逆人生ゲームはどこまでも続くよ

ちびまるフォイ

説明書はよく読みましょう

「おい! 人生ゲーム見つけたぜ!!」


「うわ、懐かしいわね」

「おい、俺の部屋の掃除手伝えよ」


引っ越しの手伝いで呼んだ友達だったが、

掃除そっちのけでボードゲームをテーブルの上に広げた。


「逆人生ゲーム? なんだこれ。逆ってなんだろうな」


「いいからはじめましょ」


俺たち3人はそれぞれのミニカーをスタート地点に置いた。

その瞬間、自分たちのミニカーにピンが出現した。


「今の……なに?」


「一瞬でピンが出たぞ。ま、魔法かな……?」


「み、見間違いだろ。あははは……」


3人全員が目の前の不思議現象をなんとかごまかそうとしたが、

次に全員の手元に人生ゲームの札束が落ちてきたら、もう言い逃れはできない。


すでにこの「逆人生ゲーム」は、まともなものじゃない。


「ちょっとこれ本物よ!? 本物の札束!!」


「すげぇ! 透かしも入ってる! マジかよ!」


「逆人生ゲームをはじめたから、かな?」


「いきなり金もらえるなんてはじめてだ。

 あ、だから逆人生ゲームなのか。なるほどな」


「きっと、マスでお金を減らしていくんじゃない?

 ゴールの段階で一番お金持っている人が優勝なのよ」


「そうなのかな」

「それしかないでしょ」


逆人生ゲームのマスにはすべてシールが貼られている。

マスに止まった人がシールをはがして、マスの効果はそこでわかる。


普通の人生ゲームのようにどこに良いますがある、とわからない逆の方式になっている。


「っしゃああ! まずは俺から行くぜ!!」


男友達は太い声で駒を進めた。


「あれ? お前の駒、俺よりピン多くね?」


「わっはっは、いいだろ。大家族だ」


男友達のミニカーにはピンがたくさん刺さっている。

女友達のミニカーにもピンがたくさんある。

なのに俺だけわずか3本。


「3人家族か、寂しいやつめ」


「大家族だからっていいものじゃねぇだろ」


「少子化を救う英雄と言ってくれ。わはは」


止まったマスのシールをはがす。


ーーーーーーーーーーーーーーー

【ギャンブルチャンス!】

サイコロを振って出た目の奇数/偶数を当てたら

賭けた金額の2倍をゲットするチャンス!

ただし、負けたら……。

ーーーーーーーーーーーーーーー



「ようし、俺は……全財産賭けるぜ!!」


「ちょっと本気!? こんな序盤で!?」


「男はチャンスと見たら責めるのが吉ってもんなんだよ。来い! 偶数!」


男友達はサイコロを握り、なにやらブツブツと唱え、サイコロを振った。

出た目は奇数。


「あぁーー!! しまったぁ!!」


「ほら言ったじゃない」


男友達の持っていた札束は霧散するように消えていった。


「あぁ……俺の金……」


男友達は名残惜しそうに遠くを見ていた。

札束の代わりに手元には借用書がどこからともなく現れた。

逆人生ゲーム早々に借金しでかすなんて、そういないだろう。


「よし、次は俺だな」


サイコロを振って駒を進める。


ーーーーーーーーーーーーーーー

【お金アップチャンス】

ピンを1本減らすと、200万ゲット!

ーーーーーーーーーーーーーーー


俺はミニカーに刺さるピンを1本抜いて、女友達にサイコロを渡した。


「えい!」


ーーーーーーーーーーーーーーー

【急な引っ越しが決まった!】

費用として10万円失う

ーーーーーーーーーーーーーーー


女友達の手元からお金が消えていった。

お金を増やすではなく減らすから逆人生ゲーム。


「んじゃ次は借金大魔王の俺様だな! サイコロ貸してくれ」


男友達が手を伸ばしたそのとき、男友達の体が消えてしまった。

あまりに突然で、一瞬だったので言葉が出なかった。


「えっ……?」


服すらも残っていない。

楽しく遊んでいる気分は一気に冷えて現実に戻された。

俺たちは今「逆人生ゲーム」という得体のわからないものに参加してしまったということに。


「うそ!? なんで!? 財産使い果たすと消えるの!?」


「俺だって知らないよ!」


この先のマスに何が書かれているかもわからない。

ズルしてめくろうにも、不思議な力でめくることすらできない

やっぱりこのボードゲームは普通じゃない。


「とにかく早くゴールしよう。ゲームさえ終わればもう失うことないし」


「そうね、そうよね」


ゴールに到達すれば、今までのは悪い冗談だったとばかりに

男友達も異空間から何事もなく戻ってくる。そんな淡い期待を信じて進めた。


「じゃあ振るわね」


女友達がマスを進める。


ーーーーーーーーーーーーーーー

【臨時ボーナスが入った!】

ピン1本減らすたびに、500万ゲット!

ーーーーーーーーーーーーーーー


「やった! お金増やせるじゃん!! 抜くしかないでしょ!」


女友達に刺さっているピンの数は、俺とは比較にならないほど多い。

なんでスタート段階からこれだけ差がついているのかはわからない。


女友達はピンをどんどん抜いて所持金をぐんと増やした。


「ふふ、どうやら1位は私で決まりみたいね。

 ここまで差が出たら逆転しようがないもの」


「わかってるよ」


俺はマスを進めて、所持金を失った。

サイコロを渡したとき、女友達に電話がかかってきた。


「もしもし? お母さん? ……えっ?」


みるみる顔色が青ざめていくのがわかった。


「ど、どうしたんだよ? なにかあったのか?」


「今病院から、お母さん、急に消えたって……。

 お見舞いに来ていた妹も、急に消えて……」


「消えたってまさか……」


それは借金になり、消失した男友達と同じ状況だった。


「なんでよ!? 私、所持金残ってるじゃない!!」


「まさか、消えるのは借金じゃなくて

 ミニカーのピンを抜いたからじゃないか……?」


「そんな……!!」


「このミニカーに刺さっているピンは、

 自分の中の親しい人なんだよ……。

 だから、俺がピンを抜いた後、男友達が消えたんだ」


俺は友達が少ない。兄弟はいない。両親も他界している。

だからミニカーに刺さるピンの数は一番少なかったんだ。


「じゃあ私、友達や家族をお金にかえていたの!?

 あんた、そのピン絶対抜かないでよ!?」


「……ああ」


俺のミニカーには残り2本のピンがある。

1本が俺だとすれば、もう1本は間違いなく――。


「俺さ、考えたんだけど」


「どうしたのよ急に。早くこのゲームを止めましょう!」


「これ1位じゃない人はどうなるんだろうな。

 ピンを抜くだけで、親しい人が1人消えるなら

 1位じゃなかった人にはペナルティとかもありそうだよね」


「だから……さっきから何言ってるのよ!?」


「所持金にこれだけ差がついてて、

 俺が1位になる方法って、やっぱりこれしかないんだ」


俺は自分のミニカーに刺さってるピンを1本抜いた。


「待っ――」


一瞬で女友達はミニカーもろとも消失してしまった。

すごろくには俺だけしか残っていない。


「逆人生ゲームってそういうことか。ははは。

 大人数でやるんじゃなくて、どんどん人数が減るから逆なんだな。

 でも、もうこれで俺が最下位になることはない」


一番怖いのは「ピンを抜く」系のマスだが、

ピンを抜くのは強制ではないので無視しても大丈夫。


誰もいなくなった部屋で逆人生ゲームを一歩一歩進めていく。



【友達をなくした!】

最下位の人には100万円プレゼント!


【会社で昇進が決まった!】

1位の人に100万円プレゼント!



マスを進めるたびに、所持金は減るどころか増えていった。

逆人生ゲームは1人だけでやると、最下位であり1位なのでメリット総取りになる。


「……金か」


もくもくとゲームを進めてついにゴールが見えてきた。



【アンラッキー! 事故に遭う!】

これからは1マスずつしか進めなくなる!



「あっぶねぇ。これ1人じゃなかったら、確実に抜かされてたな」


1マス進み、マスのシールをはがす。


【映画上映開始!】

500万であなたの映画が見られます!


「なんだこのマス。こんなのはじめてだ」


どうせ1位確定なのでお金を使ってマスに従う。

逆人生ゲームからウィンドウが開いて映像が流れ始める。


映像にはまだ小さいころの俺や、消えた男友達と女友達がいた。


「懐かしいなぁ……。家が近かったから、毎日遊んでいたっけ」


1マス進む。


【思い出の品発見!】

100万で思い出の品が戻ってきます!


迷わずお金をつかう。どうせ借金になっても1位なんだから。


「これ、俺が友達に貸したとき壊れたおもちゃ……!」


小さいころ男友達に貸した合体ロボのおもちゃ。

荒く扱ったせいで壊れて、大ゲンカになったことがある。懐かしい。

1マス進む。


【思い出の記念撮影!】

200万で思い出を写真に残せます!



もう止まらない。

ゴール時の所持金が減る事よりも、好奇心が上回る。


「修学旅行のときの写真! あのとき、気恥ずかしくて

 1枚も買ってなかったのに、どうして!」


写真には中学生の俺たち3人がはしゃいでいる姿が映っている。

1マス進む。

1マス進む。

1マス進む。


ゴール前の思い出マスのせいで、俺の涙は止まらなくなった。

やっと自分が簡単に抜いたピンの重さを思い知る。


そして、ゴール直前の1マス。



【最後の選択】

所持金の半分を使うとピンが1本戻ります。



続けざまに2本復活させると、所持金はゼロになる。

ゴールしてもなんの見返りもなくなる。


「こんなの……決まってるじゃないか」


自分一人で金を貯めて、幸せになってどうするんだ。

俺はもっと、一緒に幸せになってほしい人がいる。


「使うに決まってるだろ!!」


俺はすべての所持金を失った。

ミニカーに2本のピンが勝手に出現した。


「あれ? ここは?」

「私たち、たしか掃除して……」


2人のミニカーはない。ゲーム参加者にはなっていない。

俺はすぐに自分のミニカーを最後のマスへ移動させた。

早く逆人生ゲームを終わらせるために。


「お、終わった……」


「ちょっと何やってるの? 引っ越しするって聞いて、

 わざわざ部屋の掃除手伝ってるっていうのに

 ひとりでゲームなんかして」


「覚えて……ないのか?」


「なにが?」


復活した2人は逆人生ゲーム開始前の状態になっていた。

これなら、ゲーム中に失った親しい人も戻ってくるだろう。


「よかった。本当に……!」


俺は2人を抱きしめると、ひたすらに泣きまくった。


「どうしたんだよ。今になって引っ越しが寂しくなったのか」

「まぁ、私たち、小さいころからずっと一緒だったもんね」


「ちがう。そうじゃないんだ……そうじゃなくて……!」


それからひとしきり泣き騒ぐものだから、作業は延期になった。

友達が帰った部屋はひどく静かに感じた。


「ホント、最後に復活させてよかったな。

 もしあのままゴールしていたら、ずっとこんな感じで1人だったのか」


逆人生ゲームはもう二度と始めないように燃やしておこう。

開いたボードマップを見たとき、やっと気が付いた。


ゴールマスにも、通常マス同様にめくれるシールがあることに。


おそるおそるシールをめくっていく。




【逆人生ゲームスタート!】

裏面のスタート地点からゲーム開始。

現在の所持金があなたの残りの寿命に自動変換されます。




「逆人生ってそういう……!」


もう手元に金なんて残っちゃいなかった。

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