#2

 一年間通った通学路……と言えばそうなのだが、言ったように家と高校の距離は近い。時間にして徒歩十五分程度と駅より近い。寧ろ駅は三十分以上かかる為、学校と比べると遠いくらいだ。


 とにかく近所なわけで。それこそ小さい時から見慣れた道だし、高校の前だって数え切れない程通っている。

 今更何も感じない。それは隣で歩きながら携帯を弄る寧々音も一緒だと思う。


「おい、ながらは危ないだろう」

「そうだね」

「返事しながらやめる気はないのか。ぶつかっても知らねぇぞー」

「だって体力消費しなくちゃいけないんだよ?」

「家でしろよ。家で」

「忘れてたんだよ」


 寧々音は流行りのアプリゲーをしている。誰に似たのか寧々音もゲームが結構好きで、それなりに嗜んでいるようだ。

 とは言え、するのは専ら携帯アプリのゲームで、それも有名なパズルだか、引っ張ってストライクする奴だかで、俺とは相容れない。

 残念ながら俺はアプリゲームはあまりしないのだ。

 あんなものは課金してなんぼであり、俺は課金するくらいならばエロゲを買う。


 偏見はあるが、とにかくしないものはしないのだから仕方ない。別に前にドップリハマって痛手を負ったとかそんな事はない。ないったらない。

……ちょっとだけだ。


「ほら、手貸せ」

「……は?」


 ながらは危ないので手を繋いで誘導してやろうとしたのだが、寧々音に凄いなにこいつって顔で見られた。お兄ちゃん、ショック!


「いや、危ないし」

「……まぁ、いいや。ん」


 そう言って手を繋ぐ寧々音。こういう素直に従うところは可愛い。

 その可愛い妹は顔を画面に向けて片手で器用にゲームを再開している。マジブレねぇ。

 と、ここである事に気がついた。


 ここは高校の近く。つまり、登校中の学生がちらほらいるわけで……。兄妹とは言え高校生になった男と女がお手々つないで登校するという光景は目を引くのは当たり前だった。


 チラチラ見られてる。恥ずかしい! あぁ、クスクス微笑ましく笑わないでそこのお姉さん!


「あ、寧々音。やっぱり手は離そう。うん。高校生にもなってこれはダメだよな! ごめんごめん」

「寧々は別に気にしないぞ。寧ろゲームに集中出来て良き」

「……あっそうですか」


 うちの妹マジパネェ。今度から寧々姐さんと呼ぼう。

 いや、それじゃあ妹じゃないみたいだな。やっぱりやめだ。逢坂兄妹の年長者の座は譲らんぞ。


「それより輝兄よ。キリキリ動け」

「うぃっす」


 何ですか。俺は馬車馬ですか?


「おっ、逢坂兄妹じゃねぇか! 相変わらず仲良いな! 流石に手を繋いでるのは若干引くけど」


 馬車馬の如くキリキリ進んでいると、後ろから声を掛けられた。

 振り向くと、そこには見知らぬ金髪の男子生徒が。なんだろうこの純日本男児に金髪のカツラ被せましたみたいな違和感。


「どちら様?」

「いやいや、俺だよ俺!」

「オレオレ詐欺はネタにしてももう古いと思うぞ」

「そういうテンプレはいらねぇっての! 小中、それに去年も同じクラスだっただろ!」


 ほう。そんな腐れ縁なのか。すぐにでも引きちぎりたいなぁその縁。


「ううむ。すまんが、俺はオタクと家族の名前しか覚えないんだ」

「何でだよ! そのオタクカテゴライズの一人だろうが!」

「いやいや、俺の知り合いにそんな明るい髪の毛の奴は数人しかいねぇよ」

「いるのかい! そりゃ髪の毛は染めたけど! 新しいクラスになるから染めたけど!」

「それになぁ。オタクって、ワン〇ースとかこ〇亀とか名探偵〇ナンとか見て、俺結構アニメ見るし、漫画読むよ? とか言ってる奴は俺達の知ってるオタクじゃねぇんだよ。スクール〇イズ全話見てナイスボートしてから出直しやがれ」

「そのチョイスには一種の悪意がするぜ!? いや、俺だよ。黒岩くろいわ陸斗りくとだよ!」


 ナイスボートはエロゲ界のトラウマ製造機やー。


 というのは一回横に置いて。


「何、髪染めてんの? リア充になるの? 爆発するの?」


 黒岩陸斗。確かに知っている男である。

 何を隠そう、ノーマルオタクの俺をエロゲの世界に誘い込んだのはこの男だ。

 高校一年の夏に半ば無理やり貸し与えられたエロゲを興味本位でプレイした結果が今の俺というわけさ。まぁ、その事に関しては感謝しないでもない。


 ちなみに、今では俺の方が底なし沼にハマるが如く抜け出せないくらいにハマっている。


「爆発はしねぇよ! いや、だが正解だ。俺も高校二年。そろそろ画面の彼女ではなく三次元の彼女を作ろうと思ってだな」

「陸斗よ。哀れな陸斗よ」

「哀れじゃねぇよ」

「作ろうと思って出来るものじゃないんだぞ彼女は」

「…………」

「特に俺達のような陰オタには無理だ」

「うっせぇぇぇ!!」


 陸斗は叫ぶや、学校の方に向かって走って行った。

 なんなのだアイツは。


 しかし……彼女か。


 彼女なんて寧ろ邪魔ではないか。考えてみろ。

 彼女が出来ると金を使う。つまりエロゲが買えない。

 彼女が出来ると時間も使う。つまりエロゲが出来ない。

 彼女が出来ると……ってまずエロゲをやめないと彼女はできないのではないだろうか?


 とにかく今の俺にはいらないものだし。できる気もしない。


「なぁ、寧々音よ」

「……なに?」

「俺に彼女が出来たらどう思うよ」

「その女の頭を疑う」

「……なるほどな」


 お兄ちゃん妹のストレートな言葉責めで泣きそう。


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