第21話 タスクを洗い出せ
「さて、昨日に引き続き、みんなには作業をお願いするわね」
「うっす」
「よろしくお願いします、桜佳先生!」
翌日のお昼。飲んだ後にそのまま魔王様の部屋に泊まった隊長達と、昨日と同じようにテーブルを囲んだ。
昨日まで群れていた雲はどこかに遊びに行ったのか、太陽は自信満々に顔を見せてすっかり晴れている。
気候も穏やか、部屋と廊下の窓を開けると、抜ける風が体を程よく冷やして気持ち良い。
「隊長のみんなにはタスク、つまり攻勢のためにやるべき作業を洗い出してもらうわ」
「ん? オーカ、先に攻撃開始日を決めるんじゃないのか?」
「おっ、良い質問ね、魔王」
「そ、そうか? まあ、私もこの帝国の統治者だからな、ふへへ」
桜佳先生に褒められ、右手を後頭部に当てて分かりやすく照れる。
「確かに先に日付を決めてもいいんだけど、『そもそもどんな準備が必要か』が全く分からない状態だと現実味ないでしょ? この日にしよう、って決めた後で、いざタスクを洗い出してみたら全然間に合いません、みたいになったりね」
「ふうむ、確かに」
そうかそうか、だから先にやることを想定してから決めるのか。
「で、隊長のみんなには早速洗い出しを始めてもらいたいんだけど、それをもとに準備のスケジュールを組むから、タスクに抜け漏れが出ないようにしてほしいの。後で『これも追加です』ってなると、攻撃予定日をズラさなきゃいけなくなるかもしれないから」
その注意事項を聞いて、腕ならぬ羽を組んで大きく頷くファンユ。
「じゃあリバイズ、もし追加タスク見つけても、先生に怒られないように黙っておいた方が良さそうだな」
「それ桜佳の前で言うの!」
しかもそのボリュームで!
「まあアナタの心配も分かるけどね」
ワタシも前はよく注意されたわ、と笑う桜佳。
「思いついた順に書いてくんじゃなくて、大きな塊から分解して考えていくと抜け漏れの心配が減るわね。例えば小隊ごとに分けて考えたり、攻撃部隊なら先発部隊・後発部隊・遊撃部隊みたいに役割別に分けて考えたりね」
「調達部隊なら、造ってる武具や集める食料の種類別に分けてもいいな」
「そうね、それぞれ準備することも違うと思うし」
アルムと桜佳の会話を聞きながら、ファンユがポンと羽を打つ。
「じゃあ防御部隊は、まず飛べるヤツと飛べないヤツに分けよう。そうすると……おっ、ガーゴイルだけ飛べる」
その分類に何の意味があるんだよ。
「さて、今から時間取るから、ちょっと洗い出してみて。魔王とリバイズは、抜け漏れがないかアナタ達なりにチェックしてみて。ちょっとノート取ってくるわ」
そう言って自室に戻っていく先生。
「さてと、さっきの桜佳の分け方、参考になるな。先発と後発と遊撃か……」
すぐにペンを取るアングリフ。
「ほら、ファンユも一緒にやるぞ」
「ありがとうリバイズ。見てくれ、今度は羽の有無で小隊を分けてみたんだ。ゴーレムだけ羽がない」
「だからその分類は何なの! 仲間外れクイズなの!」
早くペン持ってもらっていいですかね!
***
「うん、うん、みんな書けてるわね。漏れもそんなになさそう」
日がオレンジに燃え始めた頃、3匹がほぼ同時に書き終わった。
「で、あとは3つを並べてみ・る・と……」
歌うように節を付けながら、桜佳が各隊長の紙を見比べられるように並べる。
「ああ、これとかそうね。ほら、『武具の破損状況の確認』、これは攻撃部隊でも調達部隊でも書いてある」
「ホントだ、重複してるのか」
「2つの部隊で協力してやるってことね」
アングリフとアルムがほぼ同時に「そうだな」と返事した。
「こういうのは主担当の部隊を決めておいた方がいいわね。基本的にどっちがメインで担当する、って始めから設定しないと、責任の所在が曖昧になるから」
「確かに、どっちも相手がやると思って放置したら最悪だからな」
こうして、重複してるタスクの主管部隊を決めて、タスク一覧が完成した。
「皆、よくやってくれた。今日の会議はこれで終わりだ」
魔王様が労うと、3匹は揃って「お疲れ様でした!」と魔王様に一礼する。
「桜佳先生、タスク一覧も出来たところで、今日も軽くお酒飲まない?」
「ごめんね、アングリフ。ちょっとワタシもプロジェクトの準備したいから、しばらくは酒は控えておこうかな」
その返答に、「そっか、それなら仕方ないな」と残念そうに肩を落とす。
「今日うちの小隊が、滅多に現れないケルピーって馬を狩ったんで、馬刺しを振舞おうと思ったんだけどね。また日を改めて」
「まあ本気出せば明日で終わらせられるから、2日後なら空けられるわよ」
「しばらく控える話はどこへ!」
仕事のペース急に上がりましたね!
「やったあ、また桜佳先生と飲めるぞお!」
「うっしゃ、楽しみだぜ!」
急に元気を取り戻す3匹。まあこれも、プロジェクトが円滑に回るために必要なタスクってことかな。
【今回のポイント】
■抜け漏れのないタスクの洗い出し
プロジェクトに必要なタスクを洗い出すときの重要なポイントは、本編でも出てきたように、抜け漏れがないようにすることです。
そのためには、時系列で見たり、作業ステップに分けて考えたり、役割別にチェックしたり、と何かしらのフレーム(枠組み)に沿って分解したうえで洗い出していくのがコツ。
人間は大きな塊をそのまま処理するのは苦手ですが、分解していくとどんどん詳細に考えることができるようになります。また、分解することで、万が一抜け漏れがあったとしても「このステップのタスクがまるまる抜けていた」というような大きなミスを防ぐことができます。
誰かが1人で全てのタスクを洗い出すというのは負荷も大きく、見落としも多くなりがちです。部門ごとに分担し、何人かでチェックして、可能な限り網羅的に整理しましょう。
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