第2話 深まる秘密
第1章「始まりのレジスタンスと終わりのレジスタンス」
科学技術が極端に発展した現代になって、つまり宗教などが根本的に否定する人が増え続けている現代になって、神話に新たな1ページが刻まれることとなる大規模な事件が発生した。
レジスタンス。
時は40世紀、有り余る現代科学の技術力を余すことなく戦争に注いでいた第三次世界大戦の戦時中において、電脳世界にも現実にも、ひいてはパラレルワールド、平行世界にも、平和な場所などは存在しなかった。
ブラックハッカーでさえ国が戦争のために多額の報酬金で雇われていた様な世界では、貿易までもがハッカーや人工知能に操作されてしまうため食料はそれぞれの国々でが自分で作るしかなかった。皮肉にも、食料自給率はそれで過去最高となっていたのだが。
そこへ終止符を打ったのが、未だ人類が、否、未だ地球人が足をであったことも見たこともない
「月」の民だった。
光り輝く月の姫君はあらゆる生物の思考を操り、熟練の老師はあらゆる運命を操った。
突如として現れたその革命軍は、
「レジスタンス」
と名乗っていた。
「竹取の翁この子を見つけて後に、竹をとるに、節をへだてゝよ毎に、金ある竹を見つくること重りぬ。」
月の民は彗星のごとく現れ、地球を救ったのち、食料対策と民間人が己の命を守るための武器を無償で配布して帰っていった。
その武器こそが、その後最強の武器へと変貌を遂げる、金色に光り輝く「竹」なのである。
波乱が波乱を呼び起こし、新たなる大戦、
新たなるレジスタンス、新たなる文明を生むであろうことは、もうとうに理解できることだった。
今宵、その歯車が重なり合っていることを
菊だけが理解していた。
☆
「うん、私の名前はね…」
菊がいきなり切り出す。
「いやいやちょっと、抜け駆けはダメなんじゃない?」
「…菊一文字則宗だよ。
「いやいや、無視!?あっ、アタシ、グリム
・グリモワール!」
「自分だけ仲良くなろうなど、言語道断!……トリノ・ヘラウノスだ、よろしく頼む」
「結局みんなでしゃばりなのな…、うん、えーと、
「君たちを探していたんだ!あぁ、4年前のこと、覚えてる?」
菊が飛び出し、ムラクの言葉を遮る。
「えっ?うん、あっと、竹が喋って、竹が人で、あれ?助けてくれて?ありがとうございました?」
混乱しているキュラに、菊と名乗る竹(?)が説明する。
「君たちには私が人の姿をしているように見えてるでしょ?
これは、ホログラムというか、擬人化というか、そういう風に見せているんだ。」
「へー…、ちゃんと触れる…。意思もあるんだねぇ…、あっ、柔らかい」
なぜか冷静なセナが興味津々そうに近づく。
それを見て過保護なマシュがオロオロとしている。
「ちょ…、ダメだよ、危ないかもしれないよ…。」
「…まあいいや、とりあえず目的だけでも聞こうかな。」
セナがマシュを無視して、問いかける。
「ふ…、
「そりゃそうね。
そっちから
意外ににふてぶてしいラピが話すと、菊が前に出てくる。彼女(?)が彼らのリーダーなのだろう。それにしても、ホログラムでは歩いているように見えるが、竹がどうやって歩いでいるのか…。浮いているにしても、どこからエネルギーを生産しているんだ?チャージャーも見当たらないし…。
▽
それから菊はキュラたちにこの世界のいろんなことを話した。時代のこと、星のこと、色んな惑星が存在すること、そしてキュラたちがそれを知らされず、隠されて生きてきたことについて話す。
そして、そんな世界を救う
「レジスタンス」(ここでは2代目とは述べていない)
として菊たちがキュラたちに接触してきたことも。
「何がしたいのかは分かった。…じゃあ、そのために何すればいいのさ?」
「いいねいいね、話が早い。」
さらにムラクが続ける。
「端的に言ってしまえば、君たちは…君たち「第17世代」の子供たちは、家族や血縁、それからこの世界のこと…。たくさんの事実を隠ぺいされて生きてきた。
ここまで解かるよね?」
キュラは何とか動揺を抑え込み、一拍おいて会話を続ける。
「…うん、水星だけでなくたくさんの星があることさえ知らなかった。
そう考えるしかないよね…。」
ラピが申し訳なさそうに会話に割り込む。
「あの、ってことは、私たちにも家族がいるん…ですよね?」
(菊「…。」)
菊が少し暗そうな表情になった…?
「うむ、今から話す本題もちょうどそのことだ。いわゆる「敵組織」が、君たちの「記憶の操作」や「家族らの拉致」などを行っていたのだ。」
「んで尚且つ、キミらには「奴らの意図」によって「能力の付与」がされてるのねっ。」
………えっ?
衝撃を受けた、なんてもんじゃなかった。
「奴ら」って?記憶の操作?
「えっ、えーと、とにかく、私たちには能力があって、それが「何者か」によって与えられてるの?」
「で、その「何者か」は家族や記憶を奪った…と、そう言いたいの?」
セナの言葉に、キュラが補足する形で再度確認する。
しかし、そこに、マシュは疑問を抱いた。
「まあ、そこに様々な疑問点があるのだが…。」
マシュが深呼吸をしながら顎に手を当て、小指と薬指を曲げるのは、真剣な話をする時に出るクセだ。
「…あえて一つだけ聞こう。君たちはなぜそれを知っている?」
その質問を予知していたかのように、冷静に菊が答える。
「うん、まあ、いきなりけしかけてここまで受け入れてくれたんだし…。」
「…と言いたいところなんだけど…それを今いう理由はあるのかな?」
「…確かにお互いの利害は一致しているのだが…、それを言ってしまって、君たちにとってマズいことがあるのか?」
いつもならオドオドしているマシュが、得体の知れない相手を前にして、いつになく頼もしい。いや、いつもは妹のことを思いすぎてああなってしまっているだけで、本当は元から正義感が強いのかも。
「今言ってしまうと、君たちはひどく混乱してしまうだろう?特に…君たちのリーダーの、黒髪の彼女は。」
「…?
…ああ、キュラのことを言っているのか?」
「…女じゃないし…。」
キュラが呟く。
「え?何?」
しかし、声が小さすぎて、キュラの心の叫びが菊へ届くことはなかった。
菊が質問する…が、聞かれている本人はうつむいたままで、答えが帰って来る気配はなかった。
「まあいいや…。兎にも角にも、まずは1つ目の任務をこなしてからにしよう。詳しいことを話すのはそれからだね。説明だけじゃつまんないでしょ?」
「おっしゃー!暴れるか―!」
セナがいきなり叫んだ。さらわれたばかりだというのに…という顔で、マシュは能天気(に見える)妹を心配している。いつものマシュだ。
「そうだね、まずは移動手段が必要だ。簡単に言うと、敵の本拠点がこの星の外にあるからね。そこで、宇宙の間を移動できるものを調達しよう。ここからずっと西のほうに、敵の支部となる廃ビルがあるはずだよ。この地図が正しければね。」
菊は意味深に(本人はドヤ顔をしているつもりだった)菊がここからでは木々しか見えない西の方角を指して言う。聞けば聞くほど、段取りが良すぎるなぁって思う。そんな情報がどこから湧いて出てくるのか…。
「いいねいいね、どっかでそんな昔の映画を見た気がするよ。能力者が飛行機奪って黒い敵を倒す話!」
「今の状況だと、縁起でもないね、それ。」
みんなが苦笑する。
それぞれがそれぞれの心の中にしこりを残したまま、キュラたちは計画されたようで信用性のない計画についていくことを決行した。
☆
それはある、月のでない世界でのお話。
「ねぇお母様、この国に…この星に平和は訪れないの?」
それはある国の、王女の娘が…プリンセスが吐いた一言。
「ねぇお母様、どうして私は力を持っていないの?どうして思い通りに動けないの?どうして戦えばいいの?どうしたらこの星を治められるの…?」
自分はどうすれば運命に抗えるのか。少女は何もできない自分を責め、また自分を責めている自分をまた責める。
「…。」
母親は黙り続ける。
「ねえ、応えて?」
少女は切望する。涙目になり、震える声を振り絞って。しかしその顔も、だんだんと下に下がっていっている。
「そうねぇ…じゃあ、ある昔話をしましょうか。」
「昔話…?」
再び、少女は上を向く。彼女には長すぎるスカートの端で、涙をぬぐう。
「そう、昔のお話。
今から何百年も前の、この国のお姫さんのお話よ。」
母親は少女の顔を伺い、少し安心したことを確認して、一呼吸して、話を続けた。
「その頃にも、今のこの国みたいに、この星みたいに、戦争が起こっていたわ。いや、いまよりももっと酷い。」
母親は神妙な顔つきで語る。
「どんな様子だったの?」
「人々に実害は無かった。傷もつかなかった。いや、実害に気づくことができなかった。時間軸がずれていたの。もっと正確にいうなら、「世界線」と言われる、世界の境界がずれていたからなの。」
ここで言う「人々」とは、王家や貴族、軍人でない民のことだ。
「それは前にお母様が話してくれた、星のまもりびと《ガーディアン》たちについてのこと?」
星の護り
しかし、彼らに星と星の交流を支えさせたのが、一種の間違いであったとも取ることができる。彼らは知らず知らずのうちに、いわば「宇宙大戦」の原因を作ってしまった。一つは、時間などのずれを力ずくで合わせることそもそもが間違っていたこと。二つ目は、彼らはそれぞれの国の有能な技術者や能力者から複数選抜していたため、国力や軍事力が下がった星や国々が多発したこと。
三つめは、彼らがその立場ゆえに権力を持ちすぎたこと。
ここまでが「前にお母様が話してくれたこと」である。
「そうよ。彼らは反乱を起こした。彼らは強くなりすぎた。力ではもちろん、政治的な立ち位置としても。」
また同じように、一呼吸置く。
「そんな状況を打破したのが、「レジスタンス」たちなの。この国のお姫さん、それに仕える老執事、少数精鋭の能力者たち。絶対に倒せない、倒せる術がないと思われていたガーディアンたちを、彼女らは一夜にして制圧するという偉業を成し遂げた。これが有名な「一夜月歩」と呼ばれる革命ね。」
「それどころか、ガーディアンたちを従えた…でしょ?」
ずっと聞くのみの態勢をとっていた少女が、やっと口を開く。
少女はさらに続けて話す。
「じゃあ、その人たちは無敵だったの?そんなに簡単に国を治められたのに、どうしてすぐやらなかったの?私なら、すぐに一人で飛び出してでも行くよ?」
「…そうね、じゃあひとつめの質問の答えから。彼女らは強かった。でも、無敵ではなかった。ある程度は苦戦を強いられたし、ガ
ーディアンたちは彼女だけが持つバリアの弱点を知っていた。」
「
母親は少し顎に手を当て、また少し、くすっと笑って、
「もしかしたら、天が彼女に与えた、圧倒的な力の代償なのかもね。」
先ほどまで話していた人とは思えないほど、そして自分の母親とは思えないほどに砕けた口調で話した。母親は窓の向こうを見つめている。まるで自分の過去を、振り返るかのように。
それから母親は顔を少女の方へ戻して、彼女に対して空を見るように促した。少女はその意図がよく分かっていなかった様子だったが、母親は構わず、時々少女の方を見つめて、しばらく星を見続けた。
今日のお話はそこで終わってしまった。
というか少女はいつの間にか寝てしまっていて、次の日の朝に起きて、また昼過ぎまで、母親の帰りを待つのだった。
☆
(いや、ついていかざるを得なかった…が正しいのかな?)
キュラは菊に乗って飛行しながらそんなことを思い返していた。余談だが、キュラは菊、
セナはグリム、マシュはゼウス、ラピはムラクをそれぞれのパートナーへと選んだ。
「やっぱさー、あっち行ったらアタシら別れんの?」
「竹」に乗って飛行しながら、セナがその上空にいるみんなへ話を振る。
「ちょちょ、飛んでる途中に上を向いたら危ないよー!」
「ん…?恋バナかい?」
グリムはいつもこんな風にオチャメな(褒めているわけではない)性格なのだろうか。なぜかキュラとセナをにやにやしながら交互に見ている。それを見て困惑しつつも少し怒りを交えた表情をしているマシュがとても滑稽にみえて仕方がない。」
「まあまあ、それがセナちゃんっていうか…ねぇ?キュラちゃん。」
セナはグリムの発言をあしらいつつ、ツッコミを入れる。マシュがセナのことを心配しているのを見慣れた光景であるかのように、ラピが微笑…いや、ニヤニヤとした表情で。。
「だーかーらー、ちゃんっていうなぁー!」
キュラは大声で怒る。いや、照れているのだろうか?
「じゃあ「くん」なの?」
「…いやそうじゃないんだけどぁ…。」
だけどさあ、と言ったのだろうが、だんだん声が小さくなって全然聞こえなかった。キュラは嬉しそうというよりは、恥ずかしがって顔を赤らめているだけで、キュラの感情表現が豊か(本当に誉め言葉でも何でもない)すぎるだけだった。
ふてくされながら答えるキュラやその会話を聞いて、菊たちはほほえましそうに微笑んで(?)いる。
菊は、内心で、キュラの生い立ちや戸籍について考えを凝らしていた。まあ、主に性別についてなのだが。さっきも女の子がどうとかぶつぶつと言っていた気がする…そんなことを考えつつも、今はそれについて話し出すべきではないんだろうなあと考え踏みとどまっていた。
「ねえ、キュラは男の娘なの?」
でも、この中で唯一空気の読めない女がいた。いや、キュラの心情を代弁すれば、「いやがった」だ。
「グリム…。」
「くぁwせdrftgyふじこlp…。」
ため息をつく菊、困惑してどこかのスマイルな雰囲気の百科事典から引用したような謎の言語を放つキュラ。しかし、(キュラ以外にとっては)平穏な会話は、良くも悪くも突然に中断させられた。
「ッ…!
ゼウス!前方数十メートル!十機の飛行物体を確認!敵機とみられる!」
「攻撃して構わないな?」
他の返事を待たず、雷撃による攻撃を開始する。
「
まばゆい光が敵を包む。
「今だ!逃げよう!」
菊の号令で、セナが能力をフル回転させ、みんなを加速させる。追手が来る雰囲気はなかった。
「…ていうか、攻撃するとか言って結局殺しも傷つけもしなかったな。優しいとこもあんじゃんか」
飛行しながらマシュがゼウスに苦笑気味に話しかけると、ゼウスは照れくさそうに、
「まあ…、な。」
とつぶやくように言う。
「…?」
▽
「…今のは?」
「知ってる?」
マシュとキュラの問いかけに、竹達は首を横に振った。
「…今ので撒けたはずだから、たぶんそこまで強い相手ではないと思うけど…
念のため、もう目的地も見えてきたことだし、降下して森を歩こうか。」
この菊の提案に、全員が賛成した。
「うーん、アグリー」
「なにそれ」
「インテリな人が使うんだって」
「言ってみたかっただけでしょ」
「うーん、アグリー」
「あんたって、キャラそのまんまよね…。」
なんて会話を、グリムとセナが繰り広げていた。この二人を一緒にしたのが正解かと聞かれると、それは人によって意見が真っ二つに分かれると思う。なお、どちらがどちらの発言かは、想像にお任せする。
「食べ物を調達して行こう」
菊が提案にさらに追加する形で提案をした。なんというか、菊もそんなまともなことをいうのだなあ、と思った。いやまあ、「竹」とかいう異形の存在の言うことをすぐに信じるあたり自分たちも変わっているだろう、と一般人は突っ込みを入れてくるだろう。
ムラクが真っ先に台詞を入れる。
「君たちはエネルギーを摂取しないと生きてけナイデショ」
(やはりこの娘は一番まともだよね)
(そうだな、一番信用ありそうだ)
「…こそこそ言っても聴覚マックスにすれば聞こえちゃうからね」
「うえっ!?」
「まあいいんだよ、すこしずつあたしたちを信用してくれれば。」
やっぱりみんな悪い人ではないのかな…?
対機械だからなのか、ラピも感情を読むのに苦戦しているみたい。
そんな中、現在一番警戒と緊張をしているのは、菊とマシュだった。
敵襲と、お互いの争いを避けるために。
▽
森を抜けるまでには、果実などを取りつつ道をたどっていったら森を出た。まあ、みんなに付いて行っただけなんだけど。
道中で獣に出会ったけど、マシュが電気の槍を作り出し、気絶させてしまった。また、技量が向上している。負けられない。
思えばマシュたちには、さらわれたあのときのことを何も聞かされていない。マシュの能力上昇と何か関係性があることは確かだが、それを今知る由もない。
「なにせ、誰もあの時のことの記憶がないんだから。」
「ん?なに、誰かなんか言った?」
キュラがふと後ろを振り返り、食い気味に聞く。
「…なんか聞こえた?」
「いやぁ?」
セナがラピに問いかけ、それをまたラピが、今度はみんなに話しかけるように疑問を投げかけることで返答をする。
「ところでおもったんだが、この世界にこんな大きな森林があったなんて知らなんだ…こちら側は東南アジア領地だと思っていた…というか教えられたのだが?」
マシュがふと気づく。
「ああ、それね…こっち側は「中心部」でちょうど東南アジアと君たちの間に広がる、いわゆる「秘境」ってやつだね」
「魔術的な保護がなされているからの…」
菊の解説にゼウスが加えて言う。
「なるほど…そこにも政府側の目論見の一部が…」
しかしマシュが考え事をしているにもかかわらずキュラはただ前方を見続けている。
「…まあ、いいや…気のせいだったのかな…、あっ!」
皆に目もくれず耳もくれず(?)、キュラが目の前に広がる光景に対し、驚きをあらわにする。
「さあ、あのいかにもってビルが敵の基地だね」
「ああ、あのいかにもってビルが敵の基地だね」
菊とキュラが漫才をするように(定期:現代に漫才というジャンルの職業は需要がなくなっている)報告・連絡をする。
「…何か変じゃない?地形的な意味で…」
セナが何かに感づく。
「ああ、これ…ビルの下が空洞みたいになっているんだ。この下も地面じゃなくて空洞になってるよ。」
つまり、土でできたドームの天井中央部分に穴が開き、そこを通るようにビルが建っているのだ。おそらくその下も、地下に空洞が広がっている、ということがキュラの観察と透視でわかった(キュラはもともと視力がズバ抜けていて、目視だけでも人の数十倍の距離が見ることができる)。
「まあそう簡単にしっぽを掴ませてくれないとは思っていたが…十中八九上のビルはダミーだろうな」
「どうする?上と下で二手に分かれるか。」
「上にはアタシらだけでいいよ」
ムラクがずっぱりと両断する。本当にこいつだけは見ただけじゃ何も読めない。目が光っていない、否、鈍い光を放っている。
「…わかった、そうだよね。」
当のラピは一瞬納得いかないような顔をしていたが、すぐに受け入れた。
「えっ、でも…っ!」
セナが久しぶりに女の子らしく慌てて、ラピを止めようとする。が、
「よく考えてよ。地下の部屋があんなに広いんだから、あっちに何かがあるに決まってんじゃん。だからこっちは一人でいいと思うの。それに」
「…っ、……それに?」
「ムラク《この子》との信頼も大切だしねっ」
親指でムラクのことを指さし、そう話す。
「…わかった」
ラピに半ば無理やりな弁論をされ、納得するしかないと、セナは悟ったようだ。ラピは意外と図太いところがある。
「よし、じゃあまた私らに乗って」
菊がそう告げ、敵地への潜入作戦其の一が決行された。これからなにが起こっていくのか。緊張が溢れすぎて、震える手足にも気が付かなかった。
◇
ちょうど全員が建物内部へ入り込んだ頃。
ラピ組にて。
「…ねぇ、何で一人で来るなんて言ったのさ?…あぁ、一人でってのは、発言を一人でしたってことね」
「…そもそも、あんたもよくあの場であたしを信じたよね」
ラピがつけた説明に対し何も触らないあたり、ムラクはめんどくさがりなところがあるのだろうか。
「いやさ、菊って正直あたしらにも読めないんよね、何もかもさ。」
「…そうなの?仲間じゃないの?」
「いや仲間ではあるんだけど」
少し呼吸を落ち着け、覚悟を決めたような顔でムラクが再び口を開く。
「あんたは冷静そうだから話しておくけど、
あたしらはずっとつきあってるような仲じゃないの。少なくともあたしはあんまり事情を知らないけど、「この」8人にはもっと秘密があるとしか思えないのよ」
いうまでもなく、「この」キュラたちと菊たちを合わせた8人である。
「それを探すために上に来たの?」
「まあ、あいつの眼を避けられるしね、仕方なく」
ラピがクスッと笑い、
「ふぅん、それがあなたの結論?」
割と唐突なことを話されたが、余裕な顔をしているラピ。
「……ほんとあんたみたいなのニガテ」
「冗談でディスってくれるなんて、ムラクちゃんはフレンドリーなのねぇ」
「ほんとニガテ」
またクスッと笑う。
「それにしても、向こうはキュラとセナとマシュとグリム《・・・》でダイジョブなのかしら」
「ふふっ…まあ、退屈はしなさそうかな」
ラピが横目でムラクのことを見る。何か言おうと思ったが、今回は何となく、そのままにしておくことにした。とりあえず、顔を横に傾け、ムラクに見えるように微笑んでおいた。
◇
一方、キュラ組。
「むこう、二人で大丈夫かなあ…せめてこれが使えればなあ」
キュラがため息をつきそうになり、電波妨害によって使い物ではなくなった携帯通信機に目を落とす。
「むしろ俺は向こうが「キュラとセナとマシュでだいじょぶかしら」とか言ってると思うぞ」
少し苦笑してマシュが言う。
「何であんたが言うの…。」
「ホラホラ、ただでさえ私たちまとまりないんだから、早く下行くよ~」
全く警戒していない(少なくとも外見は)二人に、菊が小さく手を鳴らして注意する。
「ハァイ。でも、ぶっちゃけ敵の気配もないし大きな音でも起こさなきゃ見つかりやしな」
「ぶえくしゃーーーーい!(百五十デシベルくらいのクシャミbyグリム)」
突然の大音量(百五十デシベルつまり飛行機のエンジン音より十デシベル多い)に驚愕するとともに、全員が驚愕して声を漏らしそうになる。しかしセナは言わずにはいられない。
「バッカ…!」
「誰だ!」
すると、ちょうど見えていた2つの角から、計5名ほどの警備兵が現れた。マシュがセナの口を必死に抑えたが遅かった。
「…っ!退くわけにはいかない!気張っていくよ!」
菊の指示に、全員が視線のみで答える。それとともに、キュラたちと菊たちの関係に変化があった。
「みんな!私たちを使って!説明しながら戦うから!」
菊がそう言うと、竹たちは本来の竹の姿になり、ふわりとキュラたちの手元に飛んできた。というか、ホログラムもとい実体を消して。
「私の能力その一!障壁を作り出す能力!」
そうすると、キュラは本能的に竹を前方へ振りかざし、障壁を生成して相手を部屋の奥へ押し込んだ。
「さっ、壁が壊される前に行くよ!」
菊の指示に従って角を曲がって、全力で駆ける。後方を少し見て、ある程度距離が離れたことを確認して静止した。菊はさっきの場面を顧みながら、ふと考えた。
(というか、キュラは本当にすごいな…。
始めて私を使って、発動から距離感の把握、壁に敷き詰めるための面積指定…。
それを一瞬で、所見で考えたのか。)
「流石あの人の血を引く者…。」
少し悔しそうな、それでいて悲しそうな表情で菊が見てくる。
「…ん?」
「いやいや、何でもないの。」
「ふ―ん……」
さすがのキュラでも、菊が、竹たちが何か秘めたものがあることに気づいたようだ。それもそのはず、実際に菊はキュラのことをけったいなくらいにしょっちゅう見ていたし、その度に悲しそうな顔を見せていた。
「…まあ…。
…そう!グリムとゼウスは、どんな能力を持ってるの?おしえてくれない?」
セナがおもむろに話題をそらす。しかし、この話題に関しては竹達側も説明がややこしく渋っていたし、キュラたちもどこか話しにくい雰囲気を感じ取っていた。なので、急な話題転換でも異を唱えるものはいなかった。
「…まあ、よい。我は…一言でいうなら、「光」を司る、といったところかの」
「光?」
「例えば、光速で移動したりだとか、光量を調整したり、レーザーを発射したりだとかじゃな。」
「…おおぉー」
目を輝かせて、みんながゼウスを見つめる。 「すごい…選ばれたっぽい…!」
3人が口をそろえて感嘆を漏らす。
「ほっほ、若いのぉ」
満足げにゼウスがひげを撫でながら笑う。そういえば、やっと笑ったような気がする。意外と感情表現が控えめ(という言い方は失礼なのかも)なのかもしれない。
「じゃあじゃあ、グリムは?」
その流れで、セナが今度はグリムに話の手番を渡す。
「やっとわたしの番だね!わたしはわたしは、魔法を使うんだよ!炎とか氷とかつくったりできるんだよ!」
「………フーン(棒)」
一同がリアクションしにくそうにする。
「…ちょっ、何さぁ!そのリアクションは!ゼウスの時と大違いじゃない!?」
「いやすごいんだけどさぁ…すごいんだけどね、あこがれるけどね。いきなり普通過ぎるの来たなっていうか」
「ファンタジーライトノベルかっての」
セナの発言のあとに、やっと敵地に入ってリラックスしてきたマシュが付け加えてツッコむ。
「はぁー?なにそれ!」
…
そんな話をしていると、ほどなくして階段が出現した。いやまあ、それっぽく言っているだけで階段は「もとからあったに決まっている」が。
…ちゃんと下りの階段だ。我々はこちらのルートに行くことになっている。多少の躊躇はあったものの、すぐに階段を下りた。
「…ずいぶん長い階段だな」
マシュが率直な感想を述べる。しかし、このような場所で音を立てることは自殺行為に等しい。
「シッ。静かに」
竹たちが三角形を作って3人を囲み、護る体制に入った。
(ラピがいれば、こんな状況でも喋らずに意思疎通だけでコミュニケーションが取れるんだけどな…。)
すると、ガラス張りの向こうに実験施設のようなものが広がっている。よく見ると左わきに乗り物のようなものがあり、さっき外で見た、開けた洞窟に繋がる巨大な穴があった。
「…あれは?」
「愚問だね。いっただろう?君たちのような、強力で便利な子供たちを、正確にはその遺伝子を作るための施設さ。ここはその一区画の一部の一角にしか過ぎないけどね」
菊が淡々と語る。少し、ガラスの先を見つめる目が真っ直ぐすぎた気がしたが、もし自分がその立場に置かれたとしたら、何も言わずに見つめることしかできないだろうと思い、直ぐに視線をガラスの向こうへ戻した。
全員が無表情に、というか硬い表情になって黙り込んでしまった。
「…まあまあっ!とりあえず、あの飛行船のようなものが私たちの今回の目的だよ!ほらほらっ!こっち!」
おもむろにグリムが行き先を促し、自分が先頭へ出る。
するとセナはグリムの方へ駆けていって寄り添い、肩に頭を置き、
「あんた、いい人だね」
セナはクスッと微笑んだ。それを囁かれたグリムが顔を真っ赤にしていたような気がしたが、後ろからは見えないので、それはまた別のおはなし。
「さっ、行こっか!」
☆
(あっちじゃ、私がいれば黙ってコミュニケーションが取れるのに、なんて思ってるんだろうなぁ。でも、そこで私を頼ったらイミないし)
「考え事が多いね。どうかしたの?」
ムラクがふと気になって、聞いてみた。
「いやいや、まあ…。こんな年齢だと、考え事も多くなるってモンよ」
(そうか、4人は15歳くらい…。人間でいう、「思春期」というやつなのか)
「そうだね。せっかくの仲間なんだし、出来る限り相談してくれていいのよ。」
ラピは突然無表情になった。
「あなた、いい人ね」
「…そっ、そう?…じゃあ、それ相応の表情ってモンを見せてもらい…」
というところでムラクの発言は切られ、
「そう…困ってしまうくらいに…一途で…まっすぐで…」
そうつぶやくと、ラピはムラクを押し倒し、壁へ押し寄った。しかしラピの眼は全く笑っておらず、むしろ狂気が混ざりこんでいた。
「…なに、何か気に障ること言った?」
しかしムラクは突発的に、ここで押し負けてはダメだ、と察知した。なので、ごく自然で、いつも通りの口調で話し、抵抗もしなかった。するとラピは人差し指をムラクの心臓に置き、
「…ふふっ。なんてね。心臓ドキドキさせちゃって。心が震えてるわよっ」
ラピはムラクの体の拘束を解き、さっきとは全く違い、おちゃめな感じに言った。
「さっ、そろそろあたし達も上に行かなきゃね
…ほら、何してるの?」
ムラクは混乱していた。
パッと見は普通の少女と何ら変わらない。しかし、その胸の奥になにかを隠したような、深すぎる何かを感じ取った。「感情を操る」にふさわしい人物だと、畏怖を込めてそう思った。少なくとも、自分が何かを探ろうとしても何もできないと思った。なので、今回は何も起きなかったことにした。
「…はーい」
とりあえず、今後あの子をイジるのはよした方がいい(しないとは言ってない)のかもしれない、とまとめておくことにした。
☆
ところ変わって、キュラ組。
現在は、先ほどいたところから更に深い所へ来て、飛行船を奪おうと隅で潜伏しているところである。
「…さて、どうするか。」
とりあえず作戦を立てることが必要だろうと考え、ゼウスが振り向いて作戦会議を促した――が。
「戦いに慣れるためにわざわざこの施設に乗り込んだんでしょ?じゃあ正面突破以外にないんじゃないの」
「…ッ」
セナが飄々とした雰囲気で言う。
「そうだよ!作戦なんてどうでもいいの、はやくサクッと奪いに行こうよ!」
今回ばかりは、マシュのシスコンっぷりは発動されなかったようだ(なんて言ったらマシュに殴られそうだ)。しかしすこし動揺が見え、何か言いたそうにしてはいた。
「飛行船に乗れるのが3人しかいないから、1人は2人乗りのものを調達してね。」
3人の様子を確認してから、
「じゃあ…行くよ」
「おっけ」
セナがギリギリ聞こえる程度につぶやき、マシュは神妙な顔をして、キュラは深呼吸をして少しでも自分に余裕を持たせようとして、各々戦闘の準備を(主に心の準備を)していた。
「ところで」
セナがグリムに話しかける。
「あれって菊の口癖なの?」
「…ああ、『そんなことはどうでもいいの~』、ってやつ?」
「うん」
「まあね、なんか、元々はあこがれてる人か好きな人かなんかの口癖らしいよー」
「ふぅん?」
グリムが常に余裕を持っている(というのも物は言いようである)のは、強者ゆえか、キュラと同じ理由か。
斯くして、作戦が決行された。
◇
そして、先ほど少々厄介事のようなものがあった、ラピサイド。
こちらも目的の場所に到着しようとしていた。
「なあ、結局、あんたの目的って何なんだ?」
ムラクはこの空気を何とか打開したくて、いまさらながら、本来メインになるはずだった話題を振った。
「…あなたは、下の方でキュラたちみたいな子供をつくる実験が行われてること…知ってるでしょ?」
「は?…ああ…。それで?」
正直いきなり違う話題を振られて様で、ムラクはとても混乱していた。というか、下でやっていることを知っているのが何より驚きだ。
「私の目的はそれとは違うプロジェクトの真相を追うこと。あなただけに詳細を言うとするならば、USSの内部密告と彼らの派閥に関する情報。これまたUSSの、「正規のメンバー」からの内部密告ね」
USSというのは、旧世界でいうISSの宇宙バージョン。宇宙大戦終結以降、この世界の均衡を守り、条約を取り締まっている組織。
「おいおい、何でそんなことを知っているんだ?そもそも内部密告って?」
無理もないが、ムラクが身を乗り出して問いかける。
「ちょちょ…私だって詳しいことは知らないの!だからそれを見に来たの。情報があるって聞いてきた、この場所に」
「…君は何なんだい?どこまで知っているんだい?」
ムラクは思考が止まって、こんな質問しかできなかった。
「少しだけ特別なだけの、ただの地球の人間よ。ただ、すこし情報網の広すぎる旧友がいるだけで」
「…そっか」
とりあえず納得しておくことにした。そうするしかできなかったからだ。実際に、ムラクはこの時「ある重要なキーワードに気づくことができなかった」のだから。
「さて、もうすぐ着くんじゃないかしら?ムラクさん、あなたの能力もそろそろ教えて頂戴ね」
「敵は出るのかい?」
すぐに精神を修正させたのは、さすがというべきか、はたまた機械ゆえか。
「…少ない。もしかしたらひとりかも。でも、多分強い」
ムラクが、ラピが、そしてキュラたちが、再度気を引き締める。
まだこの物語は、太陽系という広すぎる世界で、物事が、少しずつ、ばらばらに始まっただけなのだ。
世界の現実は、常に不可思議と非現実で成り立っている。
第2話 完
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