第12話 どうして君がやってるの?
バータリ帝国の西端。そこに向かって、領土中央の城から飛び立つ。背中には、一昨日研修の講師を終えたコンサルタントが乗っていた。
「わっ、やっぱりすごい! 浮いてる浮いてる!」
「楽しそうだな」
「当たり前じゃない。空を飛ぶなんて、ワタシ達の祖先からの夢よ」
人間には飛行能力がないので、こうして滑空しているだけでも相当喜んでもらえる。
晴天で、日も高い。気温も少し高めだけど、風をきっていれば汗は出なかった。
「みんながどんな風に働いてるのか、ちゃんと見ておかないとね」
「確かに。俺もよく知らないからな」
今日は彼女と一緒に小隊の偵察。防御部隊が西側で仕事をしているらしいので、抜き打ちで覗きに行ってみる、というわけ。
「おっ、桜佳、下すごいぞ。うちの帝国の中でも随一の果樹園なんだ」
「…………そう………………」
「なんだよ、反応薄いな」
「なんかはしゃいで揺れてたら気持ち悪くなってきた……」
「お前、頭良いフリしてホントはバカなんじゃないか……」
彼女の正体に首を傾げながら、なるべく揺れないように飛行してあげた。
***
「さて、と。ここの壁を直してるのね」
西端に着き、風で乱れた髪を手で直しながら歩く桜佳の後を追う。
防御部隊の全員がこの近辺で作業していて、コカトリス・ガーゴイル・ゴーレムがそれぞれ分担して防壁を修繕したり、退却路を整備したりしていた。
「壁、結構高いわね」
「ワイバーンが全部隠れるくらいの高さだからね」
俺の代わりに答えたのは、近くにいたガーゴイル。スコップで土を掘っている。
ううん、ちょっと前まで同じ隊だったはずなのに知らない顔だな……数多いからなあ、ガーゴイルの部隊も。
「それにしても、ガーゴイルってみんな似てる顔してるわね」
桜佳は、俺ともう1、2匹のガーゴイルを交互に見ながら聞いた。
「リバイズ、どうやって見分ければいいの?」
「ううん……くちばしが一番分かりやすいかも」
曲がり方とか1匹1匹特徴あるしな。
「くちばし…………ダメね、全然分からない。同じよ、同じ」
「一蹴された!」
くそう、今度利きガーゴイルやってもらうぞ。
「ところでさ、アナタ」
さっき話しかけてきたガーゴイルに話しかける桜佳。
「なんでアナタが土掘ってるの?」
「え? いや、この土を加工して壁の材料にするんで」
「それは分かってるわよ。なんでアナタがそれを担当してるの? ゴーレムの方が体大きいし力もあるんだから、ゴーレム達にやってもらえばいいのに」
「えっと……確かに……ううん……」
まあコイツに聞いても分かるわけないよな。指示受けてるだけだもんな。
「桜佳、ファンユ呼んで話聞いてみよう」
「それが良さそうね」
彼にファンユを呼んできてもらう。程なくして、ドタドタとやかましい音とともに、トカゲの足で怪鳥の防御隊長が走ってきた。
「おおう、どうしたリバイズ。そしてどうしました、桜佳先生! 今日もお綺麗ですね!」
この扱いの差はなんでしょうか。
「いや、ちょっと気になることがあってさ」
土を掘る担当の話をすると、彼は「ああ」と頷いた。
「今ね、ゴーレムが壁の上の方の修繕進めてるんで、こいつにやってもらってるんです。他のガーゴイルも何匹か別の場所で掘ってもらってますよ」
その答えに、桜佳は小さく溜息をつく。
「あのね、適性とか能力に合った仕事を割り振ってあげるのがリーダーの仕事なの。ゴーレムがやれば、土集めるのももっと早くできるでしょ? 例えばゴーレムのうちの半分は土掘りを担当してもらうとか、考えて仕事任せた方がいいわよ」
そうだよな。本人の向かないことやらせても成果出にくいし本人もやる気下がるかもしれないし、他に向いてるヤツがいるならそっちに任せた方が早いもんな。
「もちろん、『経験を積ませたい』みたいな理由なら適性とか関係なしに割り振ってもいいけどね」
「なるほど、桜佳先生の言うとおりですね……じゃあ、ゴーレムの作業がキリ良くなったタイミングでガーゴイルと交代します」
「うん、そうしてあげて」
「ゴーレムも大変みたいなんですよね。空飛べないから壁の上の方って作業しづらくて」
「だからなんでそんな仕事割りにしたのよ!」
桜佳、いいぞ、もっとやれやれ。
「本当に先生は賢くて綺麗で……今度デートしていただけませんか」
「ファンユ、お前な、デートに行くのは自分の仕事がきっちりできるようになってからだぞ」
「うるさいぞ、リバイズ。桜佳先生、どこでも連れて行ってあげますからね。領土一周だってひとっ飛びです」
「コカトリス飛べないじゃん!」
デートプランも能力と適性考えて!
【今回のポイント】
■人員配置・役割分担における適材適所
誰に何の仕事をさせるかを決めることも、リーダーの重要な役割です。
ポイントは、各部下の仕事の得手不得手や、やりたい仕事の希望を考慮して決定すること。これによりパフォーマンスが大きく伸びることがあります。
もちろん、実務上は毎回考慮して仕事を配分することは難しいかと思いますが、この点を意識するだけでも、自然と部下の適性や希望を観察・チェックするようになるので、将来の配置検討に役立てることが出来るでしょう。
なお、桜佳が本編で言及していますが、新卒や若手を育てる場合は若干事情が異なります。年次が浅いうちは、経験を積みながら本人や周りが適性を見極める期間でもあるので、色々な仕事を担当してもらい「何が向いているか」の相性を探っていきましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます