第2戦 救世主誕生?
「痛ってて……。ここはどこなんだよ」
目が覚めて入ってきた光景に俺は驚いた。
一面の緑!山!
なんじゃこの田舎は。
「そういえば俺は、あの時車に跳ねられてたような」
慌てて身体を調べるが、何ともない。
手もある。足もある。
左の脇腹にも傷一つない。
そればかりか、鞄も無くなっていた。
「よかった~」
ではない! 俺は模試に遅刻してしまう! 駄目だ! 夢の皆勤賞も夢のまた夢に! ああ!案の定時計も無くなってる!
「あの。大丈夫ですか?」
「へ?」
目の大きな黒髪のロングな女性が、後ろから声を掛けて来た。
服は……着物? いや、教科書で見たような服だが。
「いや、あのですね! なんかさっき車に轢かれまして! そうしたらいつの間にか、ここに来てしまった訳なんです!」
「じゃあ、あなたが!」
女性は顔をぱあっと明るくすると、手を拝むように合わせてほほ笑んだ。
「こちらに来てください! みなさ~ん! 見つかりましたよ~!」
急にこんな可愛い人から手を引かれるなんて!
いやあ、世の中悪いことの後には良いこともあるもんだよね。
そりゃあ、そうじゃないと世の中つり合いが取れないってものよ。
「おう! 例の野郎が見つかったっていうのかい!」
「こっちかい! よう見つけたあ!」
「どれどれ、おー! こいつかあ」
え、なんだこいつら……。
こちらは打って変わって鎧を身にまとった連中。しかもむさいだけのオッサン。
筋肉はすごくあるのが、ここから見てもよくわかる。
鎧の真ん中には、丸の中に「一」という漢字が書いてある。
(ってことは、ここは日本なんだよね……)
「ちょっと悪いな、乱暴なことするぜ」
「あ、いや乱暴なことはやめ」
と言ったところで、腹のやや上のあたりに鈍痛を感じたと思った瞬間。
俺は軽く落ちていた。
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「痛ってて……。いきなり殴るこたあないでしょうよ! いきなり!」
と、とりあえず場当たり的な突っ込みをしたは良いが腹の痛さはまだ残っている。何か今日はやけに傷を負っている気がする。今日、なのか分らないんだけども。
「それは済まないことをしたな」
「いや全く! 本当に痛いんだからこっちは!」
視界がようやくはっきりすると、その景色がまたしても異様なことに気付く。
なぜか立派な座敷があり、一段も二段も上の場所に胡坐をかいている人がいる。
背筋は真っすぐとしているが、その顔は優しそうで近所の気の良いおじいちゃんといった感じだ。
俺は少し気付いた。この人……お方はたぶん凄い身分なのではないか。そしてその目の前に俺はいる。
「おい。貴様、殿に対して良い口の利き方だな」
ほら! 殿っていうた! 絶対に触れたらあかんかったやつだ!
というかここは最早、日本ではないのか? 座敷にしても、奥の刀にしても和風な感じはするのだけれど……。って刀はまずいだろ!
「あ、いえ……、その」
俺は後ろを、恐る恐る振り返る。
顔は丸く、だるまの様であるが目の力までそれに似ている。身体も豪快で、いかにもといった体風である。
「まあ、そう言うな。
「はは、申し訳ありませんでした」
あの怪物をあんな簡単に操っとる……。
あと自分の後ろ、左右に数名の部下とおぼしき人が座っていた。
「改めて済まないな。私はこの
「あ、これはその……大層なお名前でして。ビューリフルネームであります!」
「あ? ああ。どうじゃ、まあそう怖がらずに、な?」
当主様が近づいてくる。
威圧感がすごい! 迫って来るが、そのオーラというか発光しているみたいだ!有名人なんてテレビにたまーに出るオネエタレントしか生で会ったことないのに!
立派な白髭に、にこやかな笑顔……
にこやかな……
「あああああああああ!」
「あ、気付いちゃった?」
「あなた! 今朝俺を車で轢いたあの老人じゃないか!」
「あちゃ~、早かったな~、看破されちゃったよ」
「されちゃったよ、じゃないでしょ!」
「ですから私はまだ直接会うのはやめましょうと言ったのです」
源治と呼ばれた人も、全てを知っているといった感じであった。
それから後ろの方でも「ほらみたことか!」などと声が挙がっている。
「いやいや、ちゃんと貴殿に説明するから!」
「聞きますよ! 早く! 簡潔に述べて下さい!」
「実は、我が聖真国は一大事なのじゃ。二つの国、
「え……、という事はやはりここは元いた世界とは違うんですか……」
「うむ。わしが朝、先祖に祈っておるとな。声が聞こえた。すると知らぬ世界に来ていて、何やら座っていた。足を乗っけて踏み込むと動くものだと教えられてな」
「それ、車ってやつですよ」
「ああ、そうなの? その車に乗って、3人目にすれ違った者に声を掛ければ優秀な軍師が手に入る! とその声は言うんじゃよ。で、思いっきり踏み込んだ」
「ほう! するとすると!」
「お主がいた!」
「それから!」
「気づいたら、わしの布団に戻っていて何事もなかったんじゃな」
「ちげーよ! 俺を轢いたんだよ! え、なにそれ! 神さまの意見何一つとて成功してないんじゃないの?」
「いや、そんなことはない」
「俺って、何人目にすれ違った人なの?」
「最初!」
「ほらみろおおおお! やっぱり人違いじゃないか!」
「わ、悪かったって! でも、もしやこちらに来ているのではと、人を遣わして領内を探索させたのじゃ」
「だからってあなたねえ! あなた笑ってたでしょ! 当たる時に!」
「いやあ、だってどうしようもねえから」
当主、と呼ぶにはふさわしくない照れ笑いを浮かべる。
「そ、それで俺をどうしようって言うんですか……」
恐る恐る聞いてみる。
人違いなのだから、不必要とあらば斬られるかもしれない、その奥のブツで。
そうなったらやばい。こんな辺境の地で……。
こほん、と晴義当主が息をついた。
心臓がバクバクしている。
「わしの軍師として採用しようと思う!」
後方の配下たちから、おお、と声が挙がった。
「お、俺は軍師なんて認めとらんからな!」
にやにやしながら、源治さんが言い放った。
こんなツンデレは嫌だ!
なぜか俺は期待を一身に背負ってしまうことになってしまった。
とりあえず、目を瞑ろう。そうしたらまた帰れるはず!
しかし、その願いむなしく話は進んでいき、俺は晴れて軍師として乱世に放り投げられてしまうのだった。
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