるとしたらそれこそ声優とか、超アニ声とか」

「寧々音とか?」

「そう、寧々音とか……は?」


 なんでやねん。何故俺が寧々音に熱を入れないといけないんだよ。俺はシスコンではありませぬよ?

 ってか、変な茶々を入れてくるのは誰だこの野郎。


「って、姫ちゃん?」

「はい。寧々音の親友、市姫です。おはようございます」


 そこにいたのは寧々音の友達、名古市姫ちゃんだった。

 凄いおっとりした顔をしているのに超絶口が悪い女の子で、栗色のくせっ毛が悩みらしい少女である。ちなみに胸は寧々音よりは発育が良いようだ。


「あ、うん。おはよう」

「今日も気持ち悪い顔面ですね」


 えぇ……。なんで朝から妹の友達にディスられてんの? 意味わからん。


「そ、それはさておき、ここ二年の教室だけど」

「知ってますよ? 私を馬鹿にしてるんですか? 殺しますよ?」

「殺さないで?」

「まぁ、殺すのは今度として……」


 あ、冗談とかじゃないんだ。今度殺させるのか。短い人生だったな、アーメン。


「用事で職員室に行った帰りだったんですが、この教室から寧々音の匂いがして」

「えぇ……」


 ドン引きだわー。俺からしたのであろう微かな寧々音スメルを嗅いでここに辿り着くとかマジパないすわ姫ちゃん。


「少しドブの臭いも混じってたので輝兄さんの可能性も大いにありましたが、一応確認の為に」


 ドブ臭……。もうダメ。二年生初日から精神攻撃を受けてジ・エンド。


「やぁ、名古さん。今日も可愛いね」

「……? あの、輝兄さんこの人誰ですか? とりあえず凄く生理的に無理です」


 陸斗に話しかけられてめちゃくちゃ嫌な顔をする姫ちゃん。

 俺と寧々音繋がりで二人は顔見知りなはずだが……。


 うげぇっと顔を歪めて拒否している辺り、実際は分かっていての反応だろう。

 姫ちゃんが知らない奴に絡まれた時って顔から表情が無くなるからな。


「残念な事にこいつは陸斗だよ」

「あぁ、道理でスカンク顔負けの悪臭を漂わせているわけですね」

「ひでぇ!?」

「うぅ、酷い臭いで鼻がもげそうです。そろそろ愛する寧々音の元に帰ります」


 クラクラと立ちくらみの演技をして言う。ん? 演技だよね?

 演技じゃなかったら流石に陸斗が可哀想だ。……いや、やっぱりそうでもないな。

 ってか、来てすぐに帰るのかよ。まぁ、二年の教室にずっといるわけにも行かないか。そろそろ始業式の為に体育館に移動しないとだしな。


「あ、うん。寧々音の事よろしく」

「言われなくともお任せ下さい」

「それもそうか」


 姫ちゃんは寧々音の事が大好きだからなぁ。寧々音も姫ちゃんの事好きだろうし。


「……輝兄さんも」

「ん?」

「一応、先輩ですからね。よろしくお願いします」

「あぁ、うん。了解」


 なんか、照れるなこういうの。

 もしかして、それだけを言う為に二年生の教室に来たとか……それはないか。

 というか、その妄想は普通に自意識過剰だな。


「俺は!?」

「その髪の毛似合ってませんよ?」

「ガーン」


 膝から崩れ落ちる陸斗。やっぱり哀れな男だな。でも俺も似合ってないと思う。

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