2 花の活けられた机
翌日――心に空洞を抱えたまま美邦は登校した。
二日も休めば、さすがに心も落ち着いてくる。それに、居候の身でありながら休み続けるのも気が退けてしまう。何より、詠子とあまり一緒にいたくないという気持ちもあった。
いつもの丁字路に差しかかる。
由香は勿論のこと、幸子の姿もない。
普段ならば、少なくとも幸子のほうが先に来ているはずであった。
まるで転校して初めての日のようだ。先日の幸子の姿を思い出し、美邦は寂しさを覚える。
しばらくのあいだ、美邦は丁字路で幸子を待っていた。
彼方には、やはり紅い燈台と港の姿が望める。その城壁のような防波堤の向こうには、常世の国があるような気がしてならない。もし本当に常世の国があるのならば、由香もまたあの向こうにいるはずだ。
いくら待っても幸子が来なかったので、美邦は一人で学校へと向かう。
教室へ這入ると、由香の机の上に花が活けられていた。浅葱色の陶磁器に、瑞々しい百合の花が咲いている。亡くなったその席の持ち主の代わりと言わんばかりに、百合の花は静かに活きている。
あはははは――と狂ったような笑い声が聞こえてきた。
声のするほうへ目を遣ると、笹倉が登校して来たところであった。
「天罰だ! 天罰だ!」
笹倉は鼻歌を歌いながら、わざとらしく美邦の席の前を横切ってゆく。
誰もが――何も見ていないような顔をしていた。
芳賀の言うとおり、笹倉は頭が少しおかしいらしい。
それから始業時間になっても、幸子は登校してこなかった。朝学活の最中、鳩村は幸子が体調不良により欠席することを伝えた。
教室中が沈んでいた。由香と関係のない人々も、その日はやたらと静かだ。かつて興味本位で由香のことについて訊ねてきた者達も、今は気まずそうな表情をしている。元気なのは笹倉だけだ。
その日は結果的に、昼休憩までほとんど誰とも会話を交わさず過ごした。
全ての時が、静かに流れているようであった。
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