第6話『仮にも男な俺の居る前で隠そうともしない』
俺への『ご奉仕』を終え、チシロは終末論めいた事を言い残して去って行った。
そんなチシロと入れ替わりで突然現れるメツェンさん。
赤くなれば良いのか青ざめれば良いのか、これはどっちなんだ。
下半身丸出しの俺に……彼女はなんと抱き付いてきた。
「シツちゃんこんな所に居たの!? 心配したのよ!」
「すみませんすみません!」
「さっきの地震怖くなかった!?」
「怖かったです!」
脊髄反射で返事すると、メツェンさんはより一層強く抱き締めてきた。
どこか良い香りが漂う彼女の豊満な肉体に、露出した息子がグニグニと押し潰される。
「もう大丈夫よ。
私がついてるから。
ね?」
「あ……」
「どうしたの?」
また勃っちゃった。
完全に吸い尽くされたものとばかり思ってたのに。
これが恋か。
「メツェンさん、今俺……汗。
汗かいたりしてて汚いんですよ。
だからその、その……」
「汗? 地震が怖くて冷や汗かいちゃったの?」
「冷や汗……まあ、そうなんです。
だから汗が付いちゃうから、離れた方が……」
汗かいたりしてる事を強調。
するとメツェンさんは俺を解放する。
しかしすぐに手を取り「じゃあ2人でお風呂に入って汗を流しましょう!」と言い放った。
『2人で』だ。
「え?」
「案内するわ。
ついて来て」
「ちょっ……」
意見する余地を与えず、メツェンさんは俺を部屋の外へと引っ張った。
今ショーツが足首までずれてて……衣装が下半身に触れて汚れちゃうって。
でもメツェンさんには逆らえない……っ。
「どうしたの?」
「え!? あっ、イヤなんでも! さあ行きましょう!」
俺は妥協案として膝上辺りまでショーツを上げた。
これならスカートに隠れて外からは見えないはずだ。
少々歩きづらくなるけども、ノーパンアピールしながらうろつくのは勘弁願いたいんで。
衣装は……もう後で洗うしかないな。
「はあ。
メツェンさん、ちょっと良いですか?」
「なあに?」
「チシロって言う女の子の事なんですけど……」
風呂場へと引きずられて地下道を歩く途中、俺はチシロについて尋ねた。
チシロはメツェンさんの名をを知っていたが逆もまたしかり。
なんでもチシロは細ボインのあの女王に仕えている使用人なんだそうだ。
その割には身なりが貧相だし、随分と大胆な行動っぷりだっだけどね。
「チシロちゃんと何かあったの?」
「何も! 何もないです! 少し話しただけでして!」
「シツちゃん?」
「ホントにホントです!」
俺は必死でごまかした。
もしかしたら必死過ぎて逆に疑われるかも知れない。
他の女の子に『ご奉仕』されまくったなんて知られたら絶対嫌われちゃうよな。
いくら一服盛られたとは言え事実は事実だし。
「彼女、EEがどうとか言ってたんですけど」
「チシロちゃん、まだそんな事を……」
「へ?」
メツェンさんは表情に影を落としつつ説明してくれた。
チシロも言っていたようにEEは終末論を唱える団体、宗教。
チシロは以前からその教えに入れ込んでいるらしい。
「ちなみに私は
略してCCよ」
「AA、EEの次はCCですか。
BBやDDもあったりするんですかね」
冗談半分で言った所、メツェンさんは立ち止まって俺へと振り返る。
ずっと握っている俺の右手を両手で包み、パアッと笑顔になった。
「凄い! よく分かったわねシツちゃん!」
「えっと、当てずっぽうだったんですけど」
「シツちゃんがAA、スカルベルちゃんがBB。
私はCCでゾデがDD。
そして……チシロちゃんがEEね、一応。
綺麗に5種類揃ってるわ!」
「いっぺんに言われても覚えられないです……」
「それもそうね。
お風呂でゆっくりお話ししてあげる」
メツェンさんがまた歩き始める。
ゾデってのはあの銀ピカフルメイルの中の人の事だよな。
なんでゾデだけ呼び捨てなんだろう。
既に女装男子だと知れている俺や、
メツェンさんより年上で身分も高い女王でさえちゃん付けされてるくらいなのに。
それに、メツェンさんが所属してるらしいCCは勿論BBやDDってのも気になる。
色々考えていると、俺の先を進むメツェンさんが歩みを止めた。
「着いたわ。
ここがイサファガ自慢の天然露天風呂よ」
「……のれん?」
「さっ、早く入りましょ」
二箇所の切れ目と言い湯船と湯気を表す温泉マークと言い、
どっからどう見てもジャパニーズノレンとしか思えない布をくぐる。
ちなみに先頭のメツェンさんは手で避けたりせず顔面で受け止めていた。
内装も木材で作られているし、急に日本へ帰って来た気分だ。
「またのれんがある」
「向かって右が男湯で左が女湯よ」
「色からしてそうでしょうね。
じゃあ真ん中は?」
紫色ののれんがかかったその真ん中へ、メツェンさんは俺を引っ張って行く。
「メツェンさん?」
「真ん中は混浴専用」
「混浴!?」
そんなもんがあるのか。
そういや『2人で』って言ってたな。
って、マジですか!?
「いやいや、ちよっと!」
「なあにシツちゃん。
私と入るのは嫌?」
「嫌じゃないです! でも俺達知り合ったばっかだし……」
メツェンさんが俺の頭を撫でて微笑んだ。
ウィッグ越しなのに凄くドキドキする。
「恥ずかしがらなくても良いのよ。
ここイサファガではみんなが家族なんだから。
シツちゃんだってお母さんやお姉ちゃんとお風呂に入るでしょ?」
「一人っ子……です」
「お母さんとは?」
「……10歳くらいまで……はい」
言わせんな恥ずかしい。
「なら私とも入りましょ? 私の事はお姉ちゃんだと思ってちょうだい」
「ええ……」
「脱ぐの手伝ってあげる」
そう言ってメツェンさんは俺に手を触れようとした。
手はまだしもボディタッチは相変わらず苦手で、つい距離を取ってしまう。
「あら」
「自分で脱げます!」
「そう? 良い子なのね」
「あんまり子供扱いしないでくれませんか……」
小声でつぶやきながらメツェンさんに背中を向ける。
混浴ののれんをくぐった先のここは脱衣所。
隅っこに、濃い茶色の植物を編んで作った脱衣かごがやや乱雑に積み重ねてある。
俺は膝下まである白のニーソックスを下ろしながら脱衣かごを1つ取った。
「じゃあ私、先に体流してるから」
「脱ぐの早いですね……おっと」
俺は振り向きそうになった所で一時停止した。
今メツェンさんは半裸ないし全裸、配慮しなきゃ。
まあ、なら最初から混浴しないのが正解なんだろうけど。
それに今から混浴するんだしちょっとくらい見えても気にしないだろう。
だからって積極的に覗きはしないが。
シューズごと白いニーソを脱ぎ、同じく白の手袋を外す。
ウィッグを取るのが一番手間だ。
頭に被ったネットとウィッグとを1つに固定しているヘアピン、
まずはこれを全て外さないといけない。
「……よし」
脱衣かごにウィッグその他を入れ、ドレスをまるっと脱ぐ。
最後に半脱ぎだったショーツを全脱ぎすれば素っ裸だ。
「シツちゃん、まだぁー? やっぱり手伝うー?」
「もう脱げました!」
扉越しのやり取り。
この脱衣所まではのれんだけだっけど、
ここと浴場との間には流石に扉が設けられている。
俺は扉脇に積まれた薄茶色のタオルを一枚取り、体に巻いてから扉を開けた。
引き戸だった。
「おお……」
露天風呂と言うだけあって、湯気のかかった青空が見える。
周囲には木々が植えられ天然の壁と化していた。
床は濃い灰色の岩で覆われ、扉付近から転々と丸い模様が続く。
その模様を目で追うと、ざっと10人以上は入れそうな広い湯船が。
そしてそのすぐそばにはタオル一枚に身を包んだメツェンさん。
ムチムチさゆえに、俺と同じタオルであっても胸や太ももが隠れきれていない。
俺は自分の鼻の下を触り、興奮のあまり鼻血が出ていないか確認した。
「シツちゃん、こっちこっち」
「はい……」
「どう?これが、自然しかないイサファガが世界に誇る露天風呂なのよ」
「良い、ですね……」
ペタペタと裸足で岩を踏んで歩き、半裸のメツェンさんが待つ湯船へ近付く。
目のやり場を気にしつつ彼女の隣に座ると、両肩を掴まれグイッと体を動かされた。
「何ですか!?」
「背中を流してあげるわ」
「……お願い、します」
もう、好きにしちゃってください。
俺はメツェンさんの虜ですから。
惚れたら負けとはよく言ったもんだ。
「シツちゃん体細ーい。
ちゃんと食べないと倒れちゃうわよ?」
「痩せないとあれが着れないんですよ」
「そうなの?」
「はい」
そもそもあれは大人用じゃないからね。
体重はいくらでも落とせるけど身長は下げらないから、
チビに生まれてよかったと心からそう思う。
昔はしょっちゅうバカにされたけど。
「シツちゃん努力家なのね。
私なんか考えたこともないもの。
痩せようだなんて」
「俺は、今のメツェンさんが十分素敵だと思いますよ」
「うふふ、ありがと」
今のは失礼にあたるかと心配したが、メツェンさんは笑ってくれた。
直後、俺の背中にお湯が注がれる。
ぬる過ぎず熱過ぎずの絶妙な温度が肌に心地よい。
「地毛じゃなかったのね、あれ」
「ええ、まあ」
俺は本来黒髪、そしてウィッグをつけやすいよう短髪にしている。
勿論引きこもりの俺は美容室に行ったりしない。
つまりは母さんカット0円だ。
「そうそう、ここに来る途中に話した続きだけどね。
この世界には5つの団体……派閥と言ってもいいかな。
5つの派閥があって、それぞれがそれぞれの考え方を持ってるの」
「俺みたいなよそ者がAA……でしたよね」
「よそ者だなんて。
良い? シツちゃん達AAはラスティアンを倒せる救世主なのよ?
自分を低く見たりしないで、もっと胸を張ってちょうだい」
「はい、すみませんでした……」
可愛い怒り顔で覗き込んできたメツェンさん。
タオル越しとはいえおっぱいが俺の右肩に当たっており、
俺はただ平謝りするしかなかった。
「シツちゃん自身がそうだからAAの説明は要らないかしら。
あっ、そういえばシツちゃんのAAリングがまだだったわね」
「AAリング?」
「ラスティアンをどれだけ倒したかが記録されるブレスレットの事よ。
それ自体がAAである事の証明にもなるの。
スカルベルちゃんが付けてくれるから、後で会いに行きましょ。
あれは女王の仕事なのよね」
「はい」
ラスティアン撃破数が記録されるブレスレットか。
すでに倒したイセエビやシオマネキの分はどうなるんだろう。
「じゃあ次は……そのスカルベルちゃんの所属しているBB。
これは
「
英語なんですね」
俺が素でそう答えた途端、背中に注がれているお湯の流れが止まった。
「エイゴ? エイゴって何?」
「……何でもないです。
続けてください」
どう考えても英語を使ってるのに『英語』そのものが通じないこのもどかしさ。
神的な存在がそれっぽく通訳してくれてるだけなのかもね。
背中へのかけ湯と共に会話は再開される。
「AAが遺伝するのは知ってる?」
「女王から聞いてます」
「BBの人達はそこに目をつけているの。
兎にも角にもAAの人達に子供を作ってもらおうとしてるのよ。
AAをさらって無理矢理……なんて事もあったわね。
やり方が乱暴な人も居るけど、それも世界平和への1つの答えだとは思うわ」
「なるほど。
さらって無理矢理ってのは、いくら平和のためでもおっかないですね。
女王はどうなんでしょう」
「スカルベルちゃんは……どちらかというと過激派ね」
「でしょうね……」
「シツちゃん、頭洗うわよ?」
「それくらい自分で「それーっ」
問答無用で頭からお湯をかけられ、ギュッと目をつぶる。
メツェンさんは俺で遊んでいるのか……?
「次は私! 私の所属してるCC。
ラスティアンにいじめられて数を減らしてる動植物の保護が目的よ」
「そういうの向いてそうですよね、メツェンさん」
「よく言われるし自分でもそう思うわ。
ラスティアンは許せないけれど、私に戦う力は無いもの。
シツちゃん、私の分も頑張って活躍してね。
私もお手伝いするから!」
メツェンさんは急に熱のこもる声を発した。
一方の俺は「はい」とだけ返す。
こんな調子でそのうち嫌われたりしないだろうか。
そんな事を気にしていたら、頭への2杯目のお湯が盛大にぶっかけられた。
今度は警告すら無し。
「えっと、この次は……きゃあ!」
「えっ!?」
髪から垂れるお湯で目が開けづらく視界が悪い。
ドタドタ慌ただしくと走る音だけが聞こえる。
「メツェンさん?」
「ラスティアンよ!」
「どこですか?」
顔を手でぬぐって立ち上がり、まずは声がした方を確認。
そこには……すっぽんぽんのメツェンさんが立っていた。
非常事態とはいえ仮にも男な俺の居る前で隠そうともしていない。
俺はそれ以外の全てを忘れ去り、
半裸の女神を掘った有名な彫刻ミロのヴィーナス、
その異世界版と呼んでも何ら差し支えない彼女の豊満な裸体に釘付けとなっていた。
「シツちゃん、後ろよ!」
いやぁ、そこも緑ですか。
「シツちゃん、シツちゃん!」
「……はっ!?」
「のぼせちゃったの!? お願い、ラスティアンを退治して!」
メツェンさんの呼びかけでようやく我に帰る。
股間を気にしつつ振り向く。
「……あれですか?」
「そうよ! 小さいけどラスティアンだわ!」
天然の仕切りである木々の間から赤色のカニが姿を覗かせている。
『小さいけど』とメツェンさんは言った。
確かに巨大イセエビやより巨大なシオマネキと比べてアレははるかに小さい。
全高だけ見ても俺の膝にすら届かないだろう。
だが俺の知っている甲殻類と比較すれば大きく、ペットの小型犬程度はある。
「こっちに近付いて来るわよ!」
「分かってます」
やや横に潰れた印象を受ける平たい体格。
シオマネキほどではないがハサミは大きめ。
体色はサンタ服を思わせる鮮やかな赤色だが、甲羅というか背中は黒い。
まあ、アンジェロッドプラス何かで秒殺でしょうあんなの。
「シツちゃんどこ行くの!?」
「えっと、武器を取りに……」
見ちゃダメ見ちゃダメ見ちゃダメ見ちゃダメ。
俺は必死にメツェンさんから目を逸らすよう努力した。
「あれくらいのラスティアンなら素手で倒せるはずよ!」
「でも弱点を直接叩かないと……」
「いいえ倒せるの! 小さいとその分殻が薄いから!」
「そうなんですか?」
「頑張って!」
「おわっ」
カニの方を見た途端背中を押された。
メツェンさんは焦っているらしい。
そんなに慌てる規模の敵でもないって思うのは、
俺がラスティアンに強いAAであり彼女が非AAだからだろう。
カニはジワジワと俺達に近寄り、木々と湯船の間くらいまで来ていた。
「任せてください」
「お願いシツちゃん!」
俺は転ばないようにだけ気をつけながら湯船を回り込んでカニに接近。
すくい上げるように強めの蹴りを入れた。
結果、俺のつま先に鈍痛が加わる。
「いってぇ!」
「シツちゃん!?」
痛むつま先を抱えて浴場を転げ回った。
かたやカニはチリになるどころかひっくり返りすらせずピンピンしている。
メツェンさん、まさか俺に嘘ついたんですか……?
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