夢のなかで

猫部猫

狂気は愛で、雑草のようなもの

……嫌になる。

分かっている、これは「夢」だ。

分かってはいるのだが……


やはり“死ぬ”のはなれない


これで何度目だろうか…たしか……3度目…?

まぁいい


兎に角。


両手首を抑えられているこの状況はもう“詰み”確定なのだから抵抗せずに“彼女”に身を任せれば良い。


私を凝視し涎を垂らす目の前の彼女。


髪は白く長い。

瞳は赤色。

細身のくせに力があり得ないほどに強い。


頬を赤く染め、どこから喰らおうかと撫でるように瞳を動かす。


馬乗りにされていて身動きは取れない。

……本当に…何なんだろうか、この怪力は



一度目は右腕を引き千切られた。

彼女はその右腕から溢れる鮮血を見せ付けるように舐め回し━━捨てた。

味見のようなものなのだろうと私は勝手に納得した。


少し痛い感じがした。

夢なのに。


悦を帯びた顔で彼女は私の頭を殴り潰した。


やはり、脳みそが好きなのだろうか?

何て、これも私の想像だ。


あぁ……嫌になる…。


2度目は目玉をえぐりだされた。

右目は手で、左目は口で。


だが、不思議な事に両目が無くとも彼女の姿を見る事は出来た。


まぁ、「夢」だからだな。


彼女は私の目玉をチロチロと舐め、口に含むと舌で転がして遊んでいた。


高揚した顔で楽しそうである事から

彼女はいたぶる事が好きなのだろう。

狂気に染まるその表情は何ともまぁ優越感を漂わせていた。


耳を千切られ、食され、首を舐められ噛み付かれ。

ドクドクと感じる私の「生」を彼女は躊躇うことなく食いちぎった。


蛇口が壊れてしまったかの様に

凍った水道管が破裂した様に


はたまた、公園の噴水の様に……。


私の「生」が溢れる。


彼女は更に興奮し吸血鬼のごとく喉を鳴らして飲んだ。


意識が遠くなる感覚がする。


……今回は“脳みそ”は食べないのか


なんて、そんな事を考えた。


彼女の姿は赤く染まり私を見下す様に私を見つめていた。


……あぁ…嫌になる…。




「ろくな死に方をしていない」

そう言った。

彼女に私の不満を言ってやった。


彼女はニヤニヤと嘲笑う。


恐怖など初めから感じていない、夢だから。


いつものように私は殺されればいい。


ひと呼吸、私は置いた。


溜息に近い呼吸だった。



すると、彼女が言った。



「ねぇ…内臓を見せて?」



悦に浸った顔で言った。

悦に浸った表情でそう言われた。


……まったく、嫌になる…。



彼女がどんなに私をなぶろうとも


どんなに私が殺されようとも


どんなに彼女が私を喰らおうとも



私は彼女を嫌う事が出来ない。



……ああ、まったくだ


彼女の肌が愛おしい。

彼女の髪が愛おしい。

彼女の瞳が愛おしい。

彼女の表情が愛おしい。

彼女の声が愛おしい。

彼女の吐息が愛おしい。


全てが……愛おしい。


だから━━━


私は彼女の問に2文字で返答をする。


彼女が笑う。


彼女が触れる。


彼女に私の「生」が触れる。


愛おしい…愛おしい…愛おしい彼女。


だが……。


あぁ…嫌になる…。



彼女を愛しているのに…

私は彼女を「喰らいたい」と思ってしまう。


喰われる毎に喰らいたいと、その思いが強くなる。


ああ…私も彼女を「喰らいたい愛したい


彼女の「生」を私の「生」にしたいのだ。


願わくば…一口だけでも…


…………………。


気づけば彼女は私の心臓に触れていた。

他の臓器はズタズタに裂かれ肋骨は剥き出し……何となく息苦しい。


肺もやられてしまったようだ。


私の心臓を撫でる。

触れられる度に背中に走る気持ち悪さ。

だが、それも愛なのだ。

それをも愛してしまうのだ。


彼女は嗤う。


心臓を片手で触れながら。



━━これは“夢”だ。

それは、私が一番よく分かっている。


この感覚を全て偽りだと知って尚、私は彼女を愛している。



狂っているのは元から「私」だ。


で、なければこんな夢は見ないだろう?


こんな狂気の塊のような世界を私は愛してしまっているのだ。


「なぜ?」等とは考えてはいけない。


身を委ねれば良い。


だって…そうだろう?



━━━━「狂気」は何時だって知らない所に生えるのだから。


狂気は雑草だ。

知らない内に芽吹かせる。


愛も雑草だ。

知らない所に芽吹いてしまう。



私を喰らう彼女も

彼女に喰らわれる私も


知らない内に

知らない所で

芽吹かせてしまった

狂気」だ。



彼女が私の心臓を口に入れる。

…笑みがこぼれてしまうだろう?


これは夢だ。



だから

たまには

彼女のことも

「食べさせて欲しい…」


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夢のなかで 猫部猫 @nekobe_neko

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