#3

 馬車馬と成り果てた俺と今尚ゲームに夢中の寧々音は少しばかり無駄な時間を過ごしつつも学校の校門へと辿り着いた。


「ついたぞ寧々音」

「ん。褒めてつかわす。ところで兄よ」

「なんだ妹」

「なんか視線が多いぞ。寧々は不快である」

「いや、そりゃそうなるだろ」

「は?」


 コテンと首を横に倒す。マジで分かってないの? 小学生並みの羞恥心か? いや、最近の小学生の方が敏感でございますよ?

 仕方ない。そんな寧々音にも分かりやすいように説明してやろうじゃないか。


「聞いて驚くな? 高校生にもなって兄妹で手を繋ぐのは多分俺とお前だけだ」

「ナ、ナンダッテー」

「棒読みかよ」

「ふむ。なるほどな。寧々は理解したぞ」

「理解の早い賢妹でお兄ちゃん泣きそうだよ。でも、最初に俺が言った時に分かって欲しかったな」


 そうすればこの登校中の間の十数分間、俺は羞恥で顔を染めなくて済んだんだけど。

 しかし、寧々はそんな事はお構い無し。


「しかし輝兄。ゲームと視姦される羞恥心を考えると、寧々の中ではゲームが優先される割合の方が大きいぞ」

「いや、視姦とかされてないから。被害妄想が半端ないから」

「そんなことはない。JKとなってさらに磨きがかかった寧々のナイスバディを見た男子高校生達は毎晩部屋で卍卍しなくちゃいけないと思われるぞ」


 ナイスバディ? ナイスまな板の間違いでは?

 とは口が裂けても言わない。というか、卍を伏字みたいに扱いするのやめろ。


「意味がわからんし、その卍は使い方を大いに間違っている」

「そんな事を言ったら全国の卍高校生の使い方も卍間違っているぞ? マジ卍」

「それはそうだが、そういう問題じゃないし、卍高校生って何だよ。ってか卍卍うるせぇ」


 なんで朝から妹と高校の校門前で卍卍言い合わないといけないんだよ!

 卍がゲシュタルト崩壊しちゃいそう。マジ卍。


 それはともかく。


「そろそろ恥ずかしいから教室に向かお?」

「まさか輝兄に羞恥心なるものがあったとは驚きだ」

「いやいや、寧々音はもう少し羞恥心を持つべきだと思うんだがどうだろうか?」

「馬鹿を言うな輝兄。寧々は人並みの羞恥心は持っているぞ」

「今世紀最大の嘘をありがとう」

「寧々がこうして馬鹿な掛け合いをしているのも輝兄がいるからであって、寧々一人ではこんな事はしない。全ては輝兄のせいだ。さぁ、謝ってもらおう」

「え? なんで!?」

「謝ってよお兄ちゃん!」


 突然の甘いロリボイス。まるで声優のような声色に、脳にビリッと電撃が走った。


「申し訳ありませんでした!」

「ん。では寧々は先に行くので」


 そう言ってテクテクと校門をくぐった。

 いつの間にあんなロリボイスが出来るようになっていたんだ! ってか、あれって完全に俺をいいように扱う為に練習したんだよね!?


 寧々音……恐ろしい子!


「って、待てって。一応クラス確認もついて行くって」

「クラスは入学式の時に教えられた。なので、寧々はそのまま教室へGOする」

「マジか。でも俺は自分のクラスを確認しないと……じゃあ、俺は行くぞ」

「さっさと行け」

「お、おう。あ、帰りはどうする? 一緒に帰るか?」

「いい。市姫いちひめとクラス一緒だから一緒に帰る」

「そっか。姫ちゃんと一緒のクラスだったのか。じゃあ安心だな」


 市姫ちゃん。フルネームは名古なご市姫と言い。寧々音の中学からの数少ない友人だ。

 可愛らしい子ではあるのだが、うちのちょっと頭のおかしい寧々音と仲良く出来る逸材なわけで、そんな存在がまともなわけがない。

 簡潔に言うと口が悪い。息を吐くように言葉の弾丸を容赦なくぶち込んでくるのだ。


 ともかく、二人は仲が良い。そんな二人が同じクラスならばクラスでいきなり孤立ボッチ街道は歩まなくて済むだろう。


「さて、妹の心配してる場合じゃないな。問題は俺の方だっての」


 去年は悪友陸斗が同じクラスだったからボッチ街道ではなかったが、今年はどうだろうか?

 クラス発表の紙は……うわっ、人混みになってるし。超近づきたくない。


 だが、確認しないと始まらない。

 意を決して人混みへ突撃敢行する。


「逢坂……逢坂……あった。二年一組か」


 一組だったお陰ですぐにクラス表に名前を見つけられた。

 というわけで人混みから脱出する。


 あ、知り合いがいないか確認するのを忘れた。まぁ、クラスにも多分表はあるだろうし、それにすでに知り合いが教室にいるかも知れない。


 せめて陸斗がいる事を願いつつ、二年一組への教室に歩みを進めた。

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