第13話 こっちにも情報ください

 城の1階で連絡を受け、最上階まで階段を駆け上がる。そのまま廊下も走り抜け、勢いよく魔王様の部屋の扉を開けた。


「魔王様! ゴブリン小隊が土砂崩れに巻き込まれました!」

「なんだと!」

 椅子から跳ねるように立ち上がる魔王様。


「なんでも、部下へ配給する食料を採集していたところ、被害に遭ったようです」

「そうか、私が頼んでおいた肴の根菜は昨日採ったんだったな。とりあえずそこは安心だ」

「もっと心配すべきことが!」

 被害状況とかさあ! 



「ゴブリン達は無事なの?」

 俺の声を聞いた桜佳が、隣の部屋から出てくる。


「ああ、少し手足を痛めたヤツが何人かいたようだけど、大きな怪我はない。食料も無事だ」

「良かった。でも、一応様子見に行った方がいいわね」


 口調はいつも通りだけど、昼寝していたからか、茶色の髪が撥ねているのがお茶目。


「そうだな。ここからそんなに遠くないし」


 場所を伝えると、魔王様もマントをパンッと伸ばして気合を入れる。

「私も行こう。小隊長にも話を聞きたいからな」

「ですね、ちょっと状況を聞きましょう」

 こうして魔王様も一緒に、3人で北へと飛んだ。




***




「ああ、魔王様……すみません、俺達がしくじったばっかりにこんなところまで……」


 救助活動も終わった事故現場の横の平地で、その場にいたゴブリンが魔王様に片膝を立ててひざまずく。現場となった横には急斜面があって、ドロドロの土砂が斜面を汚していた。


「気にするな。部下の一大事には何があっても駆けつける。それがトップである私の役目だ」

 芝居がかった低い声で返事をする魔王様。

 ゴブリン、さっきこの方、根菜のことだけ気にしてたんですよ。



「大きな被害にならなくて良かったよ。ゴブリンが食料調達の要だからね」

「心配かけました、リバイズさん。とっさに逃げたんで、なんとか数人の怪我で済みました」


 醜いと言われる顔が泥で汚れ、さらにひどい顔になっている。手足を怪我した数名は、別の場所に運ばれて治療を受けているらしい。


「いやあ、でもホント、昨日くらい崩れてたらもっと危なかったです」

「へ? 昨日も土砂崩れあったの?」

 不幸は重なるもんだな。2日連続で遭遇するなんて。


「そうなんですよ。昨日もちょうどこの場所であったんです」

「昨日もここで!」

 なんで同じ道また通ってるんだよ!


「いやあ、危うく巻き込まれるところでしたね」

 別のゴブリンが安堵の溜息をつく。その会話に、小隊長が割って入った。


「ちょっと待て、昨日もここであったのか?」

「はい、実はそうなんです、小隊長」

「知らなかったの!」

 そりゃ同じ道通りますよね!


「小隊長、聞いてなかったの?」

 桜佳の質問に、小隊長が小刻みに頷く。


「ああ、知ってたらもちろん別の道通ったさ」

「で、なんでアナタ達は小隊長に伝えなかったの?」

 彼女が部下のゴブリン達に向き直ると、彼らはなんとなく目を逸らす。



「いや、あの……いつも何か言おうとすると、『余計なことは言わなくていいから運べ!』って怒鳴られるので……」

「ふうん、なるほど、ふうん……」

 そう言って、ニッコリと笑顔で小隊長に4歩詰め寄る。


「ふふっ、ねえ小隊長さん、なんで話聞いてあげないの?」

「あ、いや、その、先生、違うんです。ムダ話しないようにってことで――」

「ふふ、じゃあ到底ムダとは思えない今回の件も話してもらえなかったのはなんで?」

「それは……ねえ……はい……すみません……」

 桜佳さん、怖いですって。笑顔なのが余計怖いですって。


「いい? 情報は仕事のかなめよ。いつも言ってるでしょ? 組織は知識、知らなければ……」

「はい、覚えました。知らなければ、死ぬ……」


「そう、知るべきなのは知識だけじゃないの。今日みたいに、知ってれば何の問題もないような情報が、共有されてなかっただけで大変なことになるの。どんなことでも周りに共有して」

「オーカ、ちょっといいか」

 魔王様が自信満々に口を挟む。しっかり手を挙げているのがなんか愛らしい。


「みんな優秀だから、共有するかどうかは、部下が各自で判断してもいいんじゃないか?」

 その意見に、魔王様の肩をポンポンと叩く桜佳。


「あのね魔王、それが出来たら苦労しないのよ。経験豊富でアナタと価値観が近いモンスターならそれでもいいかもしれない。でもね、全員が全員同じ『重要度の尺度』とは限らないの。新入りモンスターが自分で『重要じゃないだろうな』って判断したら困るでしょ?」

「む、ううむ……そう言われると確かに……」


 腕組みをする魔王様。なるほど、だからどんな情報でも一旦共有することが大事なんだ。


「分かった? 部下が漏れなく報告する、小隊長はその情報に基づいて状況判断すること!」

「はい!」


 全員が大声で返事する。よしよし、事故は危なかったけど、結果的にまた1つ、小隊が改善された気がするぞ。


「じゃあ小隊長、早速報告なんですけど、今日採集する予定だったキノコ、間違ってますね。シロイダケじゃなくてクロイダケです」

「それ今になって言うの!」

 君達もそれくらい早めに言ってあげてもいいんじゃないでしょうか。


「クロイダケは西の方なんで、そもそもこの道通る必要もなかったんですよね」

「巻き込まれ損じゃん!」

 情報は命。桜佳の教訓が身に沁みた1日でした。





  

【今回のポイント】

■チーム内での情報共有

 チームの活動で「情報」は非常に重要な資源であるといえます。例えば営業でも、クライアントと事前打合せしたメンバーが、相手の「耐久性が不安なんだよなあ」というコメントを上司に共有すれば、提案書でのアピールポイントが変わるでしょう。


 ではどのように共有していくか。まずは、「如何に情報共有がチームの財産となるか、共有されないことがリスクになるか」をチームメンバーに理解してもらうのが第一段階です。ここが合意されていないと、「面倒だし、課長も忙しそうだからいいかな」となりかねません。


 そして第二段階の仕組み作りですが、「いつでも何でも話してくれ」というのはあまり得策ではありません。上司が席を外していて共有のタイミングを逃したり、緊急の仕事に追われて共有を失念したりする可能性があるからです。



 一番良いのは定例的な共有ミーティングを設定すること。週2~3回、朝の10分など、短時間でも良いので高頻度で設定しておけば遅滞なく共有できます。


 ミーティングでは、案件別や担当者別など、話をしやすいようにカテゴリーで分けて共有しましょう。例えば営業の訪問共有であれば「進捗」「気になる点」「小耳情報」など、業務に応じて報告内容を決めると部下も報告しやすくなります。

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