エピソード4 少女の過去と記憶の断片
ラポから衝撃的な事実を告げられ、驚きを隠せない青年は、どう言葉をかけて良いか分からなかった。そんな彼をおかしそうに笑う彼女は、一呼吸おいてから話し始めた。
「あんた、アルビノって聞いたことはある?」
「アルビノ?…確か、何らかの原因でメラニンが分泌されなくて、肌の色が白くなってしまうっていう病気だよね?」青年は可能な限り知っている情報を話した。
「えぇ、基本的にはね。じゃあ、眼がん皮膚ひふ白皮症はくひしょうⅡ型にがたって知ってる?」
「いや…それは、聞いたことがないな…」
難しい言葉を並べられて、さすがに青年もピンとこなかった。するとラポは、まるで小さい子供に話しかけるように、こんな話を始めた。
※※※
「むかーし昔、ある夫婦に一人の赤ちゃんが産まれました。その家は、代々続く会社の社長の家でした。
父親は、生まれた子供は何が何でも、自分の跡取りや、役員にするのが好きで、その子供の前に生まれた赤ん坊たちも、既に将来は決められていました」
青年は相槌を打った。
「父親と母親は、新しい命の誕生を、大層喜びました。新しい役員が、また出来たからです。女の子と分かれば、早速、将来結婚する許婚を探しました。しかし、その女の子は今までの子供と随分違いました」
「違うというと?」
「その女の子が成長するにつれて、両親は異変に気が付きました。今までの子供たちは、全員髪色が黒か茶髪でした。しかし、その女の子だけは、髪色がキレイなブロンドだったのです」
「ブロンド…金髪ってこと?」青年が尋ねると、ラポはこくんと頷いた。
「両親は急いで病院に行きました。特に父親は焦って、こう言いました。
『先生、早くこのガキを調べてくれ!
もしかしたら、こいつは私の子供ではないかもしれないんだ!』と」
ラポは父親の台詞のところは感情をこめて言った。
「その結果、診断されたのが、さっきの病名でした。ほかの子供と違って髪色が金髪だったり、目の色が黒じゃなかったり、色々と違う所がありました。母親は嘆き悲しみ、父親は大層怒りました。
『こんな奴は、俺の子供じゃない!俺の子供は、何処にも病気がなく、骨一つ、肌一枚欠けてはならない!ましてや、俺の子供は金髪など忌み嫌う色はしない!お前は悪魔だ!この家に災いをもたらす悪魔だ!』と。
その日から、その女の子に対する暴力が始まったのです。
顔にアイロンを押し当てられ、熱湯をかけられ、縛られてから、熱い蝋を垂らされ、何度も何度も叩かれました。女の子の味方は、誰一人いませんでした。母や兄弟、親戚たちも、寄ってたかって、その子をいじめました。
そんな日々が10年続いたある日のこと、その日は、その女の子の誕生日でした。
いつも怖いお父さんとお母さんは、その日はにこにこしていました。
二人は夜に女の子を山奥へ連れて行きました。
そして…その子を崖から、突き落としたのです」
「なっ!?…冗談」
『冗談だろ?』と言いかけた青年を、ラポは「じゃないわ」とばっさり切り捨てた。
「その子は崖から落とされて、気を失いました。目が覚めると、知らない女の人が、彼女を介抱していました。
女の子はパニックになって、『おうちに帰りたい』と、べそをかきましたが、女の人は、首を横に振ってテレビを付けました。
そこには、彼女の写真が映っていて、彼女が崖から落ちて死亡したこと、葬儀が盛大に行われたことが、報道されていました。彼女は死んだことにされ、その子は人間を恨むようになりました。…おしまい」
その少女がラポを表すということは、言われなくても分かった。
青年は戸惑いの息しかつけなかった。慰めの言葉など、今の彼女には通用しないだろう。
「…だから朝、俺に対してあんな事を…」
『私達の前から…消えて?』
そう言って冷笑浮かべていたラポを青年は思い出し、身震いした。
「まぁ、今となってはどうでも良いけどね。あんな両親もどきは」
ラポはため息をついて、吹っ切れたように言った。
「結局あいつら、香典とか、弔慰金とかを元手に、さらに事業を拡大して、今も儲けているみたいだし。私の元・兄弟たちも結婚して、順風満帆。私一人が死んだところで…死んだようにしたところで、痛くもかゆくもないのよ」
ラポは元兄弟という言葉も強調して言った。
「よく『人の命をも金で操れる』とか何とか言っていたわ。
だから私は誓った。…必ず復讐するってね」
空を見上げながら、最後の言葉をまるで独り言のように呟いた彼女は、視線を元に戻した。
「愚痴をこぼして、悪かったわね。…もう寝なさい。明日も騒がしくなるわよ」
彼女はそう言って、一人ベッドへと戻っていった。
青年は動揺を隠せなかった。先ほどのラポの話を聞いて、思い出したことがあるからだ。
(自分は…誰かに襲われたことがある…)
だが、それは誰なのか?
自分が、どういう人間だったかは覚えていないが、少なくとも、誰かに恨みを買われたりすることは無かったはずだ。
息が苦しくなり、世界が回って見えた。頭が割れるように痛んだ。
「ぐううっ!…あああああああああっ!」
青年の叫びが家中にこだまし、彼は悶絶していた。
「ちょっと、どうしたの!?大丈夫!?」
叫び声を聞いて、飛び出してきたダウメの言葉も届かずに、彼は叫び続けた。
頭の中に浮かび上がるのは緑で統一された世界。どこかは分からない建物の廊下で、人間の姿がぼんやりと白く表示され、性別は判断できないが、彼視点でその人物に襲われている映像が映った。
「ああっ!ああああああっ!」
何度目か分からない奇声のような声を出した青年は、そのままばったりと倒れこんだ。
「ちょっと、しっかりしなさい!ねぇ!?」
ダウメの必死の叫びにも、青年はわずかなうめき声を上げるだけだった…。
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