奴と俺

 男はヘトヘトに疲れて帰宅した。

 それほど広いとは言えない一室。必要な用事を全て済ませ、やっと一息つける。

 同居人が口を開く。

「よう、お疲れ」

「ん、ああ。腹は減っていないか?」

「なあに、さっきやっつけた所さ。あんたは?」

「ペコペコだな。では、失礼して」

「ああ、疲れた時には飯と睡眠が一番の薬さ。構わずやってくれ」


 食後。男は食器類を流しで洗い、片付けると、居間でごろりと横になった。寝室でもあるが、居間でもある。そういう場所だ。

「ふぃ~、ごっそさん」

「すまねえな、あいつが俺を捨てて行ったばかりに」

「俺にも半分責任はあるさ……その話は、よそうや」

「すまん」

「ところで、今考えている話で、ひとつ悩みというか、疑問点があってな」

「俺で良ければ、聞かせてもらおう」

「うん。所謂世間でいう所のロリババアキャラというのが、上手く描けず、悩んでいる」

「ほう、ロリババアね……」

 同居人の声が興味の色を帯びる。

「そう。ある理由から外見年齢より人生経験や精神年齢がはるかに上、最早老齢の域にいる事が多い女の子キャラだ。どんな作品にも一人はいて、そのくせ自分のその状態をそう呼ぶと怒り出す。そんなキャラクターだ」

「ふむ……今はどんな進行状況なんだ?」

「外見上は出来上がっているんだが、さて、どう動かしたものだが見当もつかん。俺の好みから完全に外れているというのも大きな理由だが、存在意義がよく分からん」

「外見と経験の豊富さがアンバランスなキャラクターで、年寄り臭い口調のキャラクターだろう? そうだな、普通のロリキャラに一部共通させてみてはどうだ?」

「というと?」

「『自分が可愛いという事に気付いておらず、本能で媚びて来る』

という風にするのさ。ロリババアも、年を食っているにもかかわらず、その姿、という場合もある。いるだろう、時折、

『この姿は役得だ』

と言って、主人公の男だか女に甘えるロリババアが」

「なるほど……外見上は媚びても全く問題はないものな。糸口が見えて来た様な気がする。ありがとう」

「なぁに、ほんの礼さ……む、こりゃいかん」

「どうした」

「あちゃ~……お前だからはっきり言わせてもらうが、すまん、おもらしだ」

「びっくりした。それならすぐに替えよう。

 しかし、お前はどうして普通に口が利けるんだろうな。しかも渋い男性の声と来た。考え方も大人だし、時折脳にも話しかけて来るし……普通の子供の様に動けないのは分かるが、時々不思議でならないよ」

「俺にも分からんが、なぁに、こんな赤ん坊の謎くらい、今か未来の科学が、いつか解き明かしてくれるだろうさ」


 ベビーベッドの主である、おしゃぶりをくわえたちんちくりんの赤ちゃんは、それをふりふりさせながら身じろぎし、そう答えるのだった。


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