第10話 小隊の役割、何ですか?

 2日後、仕事も終わった夜。

 魔王様の部屋の隣室に、3匹の隊長が集められた。


 攻撃部隊隊長、イフリートのアングリフ。

 防御部隊隊長、コカトリスのファンユ。

 調達部隊隊長、ドワーフのアルム。

 歴戦の3匹が揃うと、やはり威圧感と威厳を感じる。



「そういうわけで、今回はチームでの働き方を学んでいくわよ。悪いわね、また集まってもらっちゃって」


 桜佳が話すと、3匹が一斉に「いやいやいや!」と手や首を振る。

 ファンユ、コカトリスの翼結構デカいんだから翼を振るな、風圧がすごい。


「桜佳先生の講義、役に立つからな。綺麗だし」

「そうそう、綺麗だから余計に役に立つのかもな」

「魔族にはない色気があるよな。一緒にいるとドキドキする。これが恋かな」

 ちょっと待て、最後のファンユのは講義関係なくなってるぞ。



「じゃあリバイズ、まずはそれぞれの小隊の役割を確認していくわよ」


 そう言って彼女は、3匹が座る机に紙を配った。



「では質問。アナタ達が管轄してる小隊それぞれの役割は何かしら?」

 9つの小隊のそれぞれの役割か……ん?


「ねえ、桜佳――」

「桜佳先生、質問なんだけど」

 俺と同じ疑問を持ったのであろう、アングリフが手を挙げる。その手から熱気が出ていて、隣のドワーフが暑そうに深く息を吐いた。


「前の研修で、それぞれの仕事を整理したと思うんだけど――」

 その質問を待ってましたとばかりに、彼女はニッと口を曲げた。


「ええ、この前は個人の仕事を整理したわよね。でも、今回は『小隊』の『役割』よ。それぞれの小隊が、どういうことで魔王の軍に貢献してるか、まずはそこを全体で確認したいの」


 隊長も俺も魔王様も、桜佳の言っていることの真意を掴めていない。それも全部分かっているかのように、彼女は続けた。


「本当は役割の定義の方が先なんだけど、前回は分かりやすいところで仕事の話からしたのよ。例えばね、調達部隊の普段の仕事は、武器を作ったり食料を確保したりすることだと思う。じゃあ役割って何、って考えると、もう少し大きな概念になるの。『攻撃部隊・防御部隊が全力かつスムーズに戦闘できるように必要なものを調達する』とかね」


 ドワーフのアルムが「おお、なんかカッコいいな」と声を漏らした。なるほど、役割を果たすために仕事をするってことか。


。だから、仕事の内容はこれから変わることがある。でも、役割は基本的には変わらない。だからまず、『この小隊はこういう面でバータリ帝国に貢献します』っていうものを固めて、それを小隊でも共有する。そうすると、みんなの視点が少し広くなるわ。仕事だけを見るんじゃなくて、役割って視点で考えられるようになるの」


「ふうむ、それぞれが何のために帝国軍にいるのかをしっかり考えるってことか」

 魔王様が腕を組んで頷く。確かに、そんなこと考えたこともなかったな。



「1つずつやっていきましょうか。まずは攻撃のワイバーン小隊から。はい、アングリフ、ワイバーン隊の役割は?」

「ううん、あいつらなりの役割ってことだよな……」


「そうそう。別に役割が一緒なら、魔族で小隊を分けないで混合班にしても良いかもしれないからね」

「むう…………どの小隊も攻撃はするんだけど…………」

 頭を抱えるアングリフ。ワイバーンならではの、ってところでかなり悩んでいる。


「難しい……頭から煙出そうだ……イフリートだけに……」

「割と余裕あるな」

 なぜいちいちギャグを挟みたいのか。


「特徴は……大きさだから……そうか! ワイバーンと同じくらいの大きさの人間がいたときに、あいつらが相手をするんだ!」

「そんなサイズの人はいないわよ!」

 今までケーカクの何を見てたんだアンタ。


「仕方ないわね。ほら、魔王、教えてあげてよ」

 桜佳に促され、魔王は「え、私が?」と狼狽する。


「ワイバーンの特徴を考えたら分かるでしょ?」

「そうだな……アイツらは飛べるから……そうか、翼を持った人間がいたら相手を――」

「だから何でいない人間を想定するの!」

 魔王様、翼を持った人間見たことあります?



「翼を持ってるってのが大きな特徴よね、そこは間違ってない。だから、例えばだけどワイバーンの役割は『人間が反撃しづらい空から攻撃する』とかね」

「そうか、確かにそれはワイバーンにしか出来ないな!」

 思わず大きな声が出る。こうやって役割を確認していくと、それぞれが帝国軍でどういう位置づけなのか、少しずつ見えてくるな。


「まあ、ワイバーンはこの前ケーカクのみんなに反撃食らって惨敗で帰ってきたけどな」

 アングリフが苦笑いすると、桜佳もつられて笑った。


「まあ役割をしっかり果たせるかどうかは別の話だからね。じゃあ、ファンユはどう? コカトリス小隊の役割は何かしら?」

「そうだなあ……『この国を守る』ってことだな」

 いまいちピンと来ない答えに、俺は思わず「いやいや」と割って入った。

「具体的じゃないな。今習っただろ、ゴーレムやガーゴイルと違って、コカトリスだからこそやるべきことだよ」


「ううん……それなら『守りたい この国を』かな」

「変わってないでしょ! 何なのその標語!」


 鳥同士で掛け合いをする羽目に。

 桜佳は「楽しそうね、アンタ達」と呆れた目で見ていた。やめてくれ、こんなトリ頭と一緒にしないでくれ。



「調達部隊は大丈夫かな? 例えばドワーフの役割とか。まあ調達は分担されてるから分かりやすいか」

「おいおい、リバイズ。俺をあんまり見くびってもらっちゃあ困るな。ドワーフの役割といったら、『飲酒をしつつ他の魔族が必要な武具を作る』に決まってるだろう」

「飲酒は要らないんだよ!」

 そもそもなんで酒の話が先に来てるんだよ!


「よし、そんな感じで各小隊の役割書いてみるわよ。分からない部分があれば、ワタシや魔王にも相談してね」

「はーい!」


 全員一斉に紙に向かう。羽でペンを包むように持っているファンユ。ワイバーンといい、みんな器用だな……。


 さて、今日の研修も長くかかりそうだ。食事調理担当のゴブリンに、夜食でも頼んでおくかな。





  

【今回のポイント】

■チームの役割と業務

 チームとは、それぞれが役割を持った数人の集まりと言えます。会社は、そのチームが更に幾つか集まったもの。とすれば、そのチーム1つ1つにも、当然役割はあるはずです。幾つもある部や課は、それぞれ異なる役割を持っているのです。


 これは会社だけに限りません。例えば文化祭実行委員のような組織も、企画部門・装飾部門・宣伝部門など、それぞれの役割によって分かれていますね。



 チームがきちんと機能するためには、何よりもまず、「そのチームの役割は何か」「何によって組織全体に貢献しているのか」を明確にする必要があります。


 ここでポイントとなるのは「役割=業務」ではないということ。業務はあくまで役割を果たすための手段に過ぎないということです。人事部門を例に取ると、「適材適所によって社員のパフォーマンスと会社の業績を最大化する」ことが役割であり、その実現のために採用や異動、評価を行っているということになります。



 自分達の貢献内容を整理することで、チームへの理解が深まるだけでなく、「自分は○○のために頑張っている」と仕事への責任感を持つことにも繋がるでしょう。

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