ほしぞらみあげて

金色の句読点と静かな声


              

 今日はお月様のいない夜。

 かばんちゃんは夜行性のけものじゃないから暗いところは全然見えないんだって。

わたしには『暗いところは見えない』ってどういうことかわからなかったんだけど、目をつぶって歩くのとおんなじぐらいって言われてビックリした。

「それじゃあ夜はあんまり歩けないね」と言ったら「だから僕、夜はだいたい寝ているでしょう?」って教えてくれたから昼行性ってそういう事なんだってわかった。

 それでもライトの明かりに照らされている場所は見えるし、お月様が一番真ん丸な日は夜更かしして遊んだりすることもあるんだ。でも、やっぱり危ないからお昼の時よりはちょっとおとなしめだけどね。


 夜はほとんど寝てしまうかばんちゃんだけど、きょうしゅうを出てから夜も起きてる時が増えた。

 それは今日みたいにお月様の出ない夜。

どうしてって聞いたら「フェネックさんみたいに方角を知りたいんだ」って。だから、かばんちゃんは一番お星さまが見える日はずっと起きていて、フェネックやボスにお星さまの見方を教えてもらってる。

 私も横で聞いてるよ。でも、フェネックが教えてくれるのはわかるんだけど、ボスが教えてくれるのはちんぷんかんぷんで何をいってるのかさえわかんない。かばんちゃんもちょっと難しいって言ってた。難しいってわかるだけでもすごいな。

 アライグマは星にはあまり興味ないらしい。星は手に取ることができないから、とか。その後、負け惜しみなのか本当にそう思っているのか「星はアライさんの手の中より空にある方が良いのだ」って踏ん反りがえってた。

 かばんちゃんにその話をしたら、「僕は地面を歩く星、よく見かけるよ」って。珍しく冗談を言うねって言ったら「サーバルちゃん達は見えすぎてて気づいてないみたいだけど、みんな夜は目が光ってて僕にはその光だけ見えるから、まるで星が地面を歩いてるように見えるんだよ」なんて笑ってた。そんなとても素敵なことを言われたから、うれしい気持ちが抑えられなくって辺りを飛び跳ねてちょっとはしゃいじゃった。

 それから、ずっと一緒に空を見ていたんだ。


 最初に見ていた星が気付けばだいぶ左の方に動いてたのに気づいた頃にかばんちゃんが「もしかして飽きちゃった? 休憩に日記でも読む?」なんて言ってくれた。星を見ることは全然飽きてはいなかったけど、日記を読んでもらうことは好きだからお言葉に甘えることにした。

 あっちこっちを何か探ってたアライグマを呼ぶと素直にやってくる。今日はあんまりいいものが見つからなかったみたいだ。見つかっててもその手に持ってるものが本当に『いいもの』なのか私にはわからないことも多いんだけど。

 

「ええっと、どこまで読んだっけ?」

「確か偽サーバルの名前が決まったところだったかな?」

「ギンギツネの記憶喪失を治すために温泉を探すところだったのだ」

「確かにそのあたりでアライさんは寝ちゃってたねー」

「じゃあ、そこからですね、サーバルちゃんとフェネックさんは二回目になっちゃうけど良い?」

「かまわないよー」

「いいよ! みんなが酔っぱらっちゃう所は楽しいし」


 私と同じサーバルキャットのフレンズが書いた日記を読んでもらう。昨日も聞いた二回目の同じ話だけれどそんなことは全く気にならない。勿論、日記の内容も楽しかったり素敵なことだったり信じられないほど驚くような事が書いてあって面白いというのもある。

 けれど、それだけじゃなくて、一生懸命日記を読んでくれてるかばんちゃんには悪いから秘密にしているけれど、実は日記の内容を聞くことより日記を読むかばんちゃんの声を聞くのが私は好きだったりする。

 夜の下で明かり代わりになってるボスに照らされながら、ポツポツと日記を読むかばんちゃんの声は、いつも聞く声より静かな声でそれが辺りに広がるのが心地よくって静かな気持ちになる。眠いのとは違って、眠くなる時もあるにはあるんだけれどそうじゃなくてなんと言えばいいのかわからない。言葉や文字を覚えればちゃんと言い表せるのかもしれないけれど…それはいいかな。まだ、かばんちゃんの声で日記を聞いていたいから、だから、今は言い方はわからなくっていいや。




               〇





 「あ、起こし ゃっ ? ごめ ね、 寝  良い 」    


 静かな声が耳を少し揺らしたような気がしたから目が覚めた。

 言っていることは、もうだいぶわからなくなっちゃってる。まだ、内容は大体わかるけれど。バビルサから先に聞いててわかっていたことだけど、それでも怖い。このまま何にもわからなくなっちゃうの、怖いし寂しい。

 私が怖がってるのに気付いちゃったみたいで、かばんちゃんが私の頭を何でてくれた。


「心  らない 。明日に  薬  きる ら、  飲 で治そ ね」

「うみやぁん」


 きっと声からして多分何かいいことが明日にはあるんだろう。今はこの手が気持ちいいから頬を擦り付けた。少し、怖いのが落ち着いた気がする。フワフワと頬を撫でてくれる手が、さっき見てた夢を思い出す。あの声を聴いているときに感じる静かな気持ちと今のこの暖かい手に感じるものが同じ気がした。かばんちゃんなら何て言うのかわかるのかな。かばんちゃんは頭のいいフレンズだからすぐにわかるんだろうな。でも、なんでだか自分でもわからないけど、どうしてだか自分で答えを見つけたいんだ。


「  サーバル。 起きて の 。 ょうどいい 。アライさん特 お ゆを食べ のだ! あと、わる どフェ ックを起こ てくれ   ?」


 アライグマがお鍋を片手に何か言ってる。多分料理ができたとかそんなことを言っている気がする。アライグマは意外と料理上手だ。火が怖くなくなるのが一番遅かったのに不思議な気がする。火に慣れようとして火の中に手を突っ込んで火傷していたから火になかなか慣れないのは不思議ではなかったけど。


「あ 、じゃ 僕  こしま よ」


 かばんちゃんが私の隣で寝ているフェネックを起こす。ご飯を食べる時間みたいだ。

 体を起こされて小さい木箱が前に置かれて、さらにそこにアライグマがおかゆの入ったお皿とスプーンを置いてくれた。おかゆは多分、非常持ち出し袋に入ってたやつだ。その上に何か色々のっていた。じゃぱりまんものっかっている。おいしいのかなこれ? 

 疑いの目でアライグマを見ようとしたけど、アライグマはフェネックに所に向いたままで私には背を向けたままだ。アライグマはアライグマでフェネックが心配なのはわかるけど、私はこの料理の味が心配だよ。


「 ふっ、じ  りま が入って   のは病気 サン ス ーが減っ  てるか それ 補う めに入れ る   から心配しな  も ゃんとおい いよ」


 かばんちゃんは自分の持ってるお皿にからおかゆをじゃぱりまんの皮と一緒に掬って食べてる。笑ってるからまずくはなさそうだ。

 私もおかゆを食べようとスプーンを持とうとしたんだけど、アレ? あ…どうしよう…スプーンの持ち方がわからないよ。昨日まで持ててたのに。どうしよう。どうして。スプーンを無理に取ろうとして落としてしまった。なんでできないの? だってできたのに。できてたのに。


「  バルちゃん。落ち着 て。大丈夫  。でき いのは 気のせい よ。 日には    うになる 。それ  来  も平気だ 。 が食  の手伝 ね」


 かばんちゃんはスプーンを持って私の枕元に座った。お皿からおかゆを掬うとそれにふうと息を吹きかけてをかばんちゃんは口を大きく開けながらスプーンをこちらに差し出してきた。食べてってことかな。私はそれをゆっくり食べた。


「ち  と食 れた !」


料理を食べただけでも笑ってくれたのがうれしかった。

アライグマの作ったおかゆはちゃんとおいしかった。






     ◆


あくしまについて10日目、

大型セルリアンに襲われて3日、イピリアから移動してオピオーンに来て2日になる。

 サーバルちゃんの病状は悪くなるばかりで不安を掻き立てられる。

 バビルサさんが言うには一番重症なのはサーバルちゃんで次いでフェネックさんだ。

今はまだ二人とも言葉がわからない、不安を感じるぐらいで済んでるみたいだ。

けれど二人とも熱や咳、鼻水と色々な症状で苦しそうだ。見てる方がつらくなってくる。バビルサさんにどうにかできないか聞いた見たけど今の所養生させる以外ないと当然のことを言われた。ソレもそうだ。できることはもうない。ただ待つしかできない。

 

 ついでに注意をされた。

 コワイコワイ病でこそないけど、アライさんも僕も体調を崩しているから油断しないようにと。確かになんだか食欲も出ないし眠りも浅い気がする。サーバルちゃんたちが心配で気がかりなのが理由だと思っていたのでソレも理由の一つかと納得する。言われてみればアライさんも時折コンコン咳込み鼻水をすすっている。雨の中、水に浸かっていれば体調も悪くなるだろう。ちょっと気づけてなかった。反省。

だけど、ちゃんと治すことに専念するのにはまだ時間がかかりそう。


明日には薬ができる。その薬を飲めば薬の副作用でしばらく眠ったままになるらしい。その間、悪いことが起きないようただ願うしかない。

 あのセルリアンは貯水槽にいた中型のセルリアンを食べつくしてから姿を現していない。

 もしも二人が寝ているときにやってきた時どうすればいいか考えておく。

 

 やっぱりバスの電池を爆発させるのが一番いいだろうか? ラッキーさんに相談してみよう。



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