エピソード6 生き延びるための弁明

「あら、誰もいないのかしら…」ダウメが首を傾げた。


「そんな訳ないでしょう。きっとまだあの二人、寝てるのよ。…ルーが襲われてないといいけど」


ラポはため息交じりに言った。


「もう、ラポったら…」


クスクス笑いのダウメ。ラポは頬を膨らませて、靴を脱いだ。リビングのテーブルに、摘んできた薬草を並べると、母と共同で、薬を作っていく。


ダウメが火を起こせば、ラポが本に書かれている分量通りに、薬草を混ぜ合わせて煮込んでいく。リビングはたちまち薬草の匂いで充満される。


「ねぇ、何の匂い~?」


ちょうどそこへ、服を着替えて髪を整えたばかりのルーが、ひょっこりと現れた。その間だけ、時間が止まったようだった。


「ちょっと、ルー!何でお風呂場から出てきたの!?」


ラポが劇画のように驚いた顔をしてから言った。


「お風呂入ったからだよ?何、言ってんの?」ルーは首を可愛くかしげている。


「可愛い…。…じゃなくて、誰と?誰と入ったの!?」


ラポは鬼の様な顔で、ルーに詰め寄った。彼女の肩を掴んで、ガクンガクンと音が鳴るかのように揺らした。


「お兄さんとだよ!それ以外に、誰がいるの!?」ルーは姉の手を振りほどいて、息を切らした。


「何ですって!?何もされてないでしょうね?」


「されてないったらぁ!」




※※※



…下の部屋から、二人の少女の言い争いが聞こえる。青年は、ゆっくりと体を起こした。口から何とも間抜けなあくびが出る。


一瞬、誰かに見られたのではないかと慌てて周りを見回すも、誰もいなかったことに、ホッとした。


階段を乱暴な足取りで上がる音、遅れて「待ってよ、お姉ちゃん!」と叫ぶ少女の声がする。


(俺…今日、殺されるかもな)彼は心の中で苦笑した。


何を聴かれても、嘘をつかないことを誓った彼は、部屋のドアが破壊されたことに驚愕して、思わず「ドアー!?」と叫んでしまった。


「おおっ!部屋のドアと、驚いた感情を掛け合わせるなんて、お兄さん、ギャグのセンスもあるねぇ!」


ルーが拍手をしながら、にこやかに言ったが、青年は笑う気になどなれなかった。


少しでも目線を上げれば、ラポが否応なしにステッキを反対の手で叩きながら、鬼になっている。青年は思わず姿勢を正し、土下座をした。


「…何、これ?新しいプレイ?」


「あんたは、黙ってなさい!」


「はーい」


妹とのやりとりを終えたラポは、初めて会った時のように、冷たい眼をして言葉を発した。


「今から出す質問に、イエスかノーの二つで答えなさい。場合によっては、弁明の機会を与えてあげるわ」


「分かりました」頭を下げたまま、青年は答えた。


「一つ目。あんたはお母さんの許可を取らずに、私達のお風呂を勝手に使った」


「イエス」


「次、そのお風呂になぜかルーもついてきた」


「イエス」


「最後の質問よ。あんたは、ルーと一緒に入浴し、彼女の裸を見た!」


感情が高ぶったのか、ラポは最後の言葉を強く言った。


「ノー」と青年は逆に静かに言った。


「…本当に?」


「イエス」


「…説明しなさい」


「はい」


青年は頭を上げようとしたが、「無礼よ!」と言われたので、そのままの状態で、経緯を説明した。


「なるほど…。ルーの説明と一致するわね」ラポは腕を組みながら頷いた。


「信じていただけますか?」


「分かったわ…。でも、もし本当に何かした時は、容赦しないからね」


「分かりました」


言い終わったところでダウメの声がする。


「三人とも、朝ご飯にしましょ?人間君は、お薬飲みに早くいらっしゃい」


「はーい、ママ。ほら、早く着替えなさい」


ラポに急かされながら、青年は急いで服を着替える。最もルーは彼の肉体美を見て興奮しているだけだったが…。


こうしてまた三人での日常を迎えることになる。だがそれは、嵐の前触れの静けさに過ぎなかったのだった…。

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