第19話 リーダーは君だ

 3人での打合せは続く。太陽はすっかり顔を隠し、空の色はイフリートに火炎で焦がされたかのように黒くなりつつあった。


「次は何を決めればいいんだ、桜佳?」

「ううん、プロジェクトリーダーかな。進捗管理や問題解決を担当するの、要は推進役ね」

 その言葉に、魔王様の目がキラキラと輝く。上機嫌に何かのリズムを取っているのか、テーブルをコンコンッと叩いた。


「まあ、それはもちろん私に決まってるだ――」

「違います」


 桜佳、せめて最後まで言わせてあげて! 見てよこの「ぽかーん」と「どよーん」が入り混じる表情を!



「なんで……なんで私がリーダーじゃないんだ……」

 天板に付くかと思うほど机に顔を寄せてブツブツ呟く魔王様。その様子を見て彼女は「やれやれ」と言わんばかりに鼻で息を吐いた。


「あのね、アナタにはリーダーよりもっと重要な役目があるのよ」

「本当か! 分かった、なら譲ろう」

 立ち直り早っ! 桜佳もだんだん魔王様の操縦の仕方が分かってきたな……。



「で、まずリーダーだけど、ワタシはリバイズが良いと思う」

「えっ、俺! いやいやいやいや! リーダーなんて!」

 縦にした手を全力で左右に振ると、桜佳は首を左右に振った。


「これまでの改革の経緯や、帝国軍の課題を分かってる方が良いと思うの。それに、アナタなら魔王とも隊長達ともコンタクトが取りやすいから機動的に動けると思うわ」

「そうだな。リバイズなら良いリーダーになるだろう。頭も良いからな。戦闘ではちっとも戦力にならないし、鳥と人間の中間っぽい感じは気持ち悪いが」

「後半のくだり、いりましたかね」

 前も同じこと言われましたけど。



「リバイズ、やってくれるか。期待しているぞ」

「は、はい、有り難きお言葉です。不肖リバイズ、ぜひやらせて頂きます」


 ここまで言われて、やる気にならないわけがない。椅子を離れて、改めて魔王様に肩膝で跪く。

 頭上から、2人の拍手が聞こえてきた。



「で、魔王にはプロジェクトオーナーをやってほしいの。総責任者ってことね」

 桜佳の説明に、魔王様は複雑な表情を見せる。


「オーナーには意味があるのか、オーカ? 名前を置くだけなんじゃないか?」

「とんでもないわ!」

 叫ぶような大声に、魔王様はびくっと重心を後ろに傾ける。


「まずね、オーナーが最終的な意思決定者なのよ。例えば、リバイズとどこかの小隊長で揉めたときのこと想像してみて」

「うむ。リバイズが『飛べないコカトリスを鳥と呼ぶべきか』と発議して揉めた、と」

「それ完全に俺が悪いじゃないですか」

 揉めるというかむしろイジメですけど。


「でね、本来はリーダーはリバイズなんだけど、小隊長だってそれなりのポジションだから、対立構造になって収拾つかなくなることも有り得るじゃない? そういうときに魔王が出て行って、最終決定するの」

「なるほど、現場が混乱したときに収束させるのだな。それは大役だ!」

 張り切った口調で破顔する魔王様。こういうところが分かりやすくて面白い方だ。


「これは役職が高くないと出来ないから、アナタが適役だわ。プロジェクトオーナー、なってくれるかしら?」

「もちろんだ、私に任せておけ」

 よし、これでオーナーとリーダーが決まったな。


「あとは……そうね、コアメンバーかしら。今回は攻撃・防御・調達それぞれもモンスターも巻き込むことになるから、各部隊のまとめ役が必要ね」

「そこは各隊長でいいんじゃないかな? どうですかね、魔王様」

「ああ、私もそれで良いと思う」

 その答えにご満悦の桜佳。紙にサラサラと名前を書き始める。


「オッケー。じゃあオーナーが魔王、リーダーがリバイズね。で、コアメンバーがイフリートのアングリフ、コカトリスのファンユ、ドワーフのアルム。この5人がプロジェクトの中心メンバーってことね」


「ああ。で、オーカはどういう役なんだ?」

「ワタシはアドバイザーよ。もちろんサポートはするけど、このプロジェクトはアナタ達のものだからね」


 そうだよな、彼女はあくまでサポート役。このプロジェクトを「自分達のものだ」と思って臨まないと、良い結果にはならないだろう。



「よし、じゃあ今日はここまでにしましょう。リバイズ、明日隊長3匹を呼んでもらっていいかしら?」

「ああ、もちろんだ」


 いよいよプロジェクト開始に向けて動き出す。

 興奮した表情を見せる桜佳と同じくらい、俺も楽しみになってきた!





  

【今回のポイント】

■プロジェクトのオーナー、リーダー、コアメンバー

 プロジェクトを進めるうえで重要なのが、プロジェクトリーダーです。スケジュールの進捗管理や会議の進行、発生した課題の解決など、プロジェクトを回していくうえでの推進役を担います。


 また、本編のように、プロジェクトの規模が大きかったり複数部門にまたがったりする場合は、各部門のまとめ役を担うコアメンバーも決めることになります。



 これらの役割は、必ずしも主管部門のトップが務める必要はありません。例えば「人事制度見直しプロジェクト」のリーダーを人事部長でなく課長や係長クラスが担当しても良いということです。もちろん上長の承認やアドバイスは必要になりますが、若い優秀な部下にチャレンジさせる、という良い機会になるでしょう。



 そしてそれ以上に重要なのは、プロジェクトオーナーを決めることです。役職の高い人をオーナーとし、適宜意思決定することで、


 特に、参画メンバーが既存業務と兼務して参画する場合、所属部門から「プロジェクトに時間を使いすぎるな」といったことも有り得ますが、こうした問題を解決するためにも必要となります。

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