第14話 賢い会議の進め方

「えっと、今日はリバイズさんと桜佳先生が、俺達ゴーレム小隊の定例会議を見学しに来てくれたぞ」


 小隊長に紹介され、桜佳と一緒にペコリと頭を下げる。


 高い日に照らされた帝国領土の西側。森のそばに張られた巨大な簡易テントの中、俺達の倍以上もある巨大なストーンゴーレムが10体以上固まって座っているのは、割と迫力のある光景。


「こんにちは。何回か顔見たことある人もいるかと思うけど、異世界から来た遠峰桜佳とおみねおうかです」

「桜佳さん知ってるぞ、有名人だからな」

「リバイズさん、俺この前、防壁に桜佳さんの似顔絵描いてみたんですよ」

「会議終わったらすぐに消せ」

 悪ガキかお前は。


「どんな感じで会議をやってるのか気になったので、見学に来させてもらいました。よろしくお願いします」


 彼女の挨拶に、皆が「どうも」と一礼する。その硬そうな体格から発せられたとは思えない、おっとりした声。



「では、今日の会議を始めよう。えっと、議題は……ああ、バータリ帝国本土で何かあった場合の一般モンスターの防護と避難誘導について、具体的な手引きの作成は進んでるか?」

 顎で促され、1体のゴーレムが答える。


「あ、はい、まあ概ね予定通りです」

「この件について質問あるか?」

「………………」


 無言。耳に入ってくるのは、風と鳥の囁きだけ。



「じゃあ次……いつも話してるのは、と……ああ、防壁の修繕はどうだ?」

「あ、はい、まあ概ね予定通りです」

「この件について質問あるか?」

「……………………」


 無言。あれ、さっき何か同じような会話と光景を目にしたような。

 何、デジャヴ?


 隣にいる桜佳に目を遣ると、「斬ろうかしら」くらいの目をしている。めちゃくちゃ怖い……。


 そしてその後も延々と繰り返される、それぞれの進捗状況確認と無言の質問タイム。



「で、あとは……俺達の新しい武具、はドワーフが準備してるんだよな。じゃあ他に何かあるか?」

「…………………………」


 予想通りの無言。すごい、会議に参加した経験がそんなにない俺ですら「意味のない会議ってこういうのか……」と分かる。



「それじゃあ今日の会議は終わ――」

「これのどこが会議だーっ!」

 お姉さまがキレたー!



「ちょっと待って、さっきから何? 報告して終わりじゃない。しかもみんな黙ってるし。これなら紙で状況報告してもらえば十分でしょ!」

 立ち上がって叫ぶ桜佳に、若干ビビって背筋を伸ばすゴーレム。


「まず小隊長! アナタね、コスト意識を持ってほしいの!」

「コストイシキ……? を持つ……? 新手の武具かなんかですか?」

「そうだった、コストから教えなきゃ……」

 へなへなと崩れる桜佳。


「あのね、みんなお金もらって働いてるわけでしょ? これだけ大勢のゴーレムが集まって、これだけの時間拘束して、幾ら分になると思う? みんなでこの時間、会議じゃなくて防壁修繕してたらどれだけ進んだ?」

「む……確かに……」


 大きく頷く小隊長。ストーンゴーレムならでは、ゴリゴリと石がれる音がした。


「ね? 会議って時間やお金をかけてやってるものなのよ。だからこそ、ちゃんと意味のあるものにしないと!」

「そうか、何となく小隊らしく会議やった方がいいと思ってたけど、そういうものじゃないんだな」

 言いながら頭を掻く。え、痒くなるの? 石なのに?


「だからね小隊長、まずはアジェンダを決めること」

「会議の議題か」

「なんでコスト知らないのにアジェンダは知ってるの!」

 ツッコむ桜佳に同意。ゴーレムの語彙ってよく分かりません。



「議題を提示してから会議をやって、最後に決定事項を再確認する。これが大きな流れね」

 ふむふむ、最初と最後が大事なんだな。


「議題については事前にみんなにも知らせておくと良いわ。そうしたら『あれも議題に追加してほしい』とか『あの件について聞いてみよう』みたいに事前に準備が出来るでしょ? 急に話振るから誰も質問しないのよ。みんな石みたいに黙っちゃって」

「桜佳、石だから! 石ですから!」

 とんでもないところにギャグ入れてくるな!



「で、アナタ達も気になったことは随時質問すること! 例えば進捗報告もね、現状は問題ないって言ってたけど、この先どうなるかの見通しについては話がなかったでしょ? 気になったことは何でも聞きなさいね」

「はーい」


 気のせいか、さっきより声に活力がある。ゴーレム達は元来のんびり屋だから、桜佳のはっきりした指摘やテキパキとした指示がカッコよく見えるのかもしれない。


「スゴイな、会議1つとっても、やり方のポイントがあるんだな」

 感心しきりの小隊長に、桜佳が表情を緩める。


「そうよ。組織は知識、知らなければ死ぬの。死ぬなんて大げさと思うかもしれないけど、この会議の積み重ねが防御部隊の仕事を作っていくんだから。良いやり方を知ってケーカクに負けないようにしていかないとね」

 そうだよな。知らないままで日々を過ごしたら、その差が勝敗を分けるかもしれない。



「よし、じゃあ改めて、今日の会議の中身について、質問や意見あるか?」


 小隊長が尋ねるが、長く根付いていたこれまでのやり方はそんなに簡単に変わらない。どのゴーレムも他の皆の顔色を窺って、発言できないでいる。


「じゃあ、発言したヤツは桜佳先生と一緒に防壁を修繕できるぞ」

「はいっ! はいっはいっ!」

「勝手に決めるな! でもってそんなに挙げるな!」

 桜佳先生、めちゃくちゃ人気ですね。


「リバイズ、何とかしてよ。このままじゃ全員と防壁デートする羽目になっちゃう」

 なんですか防壁デートって。防壁マニアのカップルみたいな響きだな。


「んっと……あ、みんな、桜佳はすっごく不器用だから、一緒に防壁修繕することになったら2倍手間かかるよ」

「あ、やっぱり質問取り消します」

「俺も」

「全員手おろしてる!」

 なんて分かりやすい手のひら返し。



「ふ、ふんっ。悪かったわね、不器用でっ」

 赤くなってそっぽを向く桜佳、その姿を見て「可愛い」と喜ぶ小隊のメンバー。

 今日の会議は、ゴーレムが幸福感に包まれて終わりましたとさ。





  

【今回のポイント】

■効率的・効果的な会議

 「ムダな会議が多い」という愚痴は、どこの職場でも聞かれるものです。働き方・仕事の仕方を変えていくうえでは、会議のやり方の見直しも必要になるでしょう。


 何より大事なのは、本編で桜佳も話している「コスト意識を持つこと」です。5人集まって2時間会議するとしたら、そこにかかる人件費は幾らになるでしょうか?


 具体的にお金がかかっているわけではないので見落としがちですが、参加者のコスト意識を高めることが、効率的に議事を進めて早く会議を終わらせることに繋がります。ベンチャー企業の中には、実際にかかる人件費の見込みを提示して会議に臨む会社もあるほどです。



 そして、会議で重要なのは「始め」と「終わり」です。始めにその会議でのアジェンダとゴール(何が決まれば良いのか)を提示し、終わりには決定事項やタスクを全員で確認する。


 特に最後の共有をしないと、「あれは正式決定じゃなかったよね?」など、参加者の見解が食い違ってしまうことがあるので、必ず実施しましょう。

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