団欒

 地方都市である僕らの町の外れに原子力発電所が立つ事になり、そして、ほんの2週間しか過ぎていないのに事故が起きたらしい。

『らしい』

というのは、僕が家を出て別の県で自活していたのでそれを知るのが遅れたのと、企業やら国やらによって事実が隠蔽され、目ざとい地方のマスコミによって発覚したのが、事故が起きてからひと月も経ってからだった為だ。


 建設を許可する書類にサインをしてしまった僕の父、母、そして、小さかった妹は、事実を知って怒り狂い、暴徒と化した人々に、

『お前らが責任持って何とかしろ』

と発電所へ連れて行かれ、監禁されたそうだ。

 警察やら自衛隊やらが彼らを鎮圧し……被爆した患者を大量に出してしまった町は封鎖された。


『真実を知る権利』と称して、何処までも調べ上げるマスコミによって、僕も住む所を追われ、今はオンボロのアパートに隠れる様にして暮らしている。


……ただ。


『家族』が僕の家を見つけ、移り住む様になってしまった。

 恐らく、死んだ時のままの姿で。


 更に、僕だけがそこにいないかの様に彼らは振る舞うのだ。


 にこやかに食事時の語らいをする、やせ細って口の端から血を流している父。

 髪の抜け落ちた頭を、楽しげに鼻歌を歌いながらリズムを取る様に振りつつ、洗濯物をベランダで干す母。

 時折僕が本を読んでいると後ろから覗き込んで来るのは妹だ。

 如何なる苦痛を味わったのか、目をぎょろりと見開き、血の付いた手で顔を滅茶苦茶に拭いたと思われる汚れ方。


 この三人に、かつての家族の面影はもう……微塵も残ってはいない。



 アパートの周囲ではすでに異常に気付いているが、気味悪がって誰も近寄ろうとしない。

 マスコミに嗅ぎ付けられたら次は何処へ行けばいいのだろう?


 いや、その前に、僕の正気は……何時まで持つのだろうか……?


……なあ、あんた達。

 頼むから、自分達が死んでいる事に、もう気付いてくれ……!

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