ぼくのお兄ちゃん

月詠嗣苑

第1話ぼくのお兄ちゃん

ぼくのおにいちゃんは、とってもとっても優しいんだ。


だって、僕がパパの大事にしていたガンダムのプラモデルを棚から落として壊しちゃった時も、


「お父さん!これ、壊しちゃってごめんなさい!」


って頭を下げて謝ってくれたし、僕がおトイレじゃないとこで、オシッコしちゃった時もお兄ちゃんは怒らないで、


「次からは間違えんなよ」


って笑いながら片づけてくれた。


だから、ぼくもお母さんに内緒でおにいちゃんの嫌いなニンジンをコッソリ食べてあげたりしてるの。


あと、おにいちゃんがお風邪をひいてガッコをお休みした時も、お母さんに見つからないように、コッソリお傍に行っておねんねしてあげてるんだ。


でもね、最近おにいちゃんが、


「お前も僕たちの言葉が喋れるといいのにな。そしたら、いっぱい喋って、遊んだりできるのに」


って。


『ねぇ、神様?どうして、ぼく達はおにいちゃん達と、お話したり一緒に遊んだり出来ないの?』


ぼく・・・・・


おにいちゃんとお話したり、おっきな乗り物があるとこで、遊んだりしてみたい!!


『ねぇ、神様・・・一度だけ・・・で・・・いいから・・・ぼく・・・』


 


「ねえ、お母さん!おかしいよ!ヒカルなんでこんなに息使い激しいの?お母さん!!」


ん?ここ・・・やっ!やだっ!やだっ!!!


うぎゃーーーーーーーーーーーーーーっ!!!


バタッ・・・


「先生!ヒカルは?」


「多分、気を失っただけですよ。もう、ヒカル君は、おじいちゃんですからね。」


「ヒカル、死んじゃう?」


総太くんは、不安気にお母さんや病院の先生を見上げます。


「いつかは・・・ね。でも、誰もがそうなるから。おっ?目が・・・」


おにいちゃーーーーん!痛かったよーーーーっ!


「ヒカル・・・。おはよ」


「今ので、だいぶ嫌われたかな?」


ふんっ!!僕に痛い事いっぱいしてるくせに!!


「総太、お薬貰ったから。ヒカル・・・」


やっ!お母さんも嫌いっ!


ぼくは、おにいちゃんがいいのっ!!


総太は、ヒカルを胸に抱き、「ありがとうございました」と頭を下げてから、静かに車に乗り、家へと帰る。


「今回も、総太に頼むわ。ヒカルって、意外とカンがいいのよね。お願いね、お兄ちゃん!」


「うん。ヒカル・・・元気になったらまた遊ぼうな!」


うん。僕、眠い・・・


総太は、ヒカルを起こさないようにお気に入りのクッションの上へと寝かし、お気に入りのハーフケットをかけ、優しく背中を撫でる。


おにいちゃん・・・あったかい。


おにいちゃん・・


「あっ。お母さん!僕、遊んできていい?」


ピクッ・・・


「じゃ、夕方には帰ってくるから!」


ピクッ・・・


「いってきまーす!」


総太くんの元気な声と共に、玄関の閉まる音が聞こえます。


「あらあら、ヒカルったら。早く元気になったら、総太とまた遊んであげてね!」


お母さんは、買い物籠を持って、お買い物に・・・


おにいちゃん・・・ぼく・・・


 


「なぁ、たまには大杉神社にでも行かない?」


「あぁ、昔お前があのチビを拾ったとこか!」


「まだあるかな?あの遊具・・・」


総太、隼人、浩平の三人は、やっていたゲームを中断して、通っている小学校裏にある大杉神社へと向かった。


「相変わらず、ボロいw」


「けど、壊れねーよな、ここ」


「うん。」

 

玉砂利を敷き詰められた境内をゆっくりと歩く総太たち。揃いも揃って神妙な顔つきなのは、ここ大杉神社の神を怒らすと大変な話を小さな頃から聞かされてるのと、過去に何度かこの境内で騒ぎまくった日、揃って怪我をした経験があるからだろう。


「おい、あれだな。」


境内の奥にひっそりと現れた小さな児童公園。


「相変わらず、誰も···」

「なぁ、あいつ誰だ?」

「さぁ?」


浩平が指さしたその先には、ブランコの前で佇んでいる一人の少年がいた。その少年が、浩平達の声に気付いたのか、


「お兄ちゃん!」


そう叫び近寄ってきて···


ズザッ···


目の前でコケた。


「だ、大丈夫?きみ···」


総太が、声をかけ少年の服についた土埃を払う。


「うん。大丈夫!これ位へっちゃら!」

「「······。」」

「ならいいけど。これ、貼っとこう。」


少しだけ擦り傷になっていた膝に小さな絆創膏を貼ると、


「ありがとう。お兄ちゃん!」

「総太。お前、弟いた?」

「ううん。いないけど···」


総太、浩平、隼人は、奇妙な顔つきで、目の前でニコニコ立ってる少年を見る。


「それ、なーに?」


少年が、隼人が持っているPSを指差す。


「ゲーム。お前、これ知らんの?」

「うん。知らない。お兄ちゃんなんかいつもうるさいのやってるけど···」

「やる?」


総太が、自ずとPSを差し出し、少年は受け取るも···


「いや、空にかざげても写らんから!」


空高くあげたり、


「ちょ、叩くな」


手でバンバン叩いたりして結局、


「いかん!壊される!」

「だって、動かないよ?それ」

「「······。」」


「あっ!これ何?」


とまた再び、ブランコを指差す少年に、


「ブランコ。お前、これで遊んだことないの?」

「ブランコ?なにそれ?食べ物?美味しい?僕、お腹すいた!」

「いや、あの、だな···っておいっ!!」


少年は、勝手に浩平のバッグからお菓子を取り出し···


「いや、空にあげても···」

「食べたい!これ何?食べ物?」

「「「······。」」」


ガサッ···


「ほら、手出して」


少年の手にポッキーを1本握らせる。


「お前、変な奴だな。」

「きみ、この辺の子?」

「うん。僕、ヒカル!」

「へぇ、うちの猫と同じ名前だ。」

「そういや、そうだな。ちっせーし、チョロチョロして···って、もういねぇ!!」


それでも、どことなく憎めないのは、やはりここが大杉神社の境内だからだろーか?


「次、あれで遊ぶ!」

「······。」

「今度は、これ!喉乾いた!」

「······。」


チョロチョロと動くヒカルを見ては、


「どー見ても···」

「うん···」

「猫みてーな動きだな」


ジャングルジムの一番上から、総太に向かって大きく手を振るヒカル。


「おにぃちゃーーーーんっ!!はーやーくぅ!!」


楽しい!初めてだ!


お兄ちゃんとお話出来てる!


一緒に遊んでる!


僕の夢叶った!



で、夕方までみっちり総太たちは、その少年·ヒカルに遊ばれて···


「じゃ、じゃーなー···」

「うん。ふぁっ···」

「楽しかったぁ!!ね、お兄ちゃん!」


ヒカルが、総太を見上げる。


「うん。僕、もう家に帰らないと···」

「家?おうちのこと?」

「うん···ヒカルが、待ってるから。じゃ、またね!」

「うんっ!僕もおうちに帰らないと、お母さんにメッてされる!!」


総太は、ヒカルと神社の鳥居の前で、別れ急いで家に向かう。


楽しかったな。お兄ちゃん···


『もういいだろ?』


うん。僕、もうお空にいくの?


『うん···。よく頑張ったな、ヒカル』


うん。あの注射は、痛かったけどね。ね、おじいちゃん?


『じゃないがな···。ヒカル、目を閉じろ。何が見える?』


ヒカルが、目を閉じると段々と身体が小さくなり、


お兄ちゃんとお母さんとお父···


ヒカルの身体は、眩しい光に包まれ、吸い込まれるように消えていった。


『これでいい。命あるものいつかは···』



ドサッ···


「嘘だ。だって、あんなに···」

「総太···」

「ヒカル?起きてよ。わざと眠ってるんだろ?僕が、お前を···」

「総太。これは、仕方がないことなんだよ···」


父親がそう語るも、総太の目からは涙が止まる事はなかった。


「だって、あんなに···ヒカル···」


お兄ちゃん?僕ね、お兄ちゃんといっぱい遊んで楽しかったよ!お菓子も美味しかったし、ブランコとかもギッコンバッコンも楽しかったよ!!お兄ちゃん!!


ヒカルを抱く総太の腕に、ほんのりとだがヒカルの身体から温もりが伝わる。


「ヒカルーーーーッ!!」



総太は、その夜、もう鳴いてはくれないヒカルと一緒にベッドに入り、


「なぁ、ヒカル?今日な···」


総太は、泣くのをやめてヒカルの身体を撫でながら、今日神社であった同じヒカルという名の少年とのことを話続けた。



「もういいか?」

「うん。ヒカル?また、くるからね!!」


うんっ!!お兄ちゃん!!

僕、お兄ちゃんの弟で幸せだよっ!!


「ヒカル?お前···。お前は、ずっと弟だよ······」



春の陽射しが、窓からサラサラと部屋に入る···


お兄ちゃん···


ヒカルと出会ってからの写真に囲まれるように、大きなケーキを目の前にしたヒカルを抱く総太と写ってる写真の片隅に貼られた1枚の絆創膏。


その絆創膏についた無数の柔らかな毛···


奇跡って、不思議···

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ぼくのお兄ちゃん 月詠嗣苑 @shion_tsukiyomi01

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