品名
私が心の底から気に入っていた一着の長袖のトレーナーが、引越しの際のどこかでの手違いか、もしくは私の梱包忘れだったのか、なくなってしまった。
その品物そのもののデザインがとても気に入った、無地の長袖だった。ネットで調べてみたが、今は取り扱いされておらず、季節ものという事で、購入した店にももうない。
そもそも購入した店自体が業界での争いに破れたのか、パッとしないものばかり置く様になっていた。
深い悲しみと憂鬱さを抱いたまま、何年もが過ぎ去り、 そんなある日、何となくネットを眺めていたその時、なかなかに素敵なデザインのトレーナー、というより長袖のTシャツとでも呼ぶべき品を見つけた。
裾が少し長い様に思われる。しかし、昨今は男性ものでもロック系のデザインなら珍しくない。
この女性ものだが、トレーナーや上着程度なら、デザインが気に入れば、私はあまり気にしない性質だった。例えば妙齢のご婦人用でも、言われなければ分からないデザインも多い。それらのいい点は長持ちする事。実用性も重視する私には持って来いであった。
シルエットとしてはゆったりした感じだが、トレーナーに類するのなら、別に問題ない。
『ゆったりセーター系の服なのだ』
と思って着ればいいだろう。ポンチョの様だが袖がある。そんな感じで着こなせば問題はない。丁度そういえばポンチョ風の上着も欲しかったし、目星を点けていた品が売り切れて、それでうなだれていたりもしたのを、綺麗に忘れていたのを思い出した。
問題のなさに、我ながら驚くレベル。生活費を少し調整すればどうにかなる。
「買おうかな……」
ブラウザのバーをスライドさせ、商品を注文する項目で、商品名を目にした。
『ワンピース』
私はやりきれなさと名残惜しさを押し殺し、そのページを、そっと閉じた。
『部屋着にすればいいんじゃないのか?』
という内なる問いかけにも、背を向けながら―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます