第15話 相談しやすいリーダーに

「珍しいわね、リバイズが小隊を偵察したいなんて」

「まあ、ちょっと色々あってな」


 桜佳を乗せて城から少し飛んだ後、食後の散歩がてら目的地まで歩く。

 朝は晴れていたのに今は肉厚な雲が幾つも出てきて、太陽を隠しながら悠然と漂っていた。


「分かった、魔王の愚痴大会をやるのね!」

「俺がそれに参加するの!」

 むしろ取り締まる側では!


「友達のガーゴイルから、コカトリスの小隊が最近うまくいってないらしい、って連絡来てさ。部下が小隊長に話しかけづらいらしい」

「コカトリス? 結構明るかったじゃない……と思ったけど、ファンユは防御部隊の隊長だったわね」

「そうそう、小隊長は別のコカトリスだよ。あ、あそこだ」


 指を差した先で、コカトリスが集まって道具の手入れをしている。退却時に敵を撹乱するための煙幕玉だな。


「ちょっと隠れて観察しよう」

 草むらに身を潜めて仕事の様子を見ていたが、小隊長がみんなと距離を取ってデデンと居座っている。


 一番大きくて目立つトサカをつけ、顔も強面。確かに俺が部下だったら話しかけづらいな……。


「あの……小隊長……」

 息苦しいような雰囲気の中、1匹の部下が恐る恐る近づいた。


「あ、どうした?」

「これ、玉が割れちゃってるので、その、煙幕出ないですね」

「……ああ、分かった。ドワーフに報告しておく」

 ううん、普段からこんな感じなのか。


「桜佳、これ小隊長がもう少し――」

 話しかけようとして横を見ると、彼女の姿はすでにない。


 探そうと思ってもう一度視線を戻すと、桜佳が小隊長の前に立っていた。


「これ、トサカ取ったら?」

 いきなり何言ってるんですかあああ!



「桜佳先生、どうしてここ――」

「アナタがちゃんとリーダー出来てないって話聞いたから、リバイズと一緒に様子見に来たのよ」


 直球。ど直球。仕方ないので、俺も草むらから出て合流した。


「いや、先生。俺も小隊長としてちゃんと命じられた仕事はしてるつもりだよ」

 慌てて羽根をパタパタと振る小隊長に、桜佳は「あのね」と鼻で息を吐く。


「小隊として求められた役割を果たしてても、部下が居心地悪かったら良いチームとはいえないでしょ。部下が話しかけづらいのは、アナタの雰囲気や振る舞いを直せばきっと良くなると思う」

「そ、そうなのか……?」

 半信半疑の表情を見せる彼。桜佳は「ええ」とニッコリ笑った。


「まずは見た目よね……顔は部下に比べると確かに怖いけど、そこは直せないから……やっぱりトサカ取ったら?」

「え、いや、あの、コカトリスにとって立派なトサカは雄々しさの象徴で……」

「大丈夫! なくても十分アナタは雄々しいから!」

 いや、そんなご無体な。



「あとは雰囲気ね。アナタ、部下とあんなに距離取って座ってどうするのよ」

「ううん……でも、やっぱり小隊長ってことで威厳は必要だから、あんまり部下と馴れ合うような感じになってもどうかなあ、と。なあ、リバイズ?」

「え、ああ、まあそうかもしれないな」


 急に振られた話に相槌を打つと、小隊長は「そうだよな、やっぱり魔族同士、分かるよな!」と嬉しそうに叫ぶ。


「まったく、鳥コンビは2匹揃ってダメね」

「ちょっと待て、こんなガーゴイルなんかと一緒にするな!」

「一瞬で裏切られた!」

 その変わり身の早さたるや。



「別に馴れ合えって言ってるわけじゃないの。ただもう少し、部下と心理的な距離を近づけた方が良いわ」

「心理的な距離……?」


「近寄りがたいくらい威厳があって、みんなをグイグイ引っ張っていくのもリーダーの1つの姿かもしれないわ。だけど、困ってることをすぐに相談できるくらい身近な存在の方が、部下としては助かる部分もあるのよ」


 彼女の言葉に、部下のコカトリス達が小さく、でもはっきりと頷く。そうか、引っ張っていくだけがリーダーじゃないんだな。


「アナタが部下の立場だったらどう? 今のアナタに話しかけやすい?」

「んん……そう言われると……」


「だから、もう少しみんなの近くに座って……あとは親しみやすいキャラにすると良いわね。モンスターのあるあるネタを用意したり……あ、ファンユの物真似したら?」

「隊長の真似なんて!」

 いや、そりゃちょっと見たいけどさ。


「あとはね、んっと……コカトリスだから語尾を『~リス』にしたらどう? 『お疲れリス』『お腹減ったリス』みたいな。ねえ、リバイズ?」

「もう半分遊んでるでしょ」

 顔がちょっとニヤけてますけど。



「あとはね、なんか自分のダメなところとかをみんなに話しちゃうとかね。そうすると『意外と普通なんだな』って親近感が湧くわ」

「え、や、ダメなところなんて急に言われても……」

 動揺したまま返事に詰まる小隊長。まあそりゃいきなり言われてもね。


「例えば『飛べないけどどうしても飛びたくて、結構最近まで練習をしてた』とかね」

「なんで知ってるのそれ!」

 バッと勢いよく振り返る小隊長。


「え、あ……ワタシ、冗談のつもりで言ったんだけど……」

「……へ? しまったああああ! 自分からカミングアウトしちまったあああ!」

 えええええええっ! 何その可愛いエピソード!


「小隊長、そうなんですか!」

「俺も昔練習しましたよ!」

「意外とロマンチストなんですね!」

 思いがけないエピソードに、楽しそうに群がってくる部下達。



「うんうん、やっぱり上司が近いチームの方がいいわね」

 ニコーッと微笑む桜佳。かくしてコカトリス小隊は、バータリ帝国で1、2位を争う仲良し小隊になったのだった。






【今回のポイント】

■リーダーのタイプと傾向

 そもそもマネジメントとリーダーシップの違いは何でしょう? 多様な表現ができると思いますが、端的に言えば、マネジメントとは「目標とする成果に対し、人やお金、情報などの資源を活用して達成すること」、リーダーシップとは「ビジョンに向かって、自ら働きかけ、周囲を動かすこと」と言えます。


 では、リーダーシップを発揮する際、どのように働きかけて同僚や部下を巻き込んでいけば良いのか。この点は、時代とともに変わっているようです。

 かつてはリーダーシップといえば「推進型」でした。「俺についてこい!」と自分が先頭に立って走り、背中を見せるタイプです。


 しかし今は「伴走型」も有効であると言われています。「横で応援しているから頑張れ!」と、部下と適度な距離を保ちつつも、存在を身近に感じるタイプです。



 マラソン選手の隣で併走する監督のように、部下からのアクションを待つだけではなく、「困ってるところある?」「あっちの件は順調?」と働きかける。「気にかけているよ」というのを言葉で明示することで、部下も相談しやすくなり、情報共有(第13話参照)もより活発になることでしょう。

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