R-18な声の持ち主

#1

 この世界には三種類の妹がいる。


 可愛い妹。可愛くない妹。二次元の妹である。


 俺は無論、二次元の妹が大好きなのは言うまでもない。

 それはさておきだ。

 うちには妹が一匹いる。一つ歳下の今年から同じ高校の一年生として入ってきた妹だ。


 果たして、その妹は……可愛い妹なのだろうか。それは多分、人による。


 ガチャっと部屋の扉が開かれる音で浅い眠りについていた俺の頭は半覚醒をした。

 しかし、体は動かず、頭も働かない。今が現実なのか、夢なのかさえ曖昧だ。


 ミシッミシッと足音が近づく。

 何かが、そう何かがベッドに近づいて来ている。

 そこで、頭が動き始めた。脳が経験上、今の俺の状態が危険だと察知しているのだ。だというのに体はまだ安眠を求め、動いてくれない。

 動け! 動いてよ! 今動かないと、俺が死んじゃうんだ! なんて俺の脳内イメージのパイロットが叫ぶが、体は拒否する。


 そして、そうこうしてる間に足音は止み、次にベッドがギシギシと軋む音がした。

 これまでか……。


 すると、そこで俺の体がゆっくりと覚醒を始めた。

 まずは目が開かれる。

 そして、口が開き……。


「やめっ――」


 少し、ほんの少しだけ遅かった。

 視界に人間のシルエットが映り、次の瞬間には鳩尾に強烈な一撃が。


「おぐぅ!?」


 俺の身に何が起きたのか。

 分かりやすく説明しよう。


 1.妹が跳んだ。

 2.妹が落ちてきた。

 3.妹の肘が俺の鳩尾にクリーンヒット。

 4.俺DIE。


 凄い分かりやすい。死んでないけど。

 まぁ、これが地獄妹落としである。


「おはよう輝兄。朝だ。早く起きろ。ママンが朝飯用意してるぞ」

「おっ、おう。了解した。着替えて行く……」


 最早、日常。いきなり何すんだ! とか、そんなテンプレツッコミはいらない。

 逆にわざわざ起こしに来てくれる妹に感謝ですはい。


 さて、では我が家の妹キャラことガチ妹を紹介したいと思う。


 逢坂おうさか寧々音ねねね。俺事、逢坂おうさか輝夜かぐやの妹である。

 うちは兄妹揃って母似であるが、寧々音は父のボケっとした性格などもしっかり受け継ぎ、結果、活動的で引きこもりな残念少女となっている。


 まぁ、見た目は可愛い可愛くないの二択にしてしまうと、そこそこ可愛いのではないかと思わないでもないのだが、身内としては残念な性格が帳消ししていると言わざるを得ない。


「そ。じゃあ早くね。ママンが初日の朝くらい二人で登校しなさいって言ってたから」

「ういっす」


 寧々音の言うママンとは母親の事だ。うちの妹は父親の影響で母をママンと呼ぶ。もちろん俺は母さんと普通に呼んでいる。

 しかし、母さんと呼び始めたのは小学校高学年の時で、それまでは俺もママンと呼んでいた。

 呼び方が変わったのは五年四組逢坂ママン事件という授業参観の時に起きた不名誉な事件が起きてからだ。


 あの思い出は一生封印しておきたい。


 黒歴史を再び記憶の奥隅に封印していると、寧々音はさっさと部屋を出ていき、階下のリビングへ向かった。


 俺も急いで制服に着替えてリビングへ急ぐ。

 時刻は七時十二分。俺と寧々音が通う峰ヶ浦みねがうら高校と家の距離は近く、八時前に出れば十分間に合う。


 だが、顔を洗ったり、朝飯を食っていたりすると、時間が過ぎるのはあっという間だ。

 新しいクラスになる日に遅刻などしたくはない。という事で急ぐ。


 リビングには母さんと寧々音。父さんはもう仕事に旅立った後のようである。


「輝夜。冷める前にさっさと食べなさい」

「うぃっす」

「あ、輝兄。今日の十二月は六位だったぞ」

「微妙な。ラッキーアイテムは?」

「キーホルダーだって」


 ソファーに座ってテレビを見ていた寧々音が今日の誕生日占いを教えてくれる。

 別に本気にしている訳じゃないが、どうも気になってしまうのは俺だけじゃないはず。


「ちなみに三月は一位。ドヤァ」

「あっそ」


 ズズズっと味噌汁を飲む。美味い。


 妹の誕生月が一位とかどうでもいいわー。


「寧々、お母さんはー?」

「ママンは最下位だったよ」

「……今日、仕事行くのやめようかな」

「なんでやねん」


 思わずツッコミ入れてしまった。

 俺も寧々音もなんとなくで見ている占いだが、母さんは結果をめちゃくちゃ気にする質なようで、その日の運勢によって一日のテンションが左右される事もしばしば。

 そこは似なくて良かったと思うけど、俺達兄妹も毎朝気になって見ている辺り、やはり母似なのだろう。


 ちなみに、母さんは週三でパートをしている。経済的に余裕はあるのだが、母さんは趣味で仕事をしているのだ。

 曰く、お金を稼ぐって興奮するのよね。だそうだ。変態である。


「しかし、キーホルダーか」


 何度も言うが今日は始業式。クラス替え発表の日でもある。

 新たなクラスに馴染めるかどうかも含めて大切な初日。是非とも幸運をもたらして欲しい。


「あ、そういやアレがあったな」


 ふと、先日手に入れたある物を思い出す。


 という事で、飯を食べ終わってすぐに部屋へ戻り、机の引き出しの中に入れておいたアレを取り出す。


『一寸先は恋 〜変わる関係はラブの予感〜』

 通称、一恋。


 これは俺が数時間前にプレイしていた色んな女の子との恋愛を楽しめる恋愛アドベンチャーゲームのタイトルである。

 そして、俺が取り出したのはその初回購入者特典で付いてきたキーホルダー三点セットなるものだ。

 幼馴染の朱里、それに先輩と後輩の女の子の三人のキャラクターがぶら下がったキーホルダーで、デフォな姿が可愛らしい。


「ふむ。三人は流石に邪魔だな。せっかくだし朱里を付けていくか」


 まだ攻略は朱里のみだ。部分的には残念な結果に終わったが、それでも愛するキャラの一人である。

 何より、残念だったのはエロシーンだけであって他の所はたどたどしくもそれなりに良かった。

 という事で朱里、君に決めた!


 朱里のキーホルダーを鞄の……いや、鞄は駄目だろう。幾ら俺がオープンオタだからと言って、悪目立ちするような事はしたくない。

 そんな理由で朱里には鞄の一番小さいポケットに入って貰うことにした。


「輝兄、そろそろ行くぞー」

「あ、先に歯磨かせて」

「早くしろよー」

「うぃーす」


 この時、俺はまさか新たなクラスであんな出会いをするとは夢にも思っていなかった。

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